栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet ガイドライン推奨薬への併存疾患の影響/妊娠中の飲酒/自宅看取りがベストか?/ピロリ菌ワクチン/治療抵抗性高血圧にスピロノラクトン追加

BMJ

ガイドライン推奨薬への併存疾患の影響 
Association between guideline recommended drugs and death in older adults with multiple chronic conditions population based cohort study*1

 multimorbidityにどの様に対応していくかというテーマの論文です。今回米国Medicare加入者の調査結果を利用して観察研究が行われました。65歳以上の20026人の中で、今回対象となる併存疾患のうち2つ以上を合併(Multimorbidity)している患者8578人が対象です。この方々が処方されている薬剤と死亡との関連を、併存疾患の組み合わせでどのように変わるかを検証しています。
 論文のPECOは、

P:65歳以上のMedicare加入者で2疾患以上の併存疾患がある
E/C:各種薬剤・薬剤無し群(対象患者の10%以上が内服しているガイドライン推奨薬)
O:全死亡
T:後ろ向き観察研究
結果:
 平均77歳、女性 58%、平均薬剤数10剤、最も多い罹患疾患は高血圧 92.2%、脂質異常 77.0%、あとは、糖尿病・冠動脈疾患が40%前後、心房細動・うつ病心不全が20%前後
 内服最多薬剤はRAS系阻害薬 53.5%、スタチン 53.1%が両巨頭。あとはβ遮断薬 46.5%、CCB 32.8%
 平均24ヶ月 follow up、15%が死亡
 ①β遮断薬 
  疾患のみでみると、心房細動・冠動脈疾患・心不全・高血圧患者で有意に死亡を減少
  併存疾患でみると、冠動脈疾患+脂質異常+高血圧の組み合わせに心房細動、糖尿病、心不全有意に死亡を減少したが、うつ病+冠動脈疾患+脂質異常+高血圧では死亡は有意差がつかなかった
 ②スタチン
  疾患のみでみると、冠動脈疾患・糖尿病・心不全患者で有意に死亡を減少
  併存疾患でみると、冠動脈疾患+脂質異常+高血圧の組み合わせにうつ病、糖尿病、心不全有意に死亡を減少したが、心房細動+冠動脈疾患+脂質異常+高血圧では死亡は有意差がつかなかった
 ③RAS系阻害薬
  疾患のみでみると、冠動脈疾患・糖尿病・心不全・高血圧患者で有意に死亡を減少
  併存疾患でみると、冠動脈疾患+脂質異常+高血圧の組み合わせに心房細動、糖尿病、心不全有意に死亡を減少したが、うつ病+冠動脈疾患+脂質異常+高血圧では死亡は有意差がつかなかった

 

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(本文より引用)

  少し分かりにくいのですが、疾患単独のエビデンスでは効果があるとされていた薬剤が実際にMultimorbidityありの患者で検証し直すと、効果が十分証明されない一群が存在するということです。実際に疾患単独では効果が出ていることもあり、今後は何を合併している患者さんにはこの薬は効きにくいなど、薬効効果がmorbidityによって異なることが検証されると、処方もテーラーメイド化していきそうですね。ただ、もうこんなの覚えられません・・・というのが本音。今後はもうデジタル化するしかないよなあ。

✓ 処方薬剤の臨床効果は併存疾患が増えてくると組み合わせによって変化してくることがある


妊娠中の飲酒 
Should women abstain from alcohol throughout pregnancy?*2

 妊娠中の飲酒に関するディベート。こんなんディベートになるんかなと思ったら結構大まじめにPro & Conをやっておりました。

 まずは止めた方が良いという賛成派の意見から。現時点で妊婦の飲酒は各団体によってマチマチなんだそうです。知らなかった。英国のNICEガイドラインでは妊娠3ヶ月までダメといっていますが、同じ英国産婦人科学会は少量なら害は無いと言っているのだそうです。現時点では安全であるという根拠も危険であるという根拠もないのが現状です。そもそも研究を組むことも前向きには難しく、後ろ向き調査だと飲酒量って思い出しバイアスがかかるのでなかなか難しいんだそうです。ただ、アルコールによる害のレポートは複数あり、良いという報告はないし、基本的には止めておいた方が良いでしょ?というのが意見でした。

