栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 心筋梗塞後患者へのNSAIDs使用時にPPIを併用/心不全治療研究データ非公開/単純な肺炎じゃないぜ/ネットによる手洗い指導/スタチンによる壊死性筋症

BMJ

心筋梗塞後患者へのNSAIDs使用時にPPIを併用 
Impact of proton pump inhibitor treatment on gastrointestinal bleeding associated with non-steroidal anti-inflammatory drug use among post-myocardial infarction patients taking antithrombotics: nationwide study*1

 ガイドラインでは潰瘍リスクが高い群ではPPI併用を推奨しており、実際DAPT時にはPPI併用で消化管出血が減ることが分かっています。一方でNICEは45歳以上のNSAIDs使用時にルーチンでPPI使用を勧めていたりもするんだそうです。これもまあちょっと極端ですよね。で、じゃあ心筋梗塞後患者さんでNSAIDsを使用するときにPPIを併用したらどの程度効果があるんだろうか?というのが今回の疑問です。
 論文のPECOは、

P:1997-2011年までの30歳以上、初回心筋梗塞、30日以上生存者82955人が対象
I:NSAIDs+PPI
C:NSAIDsのみ
O:消化管出血による入院
T:後ろ向き観察研究/デンマークの全国レジストリ
結果:
 平均67歳、潰瘍発症率が4.2%だった。
 82955人のうち45%がDAPTで大半の68000人はPPIもNSAIDsも使用なし
 プライマリアウトカムの消化管出血による入院は、HR 0.72(0.54-0.95)
 PPIやNSAIDsの差による違いはなし。COX2でも変わらず。

 まあ、とりあえず抗血小板薬・NSAIDsとの併用はそれなりに良い結果ではあるとは言えますかね。そしておまけですが、とにかくPPIの使用が年々増えているのは世界各国どこでも同じ傾向でした。
 
✓ 心筋梗塞後患者でNSAIDs使用時にPPIを併用した方が潰瘍を減らす事が出来る


心不全治療研究データ非公開 
Our battle for heart drugs data*2

 BMJ相変わらず喧嘩しとります。ここからデータよこせって言われて拒否したら記事になっちゃうし大変なことですね。今回どこと喧嘩したかというと心不全業界です。心不全の中でも最も多いのが軽症心不全NYHA ⅠとかⅡとかの患者さんに対して、プライマリケアレベルでどんな治療をしたら良いのかというのは一つの課題です。ただ、多くの研究で、この重症度分類別に薬効を確認したりはしていないのが現状なんだそうです。BMJとしてこのNYHA ⅠーⅡの軽症心不全に対する治療効果を評価するためにシステマティックレビューを行う事を企画しました。β遮断薬やACE阻害薬、ARBなどを含めた内服治療のRCTを組み入れて、2人の独立した評価者がタイトルとアブストラクトでスクリーニングをかけています。最終的には30個の文献が組み入れ基準を満たしました。それぞれの軽症心不全を含んだ患者さんデータを用いて、NYHAクラス別の薬剤治療効果を検証しようとしたが、患者データが手に入らなかったようです。で、BMJからそれぞれの論文の1st authorにメールを送ってデータ頂戴って頼んだようです。
 
 ここからが喧嘩なんですが、結局30通メールを送ったのに返事が帰ってきたのはたった6通。3通は「データはもう使用出来ないんです」で、残りは「全て同一のNYHA重症度でした」、「その様なサブ解析は適切では無いし一般化できない」、「もう一人の筆者に頼んで」とのこと。結局最終的にはたった1件しかデータを開示してくれなかったんだそうです。

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(本文より引用)

30件全てのデータが揃えば80450人のデータだったんだけど、結局リサーチクエスチョンに答えることは出来なかった。問題は、メールへのレスポンスが悪すぎるということ。結構メールアドレスが変わってしまったり、記載が無かったりする。断る側の理由を過去に調査されていて、それが知的財産の権利があるとする場合や誤って解釈され害になると困るというものでした。BMJは公衆衛生的に必要なものであれば、知的権利に関する問題はクリアーできるのでは?とコメントしています。

 以前も書きましたが、臨床研究データって最終的には相互乗り入れ的に必要な研究者が誰でもアクセスして利用出来るように、しかる場所に保管され、適宜使用されるという形が良いのではないでしょうか?研究者の所有物という考え方ではなく、人類にひつようなデータ的なglobalな考え方が出てくると変わるのかなあと思います。

✓ BMJが軽症心不全患者の臨床研究の個人データ利用を試みて断られた


単純な肺炎じゃないぜ 
Think beyond simple pneumonia*3

 BMJ case reportです。30歳黒人男性。トラック運転手で既往はGERDくらい。最近市中肺炎で入院してMFLX点滴→内服で治療して退院。まあ、この時点でげげって感じですが。ただ、退院後も症状は数日は良かったが、徐々に症状再燃して救急外来受診。発熱・頻脈・頻呼吸で、右肺にcracklesも聞こえて、Xpではがっつり両肺浸潤影を伴う肺炎になっておりました。

