栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 急性期脳梗塞への血栓除去療法の効果/成人での処方薬数の経時的変化/COIでなくconfluence/寄生虫由来腫瘍細胞による癌/ 妊娠中に母親が癌と診断された児の転帰

■JAMA■

急性期脳梗塞への血栓除去療法の効果 
Endovascular thrombectomy for acute ischemic stroke  A meta-analysis*1

 2015年は脳梗塞への血管内治療の飛躍の年と言っても過言ではありません。立て続けにpositiveデータが4つも質の高いRCTとして発表されたため、この分野の評価はがらっと変わりました。今回は2015年8月までに発表された血栓吸引療法に関する研究をピックアップしたメタ解析が行われています。
 論文のPICOは、

P:急性期脳梗塞患者
I:通常治療に加えて血管内治療による血栓吸引を行う群
C:通常治療のみの群(t-PA含む)
O:90日後のmRS 0-2の割合
T:メタ解析/random effect model
結果:
 8RCT、2423人、平均 67.8歳、発症上限は5-12時間、ほぼ全員が前方循環。
 8研究は全てlow risk biasだった
 プライマリアウトカムは、有意に血管内治療群が良好だった。血管内治療群 557/1293人、通常治療群 351/1094人、OR 1.71(1.18-2.49)でNNT 8
 90日死亡は有意差なし、脳出血有意差なし
 サブグループ解析では、論文報告年が2013年か2015年かによって有意差あり、血栓を確認しているかいないかで有意差あり、t-PA併用しているかいないかで有意差ありだった。

f:id:tyabu7973:20151117133430j:plain
(本文より引用)

  まあ、メタ解析結果を見る限り、明らかに2013年前後のものと2015年に発表されたものとでは結果が異なります。これがデバイスの進歩なんでしょうか?どちらにしても血管内治療はt-PAに追加して神経予後を改善するエビデンスのある治療ということになりそうです。血管内治療が出来ない施設で脳卒中を診るということが許されない時代になるかもしれませんね。

✓ 急性期脳梗塞に対する血管内治療はt-PAに上乗せで、90日後の神経予後を改善する


成人での処方薬数の経時的変化 
Trends in prescription drug use among adults in the United States From 1999-2012*2

 ポリファーマシー関連の新たなネタですね。米国の処方箋を解析して過去と現在を比較して処方実態がどうなっているかを調査した興味深い研究です。
 論文のPICOは、

P:20歳以上の非施設入居住人37959人
E/C:1999-2012年に2年おきに定期的にインタビュー
O:最近30日以内の処方率
T:cross sectional研究
結果:
 ポリファーマシーの定義は5種類以上
 薬剤処方については、最近30日の薬剤処方実態では最も新しい統計で1剤以上内服している人は59%、ポリファーマシー状態は 15%、65歳以上でのポリファーマシーは