栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 費用をかける医者ほど訴訟が少ない/受動喫煙の小児齲歯への影響/サブ解析の3つのポイント/嚥下障害ある脳卒中患者への抗菌薬予防投与/FFRガイド下PCI FAME研究

BMJ

費用をかける医者ほど訴訟が少ない 
Physician spending and subsequent risk of malpractice claims: observational study*1

 これは面白かったです。米国の医療訴訟の多さはご存知の通りと思いますが、その結果としてdefensive medicineが横行し、過剰な検査や治療が行われる可能性が出ています。ただ、一方で本当に過剰な検査や治療を行っている医者が訴訟が少ないか?について、米国フロリダ州に入院した患者と担当医のデータを元に解析した興味深い観察研究が報告されていました。
 論文のPECOは、

P:フロリダに入院した患者1900万人強
E:医療訴訟を受けた医師
C:医療訴訟を受けていない医師
O:患者一人辺りの医療費
T:後ろ向き観察研究
結果:
 医療訴訟は年間2.8%発生。
 医療訴訟を受けた医師では受けていない医師と比較して有意に医療費をかけていないという結果。
 内科・内科専門科・家庭医療・小児科・一般外科・外科専門科・産婦人科と分けていますがそれぞれ有意差が出ている
 患者への医療費毎で5群に分けると、医療費が低いと訴訟リスクが高く、医療費が高くなれば訴訟リスクが下がる結果

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(本文より引用)

 これは興味深い結果であり、残念な結果でもあります。結局defensive medicineいいんじゃね?って流れになりそうだからです。 
 帝王切開でも見ていますが、帝王切開率が上がると訴訟率が下がるというきれいな結果に。訴訟を恐れて早めに帝王切開に切り替える医者の方が訴えられないということでしょうか。もちろん患者アウトカムの評価は十部されていないですし、他にも交絡因子がたくさんあるとは思いますが、患者さんにお金をかけるほど訴訟は減るという結果でした。

✓ 患者一人辺りの医療費と訴訟率は負の相関がある


受動喫煙の小児齲歯への影響 
Secondhand smoke and incidence of dental caries in deciduous teeth among children in Japan: population based retrospective cohort study*2

 今週は日本発の大規模観察研究から。京都大学の公衆衛生教室から受動喫煙と小児齲歯の関連を調査した後ろ向き観察研究が報告されていました。喫煙は齲歯を増やすことはよく知られていますが、今回は受動喫煙の影響です。神戸のデータなのですが神戸では小児は全員4ヶ月・9ヶ月・18ヶ月・3歳で歯科検診を受けているのでそのデータを利用しています。
 論文のPECOは、

P:神戸在住の乳幼児 76920人
E:家族内喫煙あり
C:家族内喫煙なし
O:3歳までの齲歯発症
T:後ろ向き観察研究
結果:全体で82543人のデータがあり、全てのデータが揃っている76920人で検証。  
 全体の55%で両親どちらかが喫煙するがそのほとんどが両親が居ない場所での喫煙
 プロペンシティスコアマッチで受動喫煙は齲歯の独立したリスクで、HR 2.14(1.99-2.29)

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(本文より引用)

 まあ、当たり前のことをきちんと証明した結果ですが、喫煙がある家での乳幼児の齲歯率は2倍上昇するということですね。
 やはり受動喫煙は特に乳幼児にとっては危険です。啓蒙活動は必要です。

✓ 乳幼児期の受動喫煙は3歳までの齲歯発症リスクを2倍にする


サブ解析の3つのポイント 
Three simple rules to ensure reasonably credible subgroup analysis*3

 BMJの統計コーナーは勉強になる無い様がちょいちょいあって興味深いのですが、今回はサブグループ解析についてです。サブグループ解析が行われている時にはいくつか注意すべき点があります。 

 一つ目は多重解析による問題です。これはたくさんサブグループ解析を行えば行う程何かしら有意差が出る項目は出てくるというもので、偽陽性が増える結果になります。もう一つはパワー不足の問題です。サブグループ解析は相対的に解析人数は減りますから、パワー不足になり有意差が付きにくくなり、偽陰性が増えます。これらを踏まえた上で、サブグループ解析は確定的な結果を出すものではなく、仮説検証もしくは仮説提唱のために行うと考えた方が無難です。ところが、研究者・査読者・編集者ともにこの点を十分理解できていないこともあり、結果が誤って解釈されることが出てきます。重要なのはサブグループ解析はあくまでサブグループ解析であり、プライマリアウトカムとしての評価とするべきでは無いということです。また、以下のグラフからも2つ以上のサブグループ解析を行わないことが重要になります。また、サブグループ解析を事後に勝手に組み直すことは原則許されず、試験開始前に事前に予定していたものとすべきです。

