栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:AIM & NEJM 妊婦さんの鉄欠乏性貧血スクリーニング/スタチンによるGCAとPMR/プリンペランⓇでジストニア/橈骨動脈穿刺での仮性動脈瘤/急性疾患での輸液療法

■AIM■

妊婦さんの鉄欠乏性貧血スクリーニング 
Screening for iron deficiency anemia and iron supplementation in pregnant women to improve maternal health and birth outcomes: U.S. preventable services task force recommendation statement*1

 若い女性の鉄欠乏性貧血はよく見ますが、妊婦さんでもそれなりにありますよね。妊娠糖尿病に関わるようになって、妊婦さんの内科問題について結構考えるようになりました。甲状腺機能とか地雷ですよね。で、今回AIMでは妊婦さんのIDAスクリーニングについてのUSPSTFの見解がシステマティックレビューとして出てました。というわけで箇条書き。
・USPSTFの結論としては、現時点では妊婦さんに鉄欠乏性貧血のスクリーニングを行うことは根拠不十分
・周産期合併症や新生児アウトカムへの効果が十分証明されていない
・妊娠中にIDAスクリーニングをしたり鉄サプリメントを飲んだりするのは、原則周産期合併症予防や新生児アウトカムの改善が主な目的である。
・1999-2006年までの米国のデータでは妊婦さんの鉄欠乏の頻度は18.6%、貧血の頻度は16.2%と言われている
・経済的に収入が少ない方やマイノリティでは頻度が高くなる
・早期にスクリーニングを行う事のメリットを証明した研究はほぼない
・スクリーニングはフェリチンなどではなくHb/Htで十分。むしろフェリチンは妊娠後期には欠乏が無くても少なくなることに注意。
・鉄は内服すると血清鉄やフェリチンは上昇するが、周産期や新生児への影響は不明
・早期発見の害についても言及した研究がほとんどない。
・多くの妊婦がサプリメントを通じて鉄分を摂取している。

f:id:tyabu7973:20151012074207j:plain
(本文より引用)
 
✓ 妊婦さんに対する鉄欠乏性貧血のスクリーニング効果は十分検証されていない


スタチンによるGCAとPMR 
Giant cell arthritis and polymyalgia rheumatica after reexposure to a statin: a case report*2

 スタチンは心血管疾患の予防のために用いられ安全性は比較的高い薬剤ですが、筋痛や筋炎・横紋筋融解症・筋力低下などの筋症状が出る事は副作用としてしられています。
 症例報告なので簡単に紹介を。78歳女性が2003年12月に臀部と肩の筋痛および朝のこわばりを主訴に外来を受診。脂質異常症があり、アトルバスタチン 10mg/日を9ヶ月間内服し、高血圧でカンデサルタン8mg/日、ビソプロロール 2.5mg/日を内服していた。採血ではESR 61mm/h、PLT 48.7。PMRと診断され、スタチンは中止された。その後ステロイドなしで症状は徐々に改善し、5ヶ月後にはESR 13mm/hまで改善。
 2006年2月、LDLコレステロール高値でロスバスタチン5mgが開始された。その後PMR症状が再燃。同時に視野障害と側頭動脈の疼痛も訴えるようになった。側頭動脈生検では、リンパ球・好中球・好酸球・巨細胞の浸潤が認められ、血管内腔の狭小化が認められました。ESR 95mm/h、CRP 23.8で、巨細胞性血管炎とリウマチ性多発筋痛症と診断された。ロスバスタチンを中止し、PSL 40mg/日が開始された。その後数ヶ月掛けてPSLを減量し炎症反応は著明に改善した。
 2008年6月にPSL治療が終了となった。数ヶ月後、GCA・PMRが再発。今回の再発はスタチンによるものではなかった。ステロイドを再開し、2009年2月になくなるまで再発はなかった。
 
 うーん、これはスタチン誘発性というべきかは悩ましい所ですね。過去の報告だとHLA-DRB1*04アリルが関係するという報告もある様です。また、PMR患者の16-21%がGCAを合併しています。初回のPMR症状はスタチン中止のみで改善してはいるわけですよね。スタチン誘発性PMR・GCAの機序はよく分かっていないのだそうです。

✓ スタチン誘発性と思われるGCA・PMR合併例の症例報告あり
 

 


■NEJM■

プリンペランⓇでジストニア 
An acute dystonic reaction after treatment with metoclopramide*3

 NEJMの症例報告。プリンペランⓇも結構色々ありますよねえ。さらっと症例要約を。
 21歳女性、甲状腺癌で甲状腺全摘とリンパ節廓清。術後2日目に、部を伸展させ、開口、眼球の左方偏視を認めるようになった。挺舌などの従命には応じることは可能。彼女は術後の嘔気のためにメトクロプラミドを処方されており、10mg×2回/日を2日間内服していた。症状は最初に内服した24時間後から出現し、徐々に増悪。経静脈的ビペリデン(抗コリン薬)投与が行われ、症状は数分で改善した。メトクロプラミドは中止され、その後ジストニックな症状は出現しなかった。

f:id:tyabu7973:20151012074358j:plain
(本文より引用)

