栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:多発筋炎の診断/慢性静脈機能不全の治療/機能性視床下部性無月経の診断

MKSAPまとめです。
やや遅れ気味ですが、解くのは早くなってきました。

多発筋炎の診断 
Diagnose polymyositis

❶症例 
  60歳男性が8ヶ月前からの進行性の全身の筋力低下があり、椅子から立ち上がることが困難とのことだった。時折発熱と筋肉痛、手の腫脹はないが痛みを伴った。15年前に橋本病と診断され、内服薬はレボサイロキシンのみ。
 身体所見では、体温 37.4℃、BP 128/76mmHg、Pulse 72bpm、RR 18/min。皮疹なし。両側上肢と下肢の近位筋有意の筋力低下を認めたが、遠位筋の筋力低下はなかった。
 滑液包炎は合併しない近位指節間関節の疼痛あり。
 血液検査では赤沈 56mm/h、血清CK値1149U/L、TSH 2.0μU/mlだった。
 筋電図では神経症ではなく筋肉の活動性を認める。近位大腿部の筋生検の結果では、筋内膜にリンパ球浸潤を認めるが筋繊維は問題なし。血管周囲浸潤や封入体、縁取り細胞なども認めなかった。

 この患者の最も適切な診断は何か?
A. 皮膚筋炎
B. 橋本病に伴う筋炎
C. 封入体筋炎
D. 多発筋炎

 ❷多発筋炎
 本患者の症状から最も疑われるのは、多発筋炎であり、急性〜亜急性発症の近位筋優位の筋力低下があり、発疹や遠位筋筋力低下がないのが特徴である。残念ながら筋電図は多発筋炎とその他の炎症性筋疾患を確実に鑑別することは難しい。筋生検が特発性炎症性筋疾患の診断のgold standardである。病理学的組織では、リンパ球優位の白血球の筋浸潤と再生、壊死が認められる。特徴的な浸潤パターンや細胞マーカーによって、多発筋炎・皮膚筋炎・封入体禁筋炎を鑑別できる。
 多発筋炎患者の筋生検の結果が特徴的で、多くの場合筋内膜にCD8陽性のT細胞浸潤を認めるが、MHC-1発現筋組織は障害されない。筋生検が筋肉構造を破壊する局所の炎症を来たし筋生検結果に影響がでることがあるため、重要な事は筋電図を試行した同側の筋生検を行わないことである。

❸他の鑑別疾患
皮膚筋炎:皮膚筋炎は、特徴的な発疹(ヘリオトロープ疹や肩・頚部・前胸部に認められる光線過敏性発疹など)やGottoron徴候(角質増殖した赤い丘疹と骨突出部のプラークなどの特徴的な所見を伴う炎症性筋疾患である。筋生検結果では多発筋炎と異なり、CD4陽性T細胞の血管周囲および筋周囲への浸潤が認められる。

甲状腺機能低下症:甲状腺機能低下症に関連した筋症状は、本症例はTSH正常であるため考えにくい。更に本患者の筋生検結果は炎症性疾患を示唆している。

封入体筋炎:封入体筋炎は高齢者でよく見られ、近位筋・遠位筋共に侵されやすい。典型的な筋生検結果は、多発筋炎に類似しているが、縁どり空胞と赤い封入体があり、炎症の程度によってはアミロイド沈着も微小に認められる

Key Point
✓ 特発性炎症性筋疾患を診断するためのgold standardは筋生検である。

Chahin N, Engel A. Correlation of muscle biopsy, clinical course, and outcome in PM and sporadic IBM. Neurology. 2008;70(6):418-424. PMID: 17881720

 

 

慢性静脈機能不全の治療
Treat chronic venous insufficiency

❶症例
  65歳男性が3年前から、下肢の不快感と色調変化、局所の腫脹と掻痒感を主訴に外来を受診された。症状は徐々に進行性で、夕方や長時間立位後に症状は悪化し、下肢を挙上すると改善する。外傷や深部静脈血栓症の既往はない。他に症状は無く既往疾患も無し。内服薬もなし。
  身体所見では、バイタルサインは正常でBMIは27。心肺聴診は異常なく、末梢動脈触知も良好。皮膚所見は以下。罹患皮膚に触診での圧痛はない。

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(MKSAPより引用)

