栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 最近発症の腰背部痛への早期運動療法/脂質異常症に対するPCSK9阻害薬/サプリメントによる副作用受診の頻度/年1回の検診をやめよう/不眠症レビュー

■JAMA■

最近発症の腰背部痛への早期運動療法 
Early physical therapy vs usual care in patients with recent-onset low back pain*1

 腰背部痛(low back pain)はコモンな主訴の一つです。オピオイド使用や早期にMRIを取ることは予後不良と関連しているとの観察研究もありますが、交絡因子がありそうです。一般的には早期運動が良い、安静にしない方が良いと言われていますが、一方、ガイドラインでは4週間は運動療法控えましょうという推奨を出しているものもあるようです。今回は急性の腰背部痛に対して、運動療法の効果を検証したRCTが報告されていました。
 論文のPICOは、

P:腰背部痛でプライマリケアを受診した18-60歳の220人
  腰背部痛の定義:第12胸椎〜仙骨の間の痛み
  発症が<16日、Oswestry Disabiltiy Index(ODI)>20(180点満点)
I:72時間以内に運動療法開始 3週間かけて4セッション
C:通常ケア
※両群共に予後の良さなどをブックレットで情報提供
O:3ヶ月後ODI(臨床的に有意な差は6点と設定)
T:RCT/ITT解析
結果:
 平均37歳、BMI 29、NSAIDs使用 67%、オピオイド 27%、ODIスコア 43点
 ベースラインで女性の割合が57.4%、47.3%と有意差あり
 プライマリアウトカムは、早期運動療法群 6.6点、通常ケア群 9.8点で有意に3.2点(-5.9 to -0.47)減少したが、臨床的に設定した有意な差ではなく、効果は無いと判定された。

 色々な見方が出来ると思いますが、少なくとも運動は有害では無さそうです。ベースで40点程度あったODIが3ヶ月後には1桁になっており、両群共に著明に改善しています。
 ODIスコアは臨床的に有意な差は無かったのですが、興味深かったのは患者自身の自己評価です。治療が成功したと考えている人の割合は、運動群59.3%、通常群 44.0%でRR 1.35(1.03-1.75)と有意に運動療法群が多い結果でした。この差は1年後にはほぼ無くなっています。介入バイアスかもしれませんが、運動をやっていると良くなった感があるのかもしれません。

✓ 腰背部痛に対する早期運動療法介入は、通常ケアと比べて機能スコアを有意に改善しなかった


脂質異常症に対するPCSK9阻害薬 
New therapies in the treatment of high cholesterol.  An argument to return to goal-based lipid guidelines*2

 以前も紹介したPCSK9阻害薬の臨床効果。スタチンに追加する事で心血管イベントを減少する効果が報告されています。

tyabu7973.hatenablog.com

 FDAではこの報告を受けて、2015年7月25日にPCSK9阻害薬としてAllirocumabを認可しました。ただ、今回困ってしまったのは、治療対象の多さとその薬価の問題です。脂質異常症への適応という形になると、治療適応になる患者が多すぎてしまいます。最近HCVインターフェロンフリー療法で俄然話題になっていますが、今回のPCSK9阻害剤はその適応疾患の罹病率の多さと、治療期間の長さが問題になっています。インターフェロンフリーはせいぜい12週程度で治療終了となりますが、PCSK9阻害剤は打ち始めると一生治療が必要になります

 そのうえ、2013年のアメリカの脂質異常症ガイドラインも更に混乱に拍車を掛けています。というのも新しい脂質異常ガイドラインでは、「LDL目標値」を撤廃したためです。治療目標値の設定を削除し、適応患者では生涯にわたって薬剤使用をと提唱したために、今回のPCSK9阻害剤にも同様の適応が為されるか注目が集まっています。現時点では、やはりLDL目標値を設定して、治療目標を達成した場合に薬剤を中止するのが現実的ではないか?と考察されていました。また、現時点ではスタチン vs PCSK9阻害剤のがちんこ対決はないため、今後はhead to headのRCTが必要かもしれないと結ばれていました。

✓ 脂質異常症に対するPCSK9阻害剤の効果は証明されつつあるが、その適応疾患や期間など検討すべき問題がある

 


■NEJM■

サプリメントによる副作用受診の頻度 
Emergency department visits for adverse events related to dietary supplements*3

 サプリメントの数は年々増え続けていて1994年に4000しかなかったサプリメントが2012年には55000以上になっています。ところが、多くのサプリメントが副作用報告が義務づけられておらず、重篤な有害事象しか報告されていません。今回、アメリカ6病院の過去10年の救急外来受診データからカルテレビューで、サプリメントの副作用による救急外来受診頻度を調査しました。
 論文のPECOは、

P:2004-2013年に米国の6病院の救急外来を受診した患者
E/C:年齢・性別・薬物種類等
O:サプリメントの副作用
T:後ろ向き観察研究
結果:
 3667件の救急外来受診あり。年齢層は小児から高齢者まで幅広い。
 平均年齢34歳、88%は1つのサプリメントが原因
 21%が子供の誤飲、入院したのは全体の9.4%だった
 上記からアメリカ全土での推定サプリ救急外来受診は23000人/年だった
 子供の誤嚥を除外すると、ハーブや補助食品が65%で、そのうち体重減少効果に期待したサプリが25.5%、滋養強壮が10.0%、性欲減退、心血管健康、不眠などが続いた。

f:id:tyabu7973:20151025232842j:plain
(本文より引用)

