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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 撤回論文の特徴/BMJ論文がイグノーベル賞に選出/追加適応の根拠論文の内容/胆石性軽症膵炎での早期胆嚢摘出術 PONCHO研究/腹部正中創部縫合間隔 STITCH研究

BMJ Lancet 論文 医学統計 EBM おもしろ 診断 消化器 外科

BMJ

撤回論文の特徴 
Frequency of discrepancies in retracted clinical trial reports versus unretracted reports:blind case-control study*1

 世の中にはmisinformedな論文が多い割に意外と撤回論文は少ない現状があります。残念ながらretracted相当でありながらそのまま出ている論文も多く、また過去に読んだどの論文が撤回されたかなどもよほど大きな話題にならないと分からないという側面もあります。

 今回、Pubmed撤回された論文をランダムに50個ピックアップし、それにペアとなる同じジャーナルかつ撤回されていない論文をコントロールとした症例対照研究を行い、合計100本の論文を評価して、論文中のエラー数(論理的・数学的な矛盾)をアウトカムに検証しています。結果はグラフの通りなのですが、合計479カ所のエラーが指摘され、撤回論文の方が実に2.7倍エラーが多い結果でした。撤回論文の84%に何かしらのエラーがありました。逆に撤回されていない論文の92%はエラーが10個未満でした。特に有意な差が出たのは、「事実の不一致」「統計学的エラー」「p値なし」でした。

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(本文より引用)

 というわけで、まあ当たり前っちゃ当たり前なのですが、最終的に撤回される論文はそもそもの内容自体がプアーだということですね。これを見抜けるようになるのが臨床医にとっては必要か。もしくはもうきちんと吟味された論文のみを読む(ACPJCとかね)のが良いのかもしれません。 

✓ 撤回された論文には明らかに論理的・数学的なエラーが多い


BMJ論文がイグノーベル賞に選出 
The BMJ wins Ig Nobel prize for speed bump diagnosis of appendicitis*2

 今年もイグノーベル賞が発表されており、日本人もまた今年も受賞し9年連続だった模様ですね。今回日本人は医学賞として熱烈なキスによって花粉症などのアレルギー反応が少なくなると報告したのだとか・・・まあ、それは良いとして、BMJ的には以前紹介した2012年BMJクリスマス特集の、病院入り口のバンパーを通るときに痛みがあったかどうかが虫垂炎の診断に有用であると発表した研究が診断医学部門としてノミネートされていました。実際に会場で演じたみたいで、相変わらずのイグノーベルっぷりを発揮しておりましたね。

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(本文より引用)
 
 それ以外にも、今年は色々あって、賄賂を拒否した警察官に対してボーナスを支給することにしたバンコク警察の経済的効果を検証したものや、体のどの部分を刺されると最も痛いかを実際にハチに刺されてみて検証した生理学・昆虫学賞など、目白押しでした。まあ、皆様興味があったら是非見てみて下さいませ。

✓ 2012年BMJクリスマスのバンパーを通るときの痛み誘発による虫垂炎診断がイグノーベル賞を受賞
 

追加適応の根拠論文の内容 
Characteristics of efficacy evidence supporting approval of supplemental indications for prescription drugs in United States, 2005-14:systematic review*3

 これもまたBMJっぽい論文。薬剤に新規に適応症が追加されることは比較的良くありますよね。それによって処方数が明らかに増える薬剤もあります。基本的には適応追加も元々の薬剤認可適応も同様なのですが、追加適応の方が時間が早いことも分かっており、そもそも本当にきちんとした根拠を共に適応追加が為されているかを検証しています。
 論文のPICOは、

P:2005-2014年までにFDAが追加認可した全適応論文295件
I/C:
O:①対照群の有無、②プライマリアウトカム
T:ステマティックレビュー
結果:
 適応追加で多いのは、「別疾患への適応(137件)」で、次いで「適応修正(93件)」、「適応患者層の拡大(65件)」だった。
 ①対照群が置かれた研究は、別疾患適応は全体の30%、修正は51%、患者層拡大で11%だった。
 ②臨床的に重要なアウトカム設定は、別疾患適応は全体の32%、修正は30%、患者層拡大で22%だった。

 ということで、追加適応の根拠論文は対照が十分おかれておらず、臨床的に重要なアウトカムも設定されていない。甘いのでは?!と突っ込まれておりました。追加適応の方が処方数が増える可能性があるのであれば、そちらもきちんとチェックすべきでしょうね。

✓ 適応追加の根拠論文は対照が十分おかれず、臨床的に重要なアウトカムも設定されていない

 


