栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 自転車外傷の疫学/慢性副鼻腔炎の薬物療法/脳出血後の至適血圧/たこつぼ型心筋症の臨床像/SGLT2阻害剤とグルカゴン

■JAMA■

自転車外傷の疫学 
Bicycle trauma injuries and hospital admissions in the united states,1998-2013*1

 自転車外傷は十分報告もされていないこともあり、疫学不明である。今回米国の100以上のERのデータを1998-2013年まで集めて、自転車外傷の経時的変化を調査しています。

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(本文より引用)

 結果、自転車外傷の件数は約2倍になり年齢調整発生率も28%増加、自転車外傷入院も約2倍になっています。外傷別では、頭部外傷と体幹部外傷が増え、四肢の外傷が減っています。また、45歳以上の自転車外傷が増加している事も分かってきています。あとはやはりスポーツサイクリングが増えて、異常なスピード走行による外傷が増えている傾向でした。自転車乗りが安全に走行出来るシステムや啓蒙活動も必要ですよね。

✓ 自転車外傷は経時的に増加傾向で入院するような重篤な外傷が多くなっている


慢性副鼻腔炎の薬物治療 
Medical therapies for adults chronic sinusitis*2

 慢性副鼻腔炎に対する治療についてのレビューです。また、要点を中心に箇条書きでまとめていきます。コモンな疾患の割にきちんと対応されていないことが多いのが問題でしょうか。
・sinusitisというよりはrhinosinusitisが表現として適切か。副鼻腔と鼻腔は連続的で区別は困難。
・疾患はとてもヘテロで色々な疾患が包括されている可能性
・Phenotypeとしては、鼻ポリープの有無で区別することが多く、「鼻ポリープあり」と「鼻ポリープなし」はタイプが違う。
・近年、biomarkerで分類するendotype分類に注目が集まっている。好酸球主体のIL-5などが関与するタイプと好中球主体のタイプがある。
・慢性副鼻腔炎定義は3ヶ月以上持続する副鼻腔炎症状。症状で多いのは鼻炎・鼻汁・味覚障害。
・慢性副鼻腔炎QOL低下や睡眠障害と関連する。
・一般人口の3-7%が罹患していると言われる
治療の第一選択は、生食洗浄+局所ステロイド
・鼻ポリープを小さくするのはステロイド内服もしくはドキシサイクリン内服。
・鼻ポリープありでは、ロイコトリエン拮抗薬が鼻症状を改善
・鼻ポリープなしでは、マクロライド長期内服がQOL改善
・抗ヒスタミン薬のエビデンスはほぼなく使用を推奨する根拠は不十分。
・上記保存的治療で困難であれば外科的治療を検討する。

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(本文より引用)

✓ 慢性副鼻腔炎の治療エビデンスを押さえておく必要あり


脳出血後の至適血圧 
Association between blood pressure control and risk of recurrent intracerebral hemorrhage*3

 脳出血既往の患者で慢性期にどの程度の血圧コントロールにしたら良いかの明確な基準はありません。通常の140/90mmHg以下で良いのかも実は良く検証はされていないわけです。一方での脳出血再発は再発時の方が重症になるため、再発をしないように管理することが重要になります。今回、脳出血後患者さんの血圧コントロールと再発の関連を観察研究で検証しています。
 論文のPECOは、

P:1994-2013年に米国MGHに入院した全脳出血患者
  退院後3・6・9・12ヶ月後、以降6ヶ月後にfollow
  小脳出血除外、外傷・大動脈瘤・出血性梗塞など除外
E/C:①sBP・dBP、②適切な血圧か、③JNCでの血圧Stage
O:脳出血再発
T:前向きコホート研究/単一施設
結果: 
 まず脳出血発症2197人のうち834人は90日死亡で除外。
 基底核出血が640人、皮質下出血が505人
 平均年齢は基底核 68歳、皮質下 73歳、男女比はほぼ50%
 プライマリアウトカムは
 ①sBP 10mmHg上昇につき 基底核出血 HR 1.54(1.03-2.30)、皮質下出血 HR 1.33(1.02-1.76)
  dBP 10mmHg上昇につき 基底核出血 HR 1.21(1.01-1.47)、皮質下出血 HR 1.36(0.90-2.10)
 ②不適切血圧は、基底核出血 HR 4.23(1.02-17.52)、皮質下出血 HR 3.53(1.65-7.54)
 ③JNC stage 正常をreferenceにすると、
 前高血圧:基底核出血 HR 3.06(1.07-8.78)、皮質下出血 HR 2.76(1.32-5.82)
 高血圧Stage1:基底核出血 HR 3.88(1.31-11.61)、皮質下出血 HR 3.90(1.36-11.17)
 高血圧Stage2:基底核出血 HR 6.23(0.90-42.97)、皮質下出血 HR 5.21(2.74-9.91)

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(本文より引用)

 ということで、血圧が高いと再発が多いという至極当たり前の結果。ただ、興味深いのはJNCのprehypertentionって、120-139/80-89mmHgなんですが、この値でも有意脳出血が多いってことです。もっと下げた方が良いという解釈もできなくもないです。というわけで、こんな先行研究をうけた上でRCT組もうね〜っていう流れ。

✓ 脳出血後の慢性期の血圧は比較的低めにコントロールした方が再発が少ない可能性がある

 


■NEJM■

たこつぼ型心筋症の臨床像 
Clinical features and outcomes of Takotsubo(Stress) cardiomyopathy*4

 1990年に初めて症例報告されてから25年が経過したものの未だ症例理解は十分とは言えない状況です。一過性の左室収縮能不全で、triggerが指摘されていますが、なくても発症する事があります。ACSとの鑑別が難しく、β遮断薬が有用かも知れないが、確立された治療は無い。今回International Takotsubo Registryなるレジストリーが25施設9ヵ国対象であり、1998-2014年までの症例を前向きに検討して臨床像を明らかにする観察研究の結果が報告されていました。
 
 診断基準は、Mayo clinicの基準を満たす症例とされ、診断に迷う微妙な症例では専門医複数名でのコンセンサスで診断決定していました。症例対照研究的な指標として、ACSレジストリーでリスクマッチされたACS症例とたこつぼ症例で予後比較しています。
 全部で1750人のたこつぼ型心筋症の症例が解析対象でした。89.8%は女性で、平均年齢66.8歳、胸痛 75%、ST上昇 43%、神経精神疾患既往が47%、トリガーなしは全体の28%院内死亡は4%でした。
 ACSとの比較では、有意差があったのは胸痛・CK値・ST低下・左室収縮能・冠動脈疾患がACS有意に多い、一方、BNP値・脈拍数・神経精神疾患たこつぼ有意に多い。たこつぼ型心筋症には実は様々なタイプがあることが分かっており多彩。

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(本文より引用)
 治療については、多変量解析によるとRAS系阻害薬が入っていると予後が良い結果。βは予後とは関連せず。

✓ たこつぼ型心筋症は30%弱はトリガーなしでも発症し予後は比較的良い


SGLT2阻害剤とグルカゴン 
Type 2 diabetes, SGLT2 inhibitors, and glucose secretion*5

 糖尿病の内服薬は数多く出ており、メトホルミン以外はどれも血糖を下げると言う点では大きな違いはなく、副作用の違いで薬剤選択をすると言っても過言ではないかもしれません。SGLT-2阻害薬が新規発売されていますが、発売前から尿路感染症や脱水などかなり副作用が危惧されるとされています。今回、今まで言われている副作用だけでなく新たにグルカゴンとの関連が判明しました。

 実はSGLT-2は膵臓のα細胞にも存在する事が判明し、SGLT-2を阻害することでグルカゴン値が上昇するというのです。これがSGLT-2阻害薬による血糖低下効果があまり強くないことの原因かもしれないとされています。まだ病態生理的な話なので、今後実際にSGLT-2阻害薬がグルカゴン値の上昇や血糖上昇、有害事象との関連がないかどうかを臨床研究で検証する必要があります。

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(本文より引用)

 上記の結果を受けて、SGLT-2阻害薬を使用する場合に、グルカゴンを低下させるようなSU剤やGLP-1製剤との併用をと提唱している人達もいますが、逆にそうまでして使うのか?という疑問も出てきます。また、別の視点として、SGLT-2阻害薬は尿糖が上昇し、脱水や頻尿などのいわゆる糖尿病関連の症状を改善させないどころか、悪化させる薬剤になる可能性もあります。糖尿病治療の大きな目標は、合併症予防と症状の改善であり、合併症予防のエビデンスがない今、症状も改善し無いどころか悪化させる可能性があるSGLT-2阻害薬を現時点で積極的に使用する根拠は全くありません

✓ SGLT-2は膵α細胞に存在し、SGLT-2阻害薬使用がグルカゴン上昇→血糖上昇に繋がる可能性がある