 さて、反対派はと言いますと、どこからが安全かは分からないから一律全部禁止という理屈はおかしいのではないか?多くの団体で共通しているのは妊娠12週間までは禁酒した方が良いということ。それ以降の少量アルコールの影響は何とも言えないよね・・・とのことでした。やや無理があるかなあ。

 まあ、基本的にはお勧めしませんし、胎児にとって胎内環境は選べませんから、飲まないにこしたことは無いと私は思いますが、色々な意見の方がいるんですねえ。妊娠しても止められないという時点でabuseになってないか?という視点で心配にはなりますが。

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(本文より引用)

✓ 妊娠中の飲酒に関する推奨はcontroversyだが12週までは少なくとも禁酒すべき


自宅看取りがベストか? 
Is home always the best and preferred place of death?*3

 諸外国では終末期治療のquality indicaterの一つに自宅での看取りが掲げられているそうです。まだまだ浸透していない日本にとっては素晴らしいと思うのですが、今回はそれで良いのか?という反証です。最近の色々な研究結果でも2/3の人が自宅での看取りを希望しています。ただし、優先順位として第1位にくるものという分けでは無さそうです。何が何でも自宅出なくてはダメ!というわけではありません。

 例えば、疼痛などの症状管理の方が優先順位が高いとか具体的な亡くなり方をよくよく聞いてみると病院でも実現可能なことも出てきたりします。また、多くの家族を含めた介護者は病院での最期を希望しています。これは日本だけでは無いんですね。患者本人も介護負担が増えて迷惑をかけることを嫌がっています。場所だけに焦点を絞って盲目的に「在宅看取り」を突き進めるよりは、「具体的な死に方や症状管理」を重視することも必要ですと。場所へのこだわりは時に医療者の方が強くなっており、あまりにも場所にこだわると患者本来の希望がかなえられなくなることもあるので注意しましょうとの事でした。
 
 基本的には賛成します。在宅原理主義的な何が何でも自宅で・・・というのは結構家族負担も強くなりますし。ただ、それでも自宅に帰ると叶えられる良いことはあるとも思っています。ちょっと無理したけど帰って良かったというご家族の声を聞くことも多いです。最期の時間のケアへの参画も病院にいるよりも家にいる方が圧倒的に増えます。この辺り、病院では医療系多職種だけでなく元々関わっていた在宅スタッフや介護職員、ご家族さんと時間をかけて話し合うことを心掛けていますが、難しいですよね。毎回毎回悩みながらやっています。

✓ 終末期医療において、場所へのこだわりが強すぎると本来の目的が損なわれる可能性もある

 



■Lancet■

ピロリ菌ワクチン 
Efficacy, safety, and immunogenicity of an oral recombinant Helicobacter pylori vaccine in children in China: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial*4

 日本では感染したピロリ菌除菌に躍起になっておりますが、お隣中国からピロリ菌予防のワクチンについての第三相RCTが報告されていました。このあたり常に先手を取られている感はありますねえ。
 論文のPICOは、

P:10カ所の学校からリクルートした6-15歳のピロリ未感染の4464人
  未感染の確認は2段階でピロリ抗体陰性確認後、尿素呼気試験。両方陰性の子供のみ組み入れ
I:ワクチン 0,14,28日経口投与群
C:プラセボ
O:1年以内のピロリ感染(抗体+尿素呼気試験)
T:RCT/per protocol解析(3回きちんと飲めた人のみ組み入れ)
結果:
 まず5700人のうち1200人がすでにピロリ菌感染。残りの4464人を二群に割り付け
 平均9歳、男性 60%、アドヒアランスは99%
 プライマリアウトカムは、ワクチン群で14/2199人(0.7%)、プラセボ群は50/2204人(2.4%)で有意にワクチン群が少なかった
 24ヶ月後、36ヶ月後まで延長して効果を検証したが、両群の有意差はあるものの経時的に効果は減弱した
 副作用は両群で有意差なし