 サブグループ解析の結果をさもメインの結果の様に演出して持ってくるMRさんとか、コメントする上級医とかいますから注意しましょうね(自戒もこめて)。

✓ サブグループ解析の結果の解釈について何に注意すべきかを押さえておこう

 


■Lancet■

嚥下障害ある脳卒中患者への抗菌薬予防投与 
Prophylactic antibiotics after acute stroke for reducing pneumonia in patients with dysphagia(STROKE-INF): a prospective, cluster-randomised,open-label,masked endpoint,controlled clinical trial*4

 これは先日も取り上げたテーマ。個人的にはアホ言うなという感じではあるんですが・・・でもよくよく見ると色々興味深いので取りあげてみます。脳卒中患者で嚥下機能が悪くなることはよく知られていますが、急性期脳卒中患者で嚥下障害がある患者さんに対して、ルーチンで予防的抗菌薬を投与することの効果はあるのかを検証した研究です。
 論文のPICOは、

P:18歳以上の発症48時間以内の脳卒中患者1217人
  新規に嚥下機能障害がある(①意識障害、②嚥下テスト陽性、③経鼻胃管挿入)
I:抗菌薬7日間(AMPC or AMPC/CVA+CAMを推奨)
C:通常ケア
O:肺炎発症(アルゴリズム診断)
T:クラスターRCT/ITT解析あり
結果:
 平均78歳、脳梗塞90%、t-PA 32%、NIHSS 15点、胃管留置24%
 ランダム化後に参加しなかった施設が11施設あり
 非介入群でも34%は抗菌薬が使用されている
 プライマリアウトカムは、抗菌薬群 71/564人(13%)、通常ケア群 52/524人(10%)、調整Odds ratio 1.21(0.71-2.08)で有意差なし
 感染症全体で見ると有意に減少。影響は尿路感染症の減少。ただし死亡率は有意に上昇 HR 1.33(1.01-1.75)だった。

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(本文より引用)

 うーん、微妙。抗菌薬の選択は前よりだいぶマシになりましたが、この状況でCAMいれるか?って話ですわ。で肺炎は減らず、UTIが減って死亡が増える・・・
 まあルーチンでは使用しないかな・・・

✓ 脳梗塞急性期で嚥下障害がある患者さんにルーチンで抗菌薬を投与しても肺炎は減らせない


FFRガイド下PCI FAME研究 
Fractional flow reserve versus angiography for guidance of PCI in patients with multivessel coronary artery disease(FAME): 5-year follow-up of a randomised controlled trial*5

 FFRの話題は過去にも何度か出ていましたが今回はPCIを行う際にFFRをガイドして選択的に行うのが良いのかを死亡・心筋梗塞・再潅流などのcomposite outcomeで評価した研究の5年後follow upデータです。前回は1年後で有意差が付いていました。
 論文のPICOは、

P:18歳以上のCAG確認2枝病変以上でPCI適応と判断された患者
I:FFRガイド下で0.8以下のみPCI
C:全例PCI
O:5年後の死亡・心筋梗塞・再潅流療法の複合アウトカム
T:RCT/ITT解析
結果:
 5年経過する中で10%が脱落。
 平均64歳、男性 75%、適応病変は2.8カ所
 プリマリアウトカムは、FFRガイド下群  28%(143/59人)、通常ケア群 31%(154/496人)でRR 0.91(0.75-1.10)と有意差なし
 ステント挿入本数はFFR群 1.9ステント/人、通常ケア 2.7ステント/人

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(本文より引用)

 5年後は有意がつかなかったですねえ。まあ流石に五年も経てばこれくらいリスクの高い人だと色々起こるかもしれないですもんね。でも、逆に予後変わらなくて、ステント入れる本数が少ないんだったらやっぱりFFRやったらいんじゃないの?という結論ですかね。authorらも多肢病変ではFFRをstandardにしていきましょう!とコメントしています。

✓ 多枝病変に対するFFRガイド下PCIは、通常の全例PCIと比較して5年後予後は変わらずステント留置本数は減る