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(本文より引用)

入院後抗菌薬2剤併用で開始するも、症状改善せずICU入室。気管支鏡を施行したところ、出たんだそうですよ。

 ”Blastomyces dermatitidis”

 米国の中〜南西部に多い真菌で、わが国では輸入真菌症として位置づけられています。輸入真菌症には過去に痛い目を見たのを目の当たりにしていまして、アンテナは張っておこうと思っています。輸入真菌症に話題はそれますが、最も流行地分布が広いのがヒストプラズマ症なんだそうで。この論文には、非常に分かりやすく流行地域や病原微生物、潜伏期間や感染経路がまとまっておりました。(http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1009_01.pdf)これ見るとパラコクシジオイデス超怖いですね。数十年後って・・・

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http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1009_01.pdfより引用)

 話を元に戻しますが、結局この方はAMPH-B点滴後にイトラコナゾール長期内服で良くなったようです。培養は5-30日かかるので、抗原検査やPCRが良い様ですね。知っておいて損は無い・・・はず。

✓ 輸入真菌症は忘れた頃にやってくる

 


■Lancet■

ネットによる手洗い指導 
An internet-delivered handwashing intervention to modify influenza-like illness and respiratory infection transmission(PRIMIT):a primary care randomised trial*4

 手洗いは院内感染領域でも古くて新しい話題ではありますが、今回はインターネットでのweb教材を用いて啓蒙活動を行う事で、上気道感染症予防ができるかを検証したRCTが報告されていました。実は手洗いによる上気道感染予防効果を検証したRCTは過去に2つあるみたいですが、どちらも小児かつ低所得国の研究だったため、今回英国の成人で検証されています。
 論文のPICOは、

P:英国GPリストにある18歳以上の家族がいある患者さん20066人をランダムピックアップ
I:週1回webで手洗い指導を計4回
C:なし
O:冬4ヶ月間の上気道炎の頻度(定義は上気道症状2つ×1日以上か上気道症状1つ×2日以上、月1回自己申告制)
T:RCT/mITT
結果:
 平均56歳、平均家族構成人数 2.6人、一日の手洗い回数 10回以上が40%
 介入によって手洗い率は介入群で10回以上が52.7%まで上昇
 途中で介入方法のプロトコール変更あり
 ベースラインで手洗いについての質問をすると介入バイアスになる可能性がある?
 プライマリアウトカムは、冬4ヶ月間の上気道炎が介入群で有意に減少 HR 0.86(0.83-0.89)
 その他家族の上気道炎も減少 HR 0.88(0.85-0.92)、胃腸炎も減少 HR 0.82(0.76-0.88)
 更には抗菌薬使用も減少 HR 0.83(0.74-0.94)

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(本文より引用)

 やっぱ手洗いってすごいなあと改めて感じた次第。もちろん具体的な手洗い方法や感染罹患自体も自己申告なので、研究として限界はありそうですが、介入の侵襲度が低いことも含めてやはり冬に手洗い勧めてみようという気にはなりました。ただ、10回/日以上かあ。普段やってるかなあ・・・

✓ 手洗いは成人の上気道炎予防のみならず家族の上気道炎や胃腸炎予防にも効果がある


スタチンによる壊死性筋症 
Immune-mediated necrotizing myopathy linked to statin use

 こちらはLancetの症例報告。スタチンでこんなこと起こるんだねえ、へーって感じ。
 59歳男性でアトルバスタチンを開始していたところ、4ヶ月前から筋痛が出現。スタチン筋症を疑い、中止したもののその後も症状改善無く、近位筋の筋力低下とCK上昇(3453u/L)が持続。歩行にも介助が必要な状態になってしまった。炎症反応などは無く、筋電図では急性の筋障害。MRI T1強調画像では、びまん性の筋萎縮があり、筋生検では炎症はほとんどない筋壊死の状態で、フルオロセイン染色ではHEP-2陽性。

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(本文より引用)

HMGCR自己抗体が陽性であり、スタチン誘発性の免疫介在性筋壊死症と診断されております。こんな病名知らなかったです。高用量ステロイド・MTX・免疫グロブリンなどの免疫抑制治療を行い、6ヶ月後には症状は改善しCKも正常化。HMGCR抗体も正常化しました。

 スタチンはHMGCRの阻害薬であり、筋症は来しても通常は自然軽快する安全な薬剤です。ところが、筋炎の様な重篤な合併症は1万人に0.4人程度いるといわれています。スタチン使用によってHMGCR抗体が産生されて、自己免疫機序で筋壊死症を来すのは非常に稀です。怖いのは中止によって改善しないこと。

✓ スタチン使用によって稀にHMGCR抗体を産生して壊死性筋症を来すことがある