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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:重症急性膵炎の治療/無症状の進行性ろ胞性リンパ腫の治療/ペニシリンアレルギー患者の手拳外傷/背部外傷後の急性腰椎神経根障害の診断

MKSAPまとめです。
今週から4問・・・おい、大変じゃねーか。

重症急性膵炎の治療
Manage severe acute pancreatitis

❶症例 
  42歳男性が、12時間前からの重度の上腹部痛を主訴に救急外来を受診した。彼は長期にアルコール多飲歴があり、痛みは徐々に出現し、背部へ放散、嘔気・発汗を伴った。
 身体所見では、体温 36.8℃、BP 118/62mmHg、Pulse 95bpm、RR 18/min、BMI 35だった。口腔内は乾燥し、左下肺部の呼吸音減弱と打診での濁音を認めた。腹部診察では、上腹部の圧痛があり、肝脾腫なし、肝硬変を示唆する皮膚所見や腹膜刺激症状は認めず。

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(MKSAPより)

 腹部造影CTでは、膵周囲の浮腫と膵体部の造影不良域、左胸水を認めた。他には腹水や遊離気腫は認めず。

 この患者の次に行うべき最も適切な初期治療は?
A. 積極的な点滴輸液
B. 広域抗菌薬
C. ERCP
D. 経鼻胃管

 ❷重症膵炎
 本患者で、最も適切な治療は静脈内輸液による積極的な水分補給である。本患者の症状、膵酵素上昇、CT結果から、急性壊死性膵炎と診断される。壊死はCTを取ることで膵実質の造影不良として明らかにされる。本患者の膵炎はアルコール性が疑われる。初期治療は大量輸液であり、本患者では、頻脈・低血圧・粘膜乾燥・Ht上昇などの循環血液量減少の証拠がある。大量輸液は臓器不全を防ぐための初期治療のキーの一つである。

❸その他の選択肢
広域抗菌薬:広域抗菌薬は急性膵炎では、例え壊死があったとしてもルーチンでは使用しない。いくつかのRCTが重症壊死性膵炎の経静脈的抗菌薬予防が利益が無いことを示している。さらに、感染の証拠がないのに広域抗菌薬を使用することは腹腔内真菌感染を増やす。膵壊死や感染疑いは、経皮的ドレナージ・グラム染色・培養を行い、感染性の膵壊死かを判断する。組織的に感染が証明された場合に広域抗菌薬を使用すべき。

ERCP:ERCPは、急性膵炎発症時には増悪を来す可能性があり、通常行われない。ERCPは胆石性膵炎で、病状が不安定で肝酵素が悪化し、逆行性胆管炎が疑われた場合に行うべきである。本患者は胆管炎を疑う所見なし。患者は肝障害や臨床症状は今後経過観察すべきで、ERCPは入院時には行わない。

経鼻胃管:経鼻胃管による減圧は急性膵炎管理では推奨されない。これは臨床アウトカムを改善せず、早期経腸栄養を阻害するためである。

Key Point
✓ 急性膵炎において臓器不全を防ぐための初期治療のキーの1つは大量補液である。

Banks PA, Freeman ML; Practice Parameters Committee of the American College of Gastroenterology. Practice guidelines in acute pancreatitis. Am J Gastroenterol. 2006;101(10):2379-2400. PMID: 17032204

 

 

無症状の進行性ろ胞性リンパ腫の治療
Manage a patient with advanced asymptomatic follicular lymphoma

❶症例
  58歳女性が、この2年の間に大きくなったり小さくなったりする、無症状の、両側頚部・腋窩・鼠径のリンパ節腫脹を主訴に外来を受診された。彼女は、発熱・寝汗・体重減少・倦怠感などの症状は無く、残りの既往歴は特記すべき異常は無かった。
  身体所見では、T 37.0℃、BP 120/60mmHg、Pulse 70bpm 整だった。リンパ節はび漫性で硬く、無痛だった。残りの身体所見は異常所見なし。

f:id:tyabu7973:20151107174855j:plain(MKSAPより)
 末梢血スメアでは特記事項無し。リンパ節生検では、CD20陽性のGradeⅡのろ胞性リンパ腫で、骨髄生検ではCD20陽性リンパ球が20%浸潤していた。胸部レントゲンでは異常所見なし。

