栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM ICU患者への生食とバランス液/急性腰痛への鎮痛剤効果/ 中等度以上の黒人喘息に対するLAMAとLABA/好酸球性食道炎/2型糖尿病の血糖値別死亡率

■JAMA■

ICU患者への生食とバランス液 
Effect of a buffered crystalloid solution vs saline on acute kidney injury among patients in the intensive care unit*1

 さて、SPILIT研究。これは集中治療質に入るような具合の悪い患者さんに、生食と晶質液とどちらが急性腎障害を予防できるか?というテーマは最近注目されています。以前は生食がよく使われてきましたが、Clの毒性に注目が集まり、晶質液でも良いのでは?という流れがあります。さて、そんな中で行われたガチンコ対決研究です。
 論文のPICOは、

P:集中治療室に入院している患者、ICU毎にクロスオーバー
I:生食
C:PL-148(晶質液)
O:急性腎障害(定義:Crがベースの2倍以上 or Cr≧3.96)
T:クラスターRCT/ITT解析
結果:
 平均 60歳、男性 65%、体重 80kg、術後71%、Cr 1.0、挿管患者 67%
 既にRCT開始前の時点で晶質液は1L投与されていた
 両群共に生食もしくは晶質液が2L程度点滴された
 プライマリアウトカムのAKI発症は両群で有意差なし RR 1.04(0.80-1.36)だった 

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(本文より引用)
 透析使用率も同様 RR 0.96(0.62-1.50)、 院内死亡率も有意差なし RR 0.88(0.67-1.17)

 というわけで、重症患者の初期輸液としては、生食でも晶質液でもどちらでも良いのでは?という緩い結論でした。もちろん、最初に1L晶質液が入っている影響はあるのかもしれません。また、サンプルサイズ計算が事前にされていなかったのも批判されていました。今後はAKIリスクが高いハイリスク群でどうなるかなどの検証が必要です。

✓ 重症患者の初期輸液は晶質液でも急性腎障害発症率は変わらなかった


急性腰痛への鎮痛剤効果 
Naproxen with cyclobenzaprine,oxycodone/acetaminophen,or placebo for treating acute low back pain*2

 急性腰痛症に関しては、基本的には鎮痛薬が使用されますよね。NSAIDsの除痛効果は過去にも複数証明されていますが、米国ではオピオイドもしばしば症状が強い場合には用いられる模様です。NSAIDsのみでいくのか、他の薬剤を追加すべきなのかという部分に対する質の高いエビデンスはないのだとか。そしてやはり薬剤関連の有害事象も気になります。今回、比較的急性発症の腰痛患者さんに対するNSAIDs+αの使用が、生活への支障がどの程度出ているかを検証したRCTが報告されていました。
 論文のPICOは、

P:21-64歳の発症二週間以内の急性腰痛症患者。
  腰痛の定義は肩甲骨下〜上殿の間で、根症状なし、外傷既往なし
  RMDQ(Roland-Morris disability questionarie)>5の生活支障のある患者
I/C:全例ナプロキセン 500mg×2回は内服+簡単な生活指導。それに加えて、①プラセボ 10日、②シクロベンザプリン 10日、③オキシコドン/アセトアミノフェン合剤 10日
O:7日後のRMDQ(事前に臨床的に有意な差は5点と定義)
T:RCT/ITT解析/1施設
結果:
 平均39歳、RMDQ ベースラインが18.5%、初回の腰痛 46%
 プライマリアウトカムは、①〜③群それぞれにおいて有意差なし
 副作用は、オピオイドが最も多くプラセボより有意に増える結果。傾眠、めまい、嘔気・嘔吐が増える結果。 

 ということでNSAIDsへの上乗せ効果の期待はしにくいなというのが印象でしょうか。そもそも3ヶ月後にはどの群でもRMDQはかなり改善しており、時間が解決するという認識で良さそうです。現時点ではNSAIDsのみで十分。

✓ 急性腰痛症に対する薬物療法はNSAIDs単剤で十分


中等度以上の黒人喘息に対するLAMAとLABA 
Anticholinergic vs long-acting β-agonist in combination with inhaled corticosteroids in black adults with asthma*3

 以前から一部の黒人の方にはLABAが効きにくい遺伝子があるのではないか?と予測されていて、LABA長期使用の安全性について懸念されていました。そこで、今回黒人の中等症以上の喘息患者さんに対するLABAの効果を検証しています。
 論文のPICOは、

P:黒人の中等症〜重症喘息患者でかつICS使用中でACQ≧1.25のコントロール不良患者
  ※喫煙者除外、最近3ヶ月以内の発作も除外
I:LAMA追加
C:LABA追加
O:最初の発作までの時間、全身性ステロイド使用や入院
T:RCT/ITT/open label
結果:
 平均45歳、女性76%、BMI 34.3、喘息歴 平均24年、低容量ICS 87%
 プライマリアウトカムは、LAMA群とLABA群では最初の発作までの時間は有意差が無かった RR 0.90(0.71-1.11)

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(本文より引用)
 遺伝子による違いも検討されたが、Arg16GlyADRB2は特に治療効果の差に関連しなかった

 もともと言われている、黒人喘息患者さんにLABAが効きにくいってことはあまり気にしなくて良いのでは?というデータですね。さて、ICSとLABAとLAMAの組み合わせのエビデンスは待っていればいずれ検証が為されると期待していて良いものでしょうかねえ。
 
✓ 黒人喘息患者さんに対してICSに追加するとすればLAMAでもLABAでも可
 

 