 メトクロプラミドによるジストニアの症例報告でした。小児や30歳未満で多く見られ、用量30mg/日以上の高用量で使用した場合がリスクであると言われています。患者さんは今後メトクロプラミドを使用しないように指導され退院。なるほどねー。メトクロプラミドによるアカシジアは見たことがありました。結構注意が必要です。

✓ メトクロプラミドは稀にジストニアを発症させることがある


橈骨動脈穿刺での仮性動脈瘤 
Pseudoaneurysm after transradial coronary angiography*4

 NEJM症例もう一つ。昔血液ガス採取後でこんな合併症の方がいましたねえ。
 81歳女性。1ヶ月前から右手首付近に、巨大で無痛性、拍動性のある腫瘤が出現し、徐々に増大傾向。患者には高血圧と僧帽弁弁膜症の既往があり、バイアスピリンと降圧薬・スタチンを内服していた。1ヶ月前に冠動脈造影検査が行われ、検査時には4フレンチのシースが使われ、シース抜去後は機械的な止血術が行われた。超音波で腫瘤を確認した結果で、橈骨動脈の仮性動脈瘤と診断した。

f:id:tyabu7973:20151012074516j:plain(本文より引用)

 仮性動脈瘤は比較的稀な疾患で、冠動脈造影検査時の合併症としても知られている。仮性動脈瘤が出来やすい要因として、シースの径、同部位の複数回穿刺、抗血小板薬や抗凝固薬の使用、経過中の予期せぬ出血、血管周囲の感染などが報告されている。患者は仮性動脈瘤の手術を受け退院。退院後1週間、2ヶ月共に元気だった。

 ということで、怖い話でしたね。頻度は少ないですが、見たときにはピンと来る様にしておきましょう。

✓ 橈骨動脈の仮性動脈瘤は、冠動脈造影後に起こり易い合併症の一つ


急性疾患での輸液療法 
Maintenance intravenous fluids in acutely ill patients*5

 輸液のレビュー。特に急性疾患の輸液についてもの申したい方々のレビューです。初期輸液というだけではなく、急性疾患の治療入院中の輸液に関する意見と思って下さい。今回も箇条書き方式でざっくりと頂きます。
・急性疾患で入院中の輸液速度や成分についての推奨は世界的コンセンサスはなく、臨床医によって違うのが現状。
・小児でも成人でもよく見られるのは低張液の輸液をダラダラと繋ぐというやり方。これをやっていると医原性低ナトリウム血症を起こしやすくなります。
・ちなみに上記医原性低ナトリウム血症による死亡例も100例以上報告あり
・急性期には多くの要因でAVP上昇があり(以下)、低張液だと低ナトリウム血症を来しやすくなります。

f:id:tyabu7973:20151012074614j:plain

(本文より引用)

・例えば、ビーフリードⓇ 1000ml×2本/日みたいな輸液は、以前は推奨された時代もあったみたいですが、それが推奨された時期はSIADHという概念が知られる更に前の1950年代だったもようです。
・上記方法をきちんとValidateした研究はなく、完全にopinion based recommendationとなっています
・低ナトリウム血症については、入院患者の15-30%が低ナトリウム血症と言われています。AVP亢進症例にダラダラと低張液をいっていることが原因です。致死的になりえることもありこれはpreventable deathだと。
・低ナトリウム血症の症状は非特異的で、頭痛・嘔吐・筋力低下などでNa値と症状は必ずしも相関しません。歩行障害→転倒・骨折の経過を辿ることもあり、輸液内容は重要になってきます。
・小児領域では以前からガイドラインなどで警鐘が鳴らされていますが、なかなか成人には浸透せず
・では低張液では無く、等張液を使えば?という話題はあったのですが、当初は高ナトリウムやNa overloadが危惧され、controversialでした。
・ところが15以上のRCTで等張液は比較的安全で等張液より低ナトリウム血症は少ないと言う結果に。
・おそらくたいていの入院患者では等張液がベスト。低張液はなにも疾患がない人には良いかもと。溢水の人もNaを制限するというよりは用量を減らせという方向性に。もちろん自由水そのものが必要な病態もあります。
・ただし、多くの等張液の研究では、短期間しか見ていない、心不全・腎不全・肝硬変は除外されていることなどに注意が必要。
・リンゲル液などの調整された等張液 vs 生理食塩水はRCTはなく、今後に期待されているものの、最近生理食塩水のCl毒性が注目されたり、代謝性アシドーシスからAKIを起こしたりするリスクが報告されています。
・以下が筆者らの輸液推奨です。

f:id:tyabu7973:20151012074842j:plain

(本文より引用)

✓ 急性期疾患の入院中の点滴で低張液のみで構成するのは避けよう。医原性低ナトリウム血症を来しやすくなる