 まあEnergyを滋養強壮と訳して良いのかは知りませんが・・・どちらにしてもサプリメントによる有害事象はそれなりの数があり、適切な有害事象報告を義務化した方が良いのかもしれません

✓ サプリメントとはいえ有害事象での救急外来受診も起こし得る


年1回の検診をやめよう
Improving value in health care - against the annual physical*4

 これはなんとなくBMJ的な臭いを感じますが、NEJMから。日本でも大流行の年一回の健康診断についての話題です。2013年のSociety of General Internal MedicineのChoosing wiselyは年一回の健康診断にをTop5リストの一つに挙げています。古くはカナダが1979年に健康診断を中止しましょうと清明をだしています。それにも関わらず、米国の1/3の患者が年に1回の健診を受けています。検診については、最近でも2つのSystematic reviewが報告されましたが、それによる死亡率減少効果はなく、不安は減らすが予防的治療を増やすという結果でした。

 検診については、上記の問題以外に検診による害の問題も無視できない状況となっています。例えば最近では某MLでも話題になりましたが、甲状腺検診のoverdiagnosisの問題や尿検査での病的意義不明の異常などによって、不必要な検査や心的不安などの害が出る可能性があります。プライマリケア受診の10%が年1回の検診からで、外来が混雑する原因になります。ただ、この年1回検診はなかなかなくなりません。理由は様々で保険会社が受診を後押ししたりしていますし、そもそも患者だけで無く医者も検診のメリットが大きいと漠然と考えています。また、コミュニケーションの一つとして考えている人もいるかもしれません。検診による害は少し前にJAMAで「50000$の身体所見」として紹介されていたのが印象的でした。

 結局、検診を受ける前にそのメリットとデメリットが定量的に提示された上で選択するという形を取るのが良いと思うのです。どうあるべきというのはあまり無いのですが、振り幅を持って対応出来た方が良いなと思っています。

✓ 年1回の検診には賛否両論ある。検診の害についても患者さんと考えてみる


不眠症レビュー 
Insomnia disorder*5

 不眠症についてのNEJMレビューです。いつもの通り要点を箇条書きでざっくり。
入眠障害中途覚醒の頻度は多く、週に33%の人が経験。
睡眠障害が長期化すると日常生活に支障を来す。日常生活に支障を来すものを不眠症
・以前は睡眠障害はプライマリとセカンダリに分類されていたが、併存疾患との因果関係は双方向性のことが多く、分類は消失
・不眠は女性に多く、不定期シフト勤務者で頻度は増える
高齢者は若者より不眠の訴えは多いが、不眠症の頻度は同じ
不眠症の50%に精神疾患があり、大半は気分・不安障害。
うつ病の80%に不眠症があり、50%はうつ病に先行する
持続性の不眠症うつ病リスクが2倍、不眠症は、心疾患・高血圧・糖尿病・死亡のリスクになる
不眠症症状は、wax & waneの経過を辿る。最も多いのは睡眠維持困難で、次に多いのが早朝覚醒、次が入眠障害
不眠症状は経過中にしばしば変化する
不眠症は、日中・夜間の過覚醒状態を指し、過覚醒状態は全身の代謝率増加・コルチゾール増加・脳の糖代謝増加・血圧上昇と関連する
不眠症の原因は多岐に渡り、徹底的な病歴聴取が重要
睡眠障害のプロセスを把握するのに、「就寝前の思考や行動」「ベッドでどのように寝ているか」などが有用
・睡眠日記は床上時間や睡眠相などの評価に良い
不眠症患者では自己申告とPSGで見積もる睡眠時間に解離あり
・治療戦略は、症状・重症度・持続時間・併存疾患によって異なるが、原則は行動療法などの非薬物療法が第一選択
・急性不眠症では原因があることが多く、睡眠薬の短期的使用はOK
・慢性不眠症では不眠に影響しそうな併存疾患管理が重要。
認知行動療法(CBT)の基本は、睡眠への間違った考え・行動を評価し修正する
・CBTは伝統的には6-8回のセッションで個別かグループで行う
2015年の不眠症に対するCBT効果を検証したRCTのメタ解析では、入眠19分短縮、中途覚醒 26分短縮、総睡眠時間 8分延長という効果
・CBTと睡眠薬を比較すると、効果発現は遅いが、4-8週経過した時点では同等。ただし、CBTの効果は中止後も残存するのが薬剤との違い。
・CBTの最大の障害は提供出来る医療者がいないこと。
ベンゾジアゼピン系薬剤は基本的な睡眠薬FDAは就寝前しか認可していないが、起床時刻まで4時間以上ある中途覚醒時の入眠目的でも使用可能
2014年の不眠症に対するベンゾジアゼピン系薬剤の効果を検証したRCTのメタ解析では、入眠22分短縮、中途覚醒 13分短縮、総睡眠時間 22分延長という効果
・BZO系薬は副作用として、日中の眠気・記憶障害・せん妄・失調・交通事故の増加・Alzheimer型認知症リスク
・薬剤の乱用には定期的な効果と副作用のモニターが重要。中止したい場合には漸減療法を

✓ 不眠症に対する適切な対処方法について習熟しておこう