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(本文より引用)

 過去になかなか結果の出なかったピロリ菌ワクチンがついに第III相試験まで進み、今回も有意差を出しています。このワクチンは、ウレアーゼβとエンドトキシンBを複合した蛋白らしく、この抗体も確認していますが、経時的に抗体価も低下しています。短期的な効果は証明されましたが、今後は長期的なフォローアップ効果がどうか、そもそもピロリ菌関連の有害事象(潰瘍や癌など)を減らせるか、ブースターが必要になるか?という辺りが論点になりそうです。また、今回6-15歳を組み入れた時点で20%がピロリ菌陽性となっており、もっと早いタイミングでの介入が必要かもしれませんね。何にせよ一歩前進といったところでしょうか。
 
✓ 中国発のピロリ菌ワクチンが第III相試験でもプラセボと比較してピロリ菌感染を減らす事が出来た


治療抵抗性高血圧にスピロノラクトン追加 
Spironolactone versus placebo,bisoprolol,and doxazosin to determine the optimal treatment for drug-resistant hypertension(PATHWAY-2):a randomised,double-blind,crossover trial

 治療抵抗性高血圧の定義は基本的には通常の推奨薬3種類(RAS系・カルシウム拮抗薬・サイアザイド系利尿薬)を最大量使用しても血圧コントロールができないものと定義されています。過去のメタ解析では治療抵抗性高血圧に対してスピロノラクトンの有効性が示唆されていましたが、十分な結論は得られておらず、今回クロスオーバーのRCTで評価されています。
 論文のPICOは、

P:英国プライマリケア施設・2次医療機関に通院している治療抵抗性高血圧の18-79歳の成人
  治療抵抗性は、ACE-i/ARB・CCB・サイアザイドを3ヶ月以上継続してもsBP≧140mmHg
  ただし、糖尿病では≧135mmHg、家庭血圧≧130mmHg
I/C:スピロノラクトン 25-50mg、②ビソプロロール 5-10mg、③ドキサゾシン 4-8mg、④プラセボをクロスオーバーで決められた順にランダム割り付け、各薬剤は12週毎(6週低容量、6週倍量)
O:スピロノラクトンプラセボの平均収縮期血圧差、他薬剤との血圧差
T:RCT/クロスオーバー/ITT解析
結果:
 平均61歳、男性69%、家庭収縮期血圧 147mmHg、診察室収縮期血圧 157mmHg
 314例が組み入れられITT解析の対象となった。忍容性等で、スピロノラクトン 285人、ドキサゾシン 282人、ビソプロロール 285人、プラセボ 274人が投与され、4つ全ての治療を完遂したのは230例
 プライマリアウトカムは、スピロノラクトンプラセボと比較し、家庭sBP 8.7mmHg:7.69-9.72低下させ有意差あり
 その他、ドキサゾシンよりも4.03mmHg、ビソプロロールよりも4.48mmHg有意に低下させた
 スピロノラクトン低容量 vs 高用量では、高用量の法が3.86mmHg降圧効果が強かった。また、スピロノラクトン投与で、219人(68.9%)が目標血圧を達成することが出来た

 なるほど〜という感じ。これって原発性アルドステロンが潜在的に隠れているのでは?とおもったのですが、本文には血漿レニン値も測定していて、ベースラインのレニン値に関わらず降圧効果があることは証明されています。高カリウムも危惧されますが、全体の2%程度だった模様です。第4選択はスピロノラクトンでしょうか。今までα遮断薬とか使用することもあったので少しプラクティスに影響しそうです。まあ、血圧を適切に評価する方法や適切な降圧目標値も重要ですが。

✓ 治療抵抗性高血圧に対する選択肢としては、α・β遮断薬よりもスピロノラクトンがより強い血圧降下作用がある