この患者で最も適切な診断はどれか?
A. 弾性ストッキング
B. ジクロキサシリン
C. フロセミド
D. パッチテスト

 ❷慢性静脈機能不全
  本患者で最も適切な初期治療は、20-40mmHg程度の圧力による膝上弾性ストッキングである。慢性静脈機能不全症は静脈機能不全や閉塞による持続的な静脈圧亢進が原因である。慢性静脈機能不全の症状は、浮腫・皮膚色素沈着・うっ滞性皮膚炎・静脈瘤・皮膚脂肪硬化症・蜂窩織炎・潰瘍などである。診断は通常病歴と身体所見で為される。生検は治癒不良な潰瘍を来す可能性があり避けるべきである。内服薬は確認すべきであり、カルシウム拮抗薬やチアゾリジン系薬剤は浮腫を来す。治療のゴールは、下肢挙上や圧迫によって静脈圧を軽減することである。可能であれば下肢挙上が推奨されるがPAD患者や非代償性心不全患者では避けるべき。

 ❸他の選択肢
抗菌薬:局所および経口抗菌薬は二次性感染が疑われる場合には考慮する。本患者はバイタル正常で、発熱や疼痛、皮膚発赤や熱感などの皮膚症状の急性変化がなく、感染を積極的に示唆する所見に乏しい。

利尿剤:利尿剤は下肢の浮腫だけを選択的に軽減することはないため、体液過剰がある患者でのみ使用すべきである。本患者では体液過剰は疑われない。

パッチテスト:パッチテストはアレルギー性の接触性皮膚炎を疑う場合に考慮すべきである。接触性皮膚炎は皮膚バリアが消失し、軟膏などの処方が無されるとその合併症として見られることがある。蜂窩織炎との鑑別は難しく、発赤・掻痒感・小胞・水疱を来す。

Key Point
✓ 慢性静脈機能不全に対する最も適切な初期治療は下肢挙上とストッキングでの圧迫である。

Wolinsky CD, Waldorf H. Chronic venous disease. Med Clin North Am. 2009;93(6):1333-1346. PMID: 19932334

 

機能性視床下部性無月経の診断
Diagnose functional hypothalamic amenorrhea

❶症例

 28歳女性が、5ヶ月間の無月経で来院した。過去には正常月経は来ており、食事は健康的に摂取しているが、仕事でのストレスが増えている。運動はしていない。既往歴・家族歴共に特記事項無く、内服薬は飲んでいない。

 身体所見では、体温 36.8℃、BP 110/70mmHg、Pulse 60bpm、RR 10/min、BMI 23だった。視野、甲状腺触診、骨盤診察は異常なく、皮膚所見では顔面に軽度ざ瘡あり。乳汁分泌は認めなかった。
 検査所見では、FSH値が4mU/mlで、プロラクチン 14ng/ml、TSH 1.3μI/mlだった。hCGは陰性で、プロゲステロンテストによって消退出血は認めない。下垂体MRIは正常だった。

 本患者の現在の病状を引き起こしている最も疑わしい病原体はどれか?
A. 機能性視床下部性無月経
B. 多嚢胞性卵巣症候群
C. 原発性卵巣機能不全
D. 潜在性甲状腺機能低下症

 ❷機能性視床下部性無月経
 本患者で最も可能性が高いのは機能性視床下部性無月経である視床下部性無月経の原因は、悪性リンパ腫やサルコイドーシスなどの腫瘍や浸潤性病変など多岐に渡る。最も一般的なのはストレスや過度の体重減少、過剰な運動による機能性であり、除外診断が基本になる。
 本患者ではFSH低値で、TSH・プロラクチンは正常、hCG陰性でプロゲステロン試験で消退出血が起きないことは、全て視床下部性無月経を示唆する。下垂体MRIで腫瘍や浸潤病変は除外されており、仕事のストレスが強いことから、機能性視床下部性無月経の診断に至った。

 ❸鑑別診断
 多嚢胞性卵巣症候群多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、本患者では軽度のざ瘡程度で高ゴナドトロピン血症を示唆する所見がないため否定的である。さらに、本患者ではプロゲステロン試験で消退出血がないため、患者が低エストロゲン状態にある事を示唆している。PCOS患者では典型的にはエストロゲン値は十分あるが無排卵周期であることが無月経の原因であり、プロゲステロン試験で消退出血を来す。
 原発性卵巣機能不全
原発性卵巣機能不全は、本患者ではFSH値が正常から否定的である。通常卵巣機能不全ではフィードバックでFSH高値となる。
 潜在性甲状腺機能低下症潜在性甲状腺機能低下症はTSH正常から考えにくい。

Key Point
✓ 機能性視床下部性無月経の診断は、低エストロゲンの病態の除外、精神・身体的ストレス、FSH正常〜低値、プロゲステロンテスト陰性などによって診断する

Gordon CM. Clinical practice. Functional hypothalamic amenorrhea. N Engl J Med. 2010;363(4):365-371. PMID: 20660404

 

MKSAP 16: Medical Knowledge Self-Assessment Program

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MKSAP for Students 5

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