本患者で投与すべき最も適切な管理はどれか?
A. プレドニゾン
B. リツキシマブ
C. リツキシマブ+プレドニゾン
D. 全リンパ節照射
E. 注意深い経過観察

 ❷ろ胞性リンパ腫
  本患者で最も適切な管理は経過観察である。ろ胞性リンパ腫は米国や欧州では、2番目に多い非ホジキン性リンパ腫。頻度は年齢とともに増加し、平均診断年齢は60歳である。ろ胞性リンパ腫の臨床経過は様々であり、診断時の病期によらず、症状が出るまでは安全に年余にわたって経過観察は可能である。StageⅣの患者のほとんどは骨髄浸潤を来しているが、本患者でも無症状で末梢血は正常である。速やかな介入は病期の自然歴および予後を変えず、不必要な治療関連合併症を来す可能性がある。

 ❸他の治療選択肢
ステロイドプレドニン単剤は、有痛性リンパ節腫脹の症状改善や、リンパ腫関連特発性血小板減少症などの自己免疫減少の治療にのみ用いられる。これらの適応が無い場合には不適切。
リツキシマブ:リツキシマブ単剤が無症状のろ胞性リンパ腫に対する初期治療として適切かは臨床試験が行われているが、現時点では無症候性患者への治療は推奨されていない。また、リツキシマブとステロイドの併用療法は、症状が出てきたり、末梢血球数が減少してきた場合には適応になる。
放射線治療:全リンパ節照射ははろ胞性リンパ腫は、血液内を循環しているため、局所の照射を行っても再度リンパ節腫脹が出現する。さらに、放射線療法によって骨髄予備能を障害し、潜在的に今後の血球減少に不利な影響を与える可能性がある。

Key Point
✓ 病期に関わらず、無症候性のろ胞性リンパ腫患者は、症状が出るまでは治療的介入を行わない

Czuczman M, Straus D, Gribben J, et al. Management options, survivorship, and emerging treatment strategies for follicular and Hodgkin lymphomas. Leuk Lymphoma. 2010;51 Suppl 1:41-49. PMID: 20658953

 

 

 ペニシリンアレルギー患者の手拳損傷
Manage a patient with a clenched-fist injury who is allergic to penicillin

❶症例

  28歳女性が、5時間前に女性の口を殴った後から手拳に外傷があるとのことで救急外来を受診した。彼女はペニシリンアレルギーがあり、蕁麻疹・顔面浮腫・喘鳴を引き起こした。過去にワクチンは全て接種しており、t-DAPも4年前に済み。
 身体所見では、体温は正常で、BP 125/70mmHg、Pulse 75bpm、RR 14/min。左手の手背部には小さな穿通創があり、小さな紅斑と疼痛を伴った。膿や感染を疑う所見は無く、皮下組織の曝露なし。
 妊娠反応陰性で、手のレントゲンでは、骨折や異物、ガスは認めなかった。

 本患者の最も適切な対処はどれか?
A. セファレキシン
B. クリンダマイシン+モキシフロキサシン
C. 破傷風ワクチン
D. ST合剤
E. 経過観察

 ❷手拳外傷
 本患者は、ペニシリンアレルギーもあり、最も適切な予防はクリンダマイシンとモキシフロキサシンである。他人の口を拳で殴る時に意図せずに手拳外傷を負うのは一般的である。初期評価と対応は他の動物外傷と同様だが、手拳外傷では、腱・関節・骨などの深部組織への感染を起こすリスクが高まる。IDSAでは皮膚軟部組織感染症の治療について、ヒト咬傷では全例で予防的抗菌薬投与を推奨している。感染はヒトの口腔内常在菌でαβ連鎖球菌・ブドウ球菌インフルエンザ菌・Eikenella属・嫌気性菌などによって引き起こされる。AMPC/CVAはこれらの菌をよくカバー出来るが、ペニシリンアレルギーがある場合には使用出来ない。この場合にはクリンダマイシン・モキシフロキサシンの併用がこれらの菌を十分カバーし1型βラクタムアレルギー患者では使用しやすい。モキシフロキサシンはEikenella属に効果があり、クリンダマイシンはブドウ球菌・連鎖球菌・嫌気性菌をカバーする。クリンダマイシンは妊娠カテゴリーBでモキシフロキサシンはCである。

