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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet RIAT再解析による思春期うつ病への抗うつ剤効果/男性の握力・自転車こぎと心血管イベント/顔面神経麻痺レビュー/オリバーサックス訃報/長時間勤務と冠動脈疾患・脳卒中との関連

BMJ Lancet 論文 臨床研究 薬剤 精神 循環器 医学統計 耳鼻 神経 訃報

BMJ

RIAT再解析による思春期うつ病への抗うつ剤効果 
Restoring study 329:efficacy and harms of paroxetine and imipramine in treatment of major depression in adolescence*1

 BMJのRIAT活動については以前も取り上げたことがありますが、要は未発表データの公表を要求して研究によって報告された効果を適切に評価するために活動している団体です。今回そのRIATが初めて完全にデータ公表させて以前に報告されていた臨床研究の再評価を行った研究が出ていました。

 2001年JAACAPにパロキセチンとイミプラミンの思春期うつ病に対するRCTが行われ、パロキセチンが効果があると言う結果が報告されていました。しかし、そのデータの信憑性が以前から指摘されており、RIATも再現する必要があるmisinformed studyと認定していました。しかし、発売元兼studyを行ったGSKは問題視しておらず、「これは正確な評価だ」としてなかなかデータを出してくれなかったそうです。今回GSKから77000ページにも及ぶ生データを取り寄せてRIAT主導で解析を行っています。そもそもoriginal articleでは明記されているプロトコール以外の手法でデータを取り扱っていた形跡があるのですが、今回は論文中に示されているプロトコール通りに解析を行っています。
 論文のPICOは、

P:12-18歳のDSMⅢによる大うつ病の患者でHAM-D≧12かつ既往なし275人
I:パロキセチン4週間 20mg、効果無ければその後4週間で60mg、②イミプラミン4週間 200mg、効果無ければその後4週間300mg
C:プラセボ
O:①HAM-Dの減少、②8週時点でのresponder(HAM-D≦8点 or HAM-D 50%以上低下)
T:RCT/ITT解析
結果:
 平均15歳、うつ罹病期間 14ヶ月、HAM-D 19点(0-52点)
 ①HAM-D減少:パロキセチン 元解析 -12.2点→今回の解析 -10.7点、イミプラミン  元解析 -10.6点→今回の解析 -9.0点、プラセボ  元解析 -10.5点→今回の解析 -9.1点
 ②8週時点でのresponder:パロキセチン 元解析 80.6%→今回の解析 66.7%、イミプラミン  元解析 73.2%→今回の解析 -58.5%、プラセボ  元解析 65.2%→今回の解析 55.2%
 副作用は、心血管系:パロキセチン 元解析 5人→今回の解析44人、イミプラミン 元解析 42人→今回の解析130人、プラセボ 元解析 6人→今回の解析32人など有意に新解析の方が多い結果だった。

 なかなか難しい研究ですが、ザックリ言えばちゃんとデータを出していなかったものを掘り起こしてみたら、臨床効果も微妙でかつ副作用も過小報告されいました〜と言うことです。editorialでも少し触れていましたが、これからはデータはむしろオープンにして、多くの研究者がそのデータを様々な方面から使用することでより多面的に研究が出来るというのが理想なのかなと思いました。これが成功しているのは1型糖尿病研究のDCCTなんだそうです。

✓ RIATがデータ掘り起こしを行い再調査した結果、パロキセチンの思春期うつ病への効果は限定的でかつ副作用も多いことが判明した


男性の握力・自転車こぎと心血管イベント 
Exercise capacity and muscle strength and risk of vascular disease and arrhythmia in 1.1 million young Swedish men:cohort study*2

 握力関係は先日もLancetに報告されていましたが、今回は心血管リスクとの関連を調査したSwedenの大規模観察研究です。運動は心血管イベント予防に有用である一方で、激しい運動は心房細動や徐脈などのリスクが高くなると言われています。今回は筋力と心臓血管イベントについての観察研究です。
 論文のPECOは、

P:1972-1995年の徴兵されたスウェーデンの男性112万人(18歳時)
E/C:自転車こぎ(high/lowの2群)、握力(high/lowの2群)
O:①CVDイベント、②不整脈(心房細動・心房粗動・徐脈他)
T:前向き観察研究/follow up期間平均26.3年
結果:
 握力と自転車こぎは心血管疾患発症と負の相関を認めた。
 自転車こぎは不整脈とはU字の関係
 両方低いlow/lowと両方高いhigh/highを比較すると心血管疾患はHR 0.67(0.65-0.70)と有意に低下。不整脈はHR 0.92(0.88-0.97)と低下するが効果はわずか。

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(本文より引用)

 握力は心血管イベントも不整脈も減少させるが、自転車こぎは不整脈を増やす可能性があるところに注意というところでしょうか。

✓ 握力や自転車こぎ能力が高いと低い人と比べると心血管イベントや不整脈が少ない


顔面神経麻痺レビュー 
Assessment and management of facial nerve palsy

 BMJの比較的さらっとしたレビュー。分量的にはちょうど良いのですが、若干物足りないこともありますでしょうか。今回も箇条書きで。
・何はともあれまず第一ステップとして脳卒中や他の重篤な疾患の除外が出来ているかが重要である。
・本文には非常に分かりやすいフローチャートあり。