■Lancet■

胆石性軽症膵炎での早期胆嚢摘出術 PONCHO研究 
Same-admission versus interval cholecystectomy for mild gallstone pancreatitis(PONCHO): a multicentre randomised controlled trial*4

 今回のLancetはひたすら外科特集でした。外科の比較的コモンな疾患も実は質の高いエビデンスは少ないと言う状態があり、今回オランダやノルウェーなどを中心に論文が報告されていました。まずは胆石性膵炎に対する胆摘の研究から。過去には観察研究の結果から、胆石性膵炎の胆摘時期は6週間後と推奨されていましたが、十分な根拠があるとは言えない状態でした。そこで今回ランダム化比較試験での検証が行われています。
 論文のPICOは、

P:初回の胆石性膵炎で48時間以内に退院予定が決まった266人が対象
  経口摂取可能、CRP<10、鎮痛剤使用なしが条件
  軽症膵炎の定義は、臓器障害・局所合併症なし。胆石性は画像で石もしくは胆泥、総胆管拡張あり、ALT2倍以上など比較的緩い基準
I:早期手術群(3日以内)
C:待期的手術群(25-30日後)
O:6ヶ月以内の胆石関連合併症と死亡
T:RCT/ITT解析あり
結果:
 平均54歳、女性60%、胆石疝痛既往が30%、ランダム化前乳頭切開 30%、ランダム化前平均入院日数 5日
 ランダム化後実際に手術が行われたのは、早期手術群で1日、待期手術群は27日。
 プライマリアウトカムは、早期手術群 5%、待期的手術群 17%、RR 0.28(0.12-0.66)と有意に減少
 膵炎再発と胆石疝痛有意に減少、手術合併症頻度は両群で有意差なし

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(本文より引用)

 というわけで、早めに手術をした方が膵炎再発と胆石疝痛が少ないということが分かりましたねえ。膵炎直後に手術をするのはちょっと・・・という意見もありそうですが、合併症頻度も変わらないことから比較的安全に早期手術が可能ということになりそうです。国際ガイドラインでも初回入院中の手術を勧めていますし、今後は全体的に早期手術の流れになるのは隔日だとは思います。これを見ると、ますます外科疾患だよなあ・・・と思ってしまいますが。なかなか胆石発作や胆嚢炎でも早期手術にならないですもんね。
 
✓ 軽症の胆石性膵炎に対する早期手術は、待期的手術と比較して再発性膵炎や胆石疝痛有意に減らす


腹部正中創部縫合間隔 STITCH研究 
Small bites versus large bites for closure of abdominal midline incisions(STITCH): a double-blind, multicentre, randomised controlled trial*5

 これも興味深いなあ。術後の腹壁瘢痕ヘルニアは10-23%程度で発症する合併症として知られていますが、時に致死的になる事もあり、起きない方が良いわけです。そうなると術後の創部縫合とヘルニアの発症頻度の関連が気になってきます。過去のメタ解析では、断続縫合よりも連続縫合の方がヘルニア発症が少ないことは分かっていますが、今回は縫合の間隔が広い場合(large bites)と狭い場合(small bites)でヘルニア発症が変わるのかを検証したRCTです。
 論文のPICOは、

P:18歳以上の待期的手術患者560人、正中切開で開腹手術を行った患者を閉創15分前にランダム化
I:縫合間隔狭い群(創縁から5mmのところから5mmおきに縫合)
C:縫合間隔広い群(創縁から10mmのところから10mmおきに縫合)
O:1 年後の創部ヘルニア頻度(全例ルーチンで診察・エコー)
T:RCT/ITT解析あり
結果:
 平均63歳、手術は下部消化管が50%、上部消化管 30%、婦人科 14%。
 創部距離は平均22cm、縫合時間は間隔狭いと10分、間隔広いと14分
 プライマリアウトカムは、縫合狭い群 13%、縫合広い群 21%でOR 0.52(0.31-0.87)と有意に縫合間隔が狭い群がヘルニアが少なかった
 周術期合併症には両群の差は認めず

 非常に興味深い結果です。まあ予測可能といえばそうですが。狭く縫合した方がヘルニアが少ないと言う結果でした。解釈に注意が必要な点として全例ルーチンでエコーをしてしまうので、症候性の臨床的に注意が必要なヘルニアだけでなく、本来は放っておいても問題ないようなヘルニアも全てカウントしてしまっている可能性があることでしょうか。発見されたヘルニアの47%は画像診断のみで指摘され、overdiagnosisの可能性があります。

✓ 開腹手術後の閉創時に、縫合間隔を5mm間隔にすると10mm間隔よりも術1年後の創部ヘルニアが少ない