 ❸その他の選択肢
 セファレキシンブドウ球菌や連鎖球菌はカバーするが、Eikenella属やグラム陰性の嫌気性菌カバーはしていない。また、IgE介在ペニシリンアレルギーでは使用すべきではない
 破傷風ワクチン

 ST合剤
ペニシリンアレルギーがある場合には、ST合剤は好気性菌には良いカバーがあるが嫌気性菌カバーは不十分。メトロニダゾールを追加する事で適切なカバーが為される
 経過観察手拳外傷は感染リスクが高く、予防的抗菌薬投与が推奨されるため経過観察は不適切。

Key Point
✓ ペニシリンアレルギー患者の手拳損傷では、クリンダマイシンとモキシフロキサシンが推奨される予防レジメンである

Stevens DL, Bisno AL, Chambers HF, et al; Infectious Diseases Society of America. Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft tissue infections. Clin Infect Dis. 2005;41(10):1373-1406. PMID: 16231249

 

 

背部外傷後の急性腰椎神経根障害の診断
Diagnose acute lumbar plexopathy in a patient who has experienced back trauma

❶症例

  52歳男性が、5日前から時々強い右腰背部〜側腹部痛があるとのことで救急外来を受診。痛みは右大腿や下腿前側に放散し、痺れやびりびりした痛みも伴う。症状は重い家具を移動させた後から感じる様になった。頭部外傷や膀胱直腸障害はない。心房細動の既往があり、ワーファリンを内服している。
 身体所見では、体温正常、BP 135/80mmHg、Pulse 95bpm 整、RR 16/minだった。患者は右臀部を屈曲した状態で横になっており、右大腿外側〜膝にかけて点状出血があり、下腿浮腫はない。筋力はテストでは右臀部屈曲時に疼痛があり、筋力低下が見られる。右膝蓋骨・内転筋のストレッチ反射は左に比べて亢進し、他の反射は異常所見なし。針での感覚票化では、右大腿〜下腿前側にかけての感覚低下がある。
 採血検査では、Hb 7g/dLでINR 3.2だった。

 本患者の診断に最も適切な検査はどれか?
A. 腹部CT
B. 筋電図
C. 腰椎MRI
D. 腰椎単純X線

 ❷腰椎神経根障害
 本患者は腹部CTを検査すべきである。最も危惧されるのは腰部神経叢の圧迫を引き起こすような腸腰筋血腫を除外することである。腹部CTで出血は同定できるため、適切な検査。本患者の臨床像は、L2-4の腰部神経叢障害に加えて、股関節伸展時の疼痛・可動域制限のpsoas徴候が見られている。

 ❸その他の検査
 筋電図腹部CT後には筋電図がもっとも有用。ただし外傷後少なくとも3週間経過しないと急性神経障害は除外出来ない
 腰椎MRI
急性の腰椎椎間板ヘルニアが疑われる場合などでは有用だが、出血による神経叢障害の同定は難しいかもしれない。本患者では点状出血・疼痛・psoas徴候などからは血腫が疑われる。
 腰椎X線単純X線では椎体骨折は分かるが、単純な圧迫骨折で神経症を来したり、psoas徴候が陽性になることはない。

Key Point
✓ 急性のL2-4の腰椎神経根症状と股関節伸展時の疼痛(psoas sign)がある患者では、腸腰筋血腫を除外するために腹部CTが重要である

Lenchik L, Dovgan DJ, Kier R. CT of the iliopsoas compartment: value in differentiating tumor, abscess, and hematoma. AJR Am J Roentgenol. 1994;162(1):83-86. PMID: 8273696

MKSAP 16: Medical Knowledge Self-Assessment Program

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MKSAP for Students 5

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