■NEJM■

好酸球性食道炎 
Eosinophilic esophagitis*4

 さてNEJMのレビュー。好酸球性食道炎はそれほどたくさん経験した訳では無いですが、何度か診断したことはあります。今回学んだことを箇条書きでザックリ提示していきます〜。それではどうぞ!
好酸球性胃腸炎はかつては稀と考えられてきたが、最近では小児の摂食障害、成人の嚥下障害や食物嵌入などの原因で最も多いとされている。
・特に西洋諸国で研究が進んでおり、小児・成人全体の0.4%を占めるとも報告されている。
・新しい疾患なのか最近認知されるようになったのかは不明。
・当初は逆流性食道炎の一所見として認識されていた。
慢性/免疫性の抗原提示性食道疾患で好酸球主体の炎症を起こす疾患として知られている
・臨床的にはいくつかの特徴があり、小児では摂食障害で嘔吐や腹痛症状がメイン。成人では食物嵌入や嚥下障害。
・病理基準としては、食道組織で15好酸球/hpf以上で感度100%、特異度 96%
・GERDは除外診断
・環境要因が関連するかもしれない。帝王切開や早期産、母乳以外の栄養、抗菌薬の早期曝露などが関連?
・男女比3:1で男性に多い、GWAS研究で3つの遺伝子が候補になっている
・食事由来や吸入由来のアンチゲン+食道バリア機能の低下によって、食道拡張や狭窄、白苔、縦走潰瘍などを来す。

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(本文より引用)
・Th2細胞介在疾患で、IL-5やIL-13の関与が考えられている
・IgEは非介在のパスウェイがメイン。
内視鏡所見では、狭窄や繊維化がはっきりしなくてもバルーニングで拡張能を確認すると以上が出る事も。
・造影検査が薬に立つこともある
・「食べ物が詰まった人」の54%に好酸球性食道炎があったとか。
内視鏡所見では多い順に、①白苔、②食道粘膜浮腫、③線状溝、④食道リング、⑤狭窄である
・2013年にはスコアリングシステムEREFSが提唱された
・子供は非特異的症状で、成人では食物つかえと嚥下困難で考慮しましょう
・ただ、慢性の胸焼け症状も多いのでFDやGERDとの鑑別が難しい
・病理所見で追加したい特徴所見は、Eosino microabscessや表層に層状の好酸球である
・症状と病理所見はミスマッチがある
・治療ゴールは、症状を改善し、炎症を改善し、機能を回復する
・治療はアレルゲンを除去した食事、PPIステロイドなどが注目

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(本文より引用)
PPIには診断的価値も治療効果もあり。
・GERDをrule outする方法としてもPPIは有用。
FDAは認可していないが、フルチカゾンやブデソニドなどの吸入ステロイドの内服が効果的
・全身性ステロイドや局所ステロイドは効果あるが副作用も増える

✓ 好酸球性胃腸炎を疑って診断できるようになろう

 

2型糖尿病の血糖値別死亡率 
Excess mortality among persons with type 2 diabetes*5

 スウェーデンの大規模ナショナルコホート。今回は治療中の2型糖尿病患者さんの血糖値と死亡の関係を超大規模に調査しています。実は1型糖尿病患者での調査は昨年報告されており、当ブログでも取り上げました。

tyabu7973.hatenablog.com

まあ、前回の結果でも1型糖尿病患者は糖尿病無し群と比べてHR 3.52で死亡率上昇する一方で、血糖は≦6.9%群と7.0-7.8%群でHRが変わらなかったという結果でした。さて、今回は同様のことを2型糖尿病患者でもやりましたよ〜という論文です。
 論文のPECOは、

P:スウェーデン在住の250万人の国民データ
E:2型糖尿病患者(①HbA1c毎に層別化、②Alb尿・CKD毎に層別化、③年齢毎に層別化)
C:なし(ランダムに年齢など調整しマッチする5人を選択)
O:死亡
T:後ろ向き観察研究
結果:
 平均65歳、女性 45%、インスリン使用者10%、罹病期間 5.6年、HbA1c平均 7.1%、食事療法のみ 37.9%
 まずプライマリアウトカムですが、死亡率は2型糖尿病群で17.7%(77117/435369人)、コントロール群 14.5%(306097/2117483人)と比較して、有意に高かった。調整HR 1.15(1.14-1.16)
 また、HbA1c別に比較すると、若年者の方はHbA1cが低くても死亡に関連するのに対して、高齢者ではHbA1cの影響が少なかった
 若年者では≦6.9%と7.0-7.8%群はほぼ同等リスクで、7.9%以上は正の相関があり
 同様の傾向が微量アルブミン・CKDでも認められた

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(本文より引用)

 色々なデータの読み方ができると思うのですが、HbA1cとか微量AlbとかCKDとかというパラメーターは若いうちは死亡と関連するリスク因子なのですが、高齢者になるとそのウェイトが少なくなることが非常に興味深かったです。個人的に考えるのは、おそらく高齢者の死亡リスクに関連するのは、もっと別の因子(おそらく加齢とか癌とか認知症とかポリファーマシーとか)なんだろうな・・・ということです。逆説的ですがだからこそ高齢者でガシガシ血糖下げたり腎臓に対する治療を薬ドンドン増やして進めていくってのはあまり効果的では無いんだろうなという結論。75歳以上でHbA1c≧9.7%でも55歳以下の≦6.9%より死亡率低いですから・・・

✓ 2型糖尿病患者さんは健常人と比べると総じて死亡率は高いが、高齢になる程その影響は少なくなる