f:id:tyabu7973:20150929004616j:plain
(本文より引用)
・顔面神経は顔面の表情筋の運動線維舌の2/3前方の感覚繊維を司っている。
・顔面神経麻痺の診断は比較的容易だが重要なのは上位運動ニューロン、下位運動ニューロンどちらの問題かを明らかにすることである。
下位運動ニューロンによる顔面神経麻痺の原因を調べるための評価のポイントとして、以下の✓ポイントあり。
①耳鏡による評価で外耳道は問題ないか?
 →急性/慢性中耳炎や悪性外耳道炎が原因になり得る
聴覚障害があるか?
 →Weberテスト・Rinnneテストを行う。Ramsay-Hunt症候群は聴覚障害と関連。小脳橋角部腫瘍の除外は重要。緩徐発症な聴覚障害の原因になる。中耳炎や真珠腫性中耳炎も聴覚障害Bell麻痺は聴覚過敏が起こるかもしれない
③皮疹があるか?
 →鼓膜や外耳道・耳朶・口腔内に小水疱が出来るとRamsay-Hunt症候群を疑う。Lyme病では全体の70%に特徴的なBullseye様紅斑を四肢・体幹に来す。
④頭頸部に傷や瘢痕があるか?
 →頭蓋底骨折後に顔面神経麻痺を来す事があり、多くは眼窩周囲や下顎骨折など。その他は耳下腺・顎下腺・舌下腺手術後。
⑤角膜反射はどうか?
 →顔面神経麻痺に加えて小脳橋角部病変では、角膜反射の減弱・消失を認める事がある。
⑥乳様突起の痛みや腫れはないか?
 →乳様突起の疼痛や腫脹は中耳炎や急性乳様突起炎で見られる。
⑦唾液腺の腫脹はないか?
 →唾液腺内で触知可能な者として悪性腫瘍があるので考慮。
・治療については、Bell麻痺であればステロイドが有効。Cochraneの8RCTの結果では、72時間以内の使用で完全回復 77%、対照群は67%。見方を変えれば、10人中7人治るところが、10人中8人治る。
・投与方法は、RCTを元にすると、50mg × 2回 10日でも60mg × 1回 5日でも同等の効果。
ステロイド副作用はメタ解析ではプラセボとあまり変わらないが、そもそもRCTではコントロール不良な糖尿病などは除外されている。
抗ウイルス薬はメタ解析ではmarginal effectのみ。しかもlow qualityな研究を含めての結果であり、基本Ramsay Huntで無ければ積極的には用いない。

✓ 顔面神経麻痺についておさらいしておこう

 


■Lancet■

オリバーサックス訃報 
Oliver Sacks*3

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(本文より引用)

 有名なオリバーサックスさんが亡くなりました。オリバーさんは英国の神経学者で、オックスフォード大学を卒業してカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研修医になります。父は総合診療医、母は外科医だった様です。オリバーさんの業績は神経疾患で著明なのですが、何よりも患者の体験に主眼を置いた著書が注目を集めていました。その正確な描写は多くの人から評価されており、

「Parkinsonismやmovement disorderに関する観察・描写に関して、Gowers以降彼に勝るものはいない」

と評される程でした。その観察のためには様々な努力を惜しまなかったようで、伝統的な医師・患者関係を超えて、患者の家に食事をしに行ったり、一緒に仕事をしたりして、彼らと生活を共にする中で多くの発見をしたとの事でした。

 最も有名なのはレナードの朝で、1916-1927年に流行した睡眠病による意識障害患者をレボドパで覚醒させることに成功したことを書いています。それ以外にも、「妻を帽子とまちがえた男」「火星の人類学者」など多くの著書を残しています。

レナードの朝 (サックス・コレクション)

レナードの朝 (サックス・コレクション)

 
妻を帽子とまちがえた男 (サックス・コレクション)

妻を帽子とまちがえた男 (サックス・コレクション)

 

  最近のMRIなどの画像診断の進歩に対して警鐘を鳴らしており、臨床症状が最重要である事を何度も繰り返し述べており、2012年のLancetへのコメントでも

「Case history mustn't die!!」

という熱いコメントを残しています。享年82歳、8/30に癌でお亡くなりになりました。

✓ レナードの朝の著者オリバーサックスさんがお亡くなりになりました


長時間勤務と冠動脈疾患・脳卒中との関連 
Long working hours and risk of coronary heart disease and stroke: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data for 603838 individuals*4

 これは産業医的な視点ですね。長時間勤務は脳卒中など心血管疾患のリスクを高めることは広く知られているものの、今回はかなり大規模な観察研究を集めたメタ解析によりその効果が検証されています。
 論文のPECOは、

P:労働時間と心血管疾患発症との関連を調査した25個の観察研究
E/C:労働時間
O:冠動脈疾患・脳卒中の発症
T:観察研究のメタ解析
結果:
 ①冠動脈疾患
  ベースラインに冠動脈疾患のなかった60万3838人が対象。
  平均8.5年follow upで4768人が冠動脈疾患を発症。
  労働時間標準群(35-40時間)と比較して長時間労働群(週55時間以上)は有意に冠動脈疾患リスクが上昇(HR 1.13:1.02-1.26)
 ②脳卒中
  ベースラインに脳卒中のなかった52万8908人が対象。
  follow up中に1722人が冠動脈疾患を発症。
  労働時間標準群(35-40時間)と比較して長時間労働群(週55時間以上)は有意脳卒中リスクが上昇(HR 1.33:1.11-1.61)だった。
  脳卒中に関しては用量反応関係があり、時間が長くなる程発症が多くなった。

 なるほどー。脳卒中の方がより労働時間との関係が明確ですね。気をつけないと、過労による脳卒中というのはあり得る訳ね。週55時間ってことはですね。週休2日として、一日11時間ということになります。朝7:00から病院に行っている我々は18:00には帰れないとだめ・・・。40時間って8時間労働だから朝7:00にいったら15:00に帰宅です!良い生活だ〜。

✓ 55時間以上の長時間労働は冠動脈疾患と脳卒中発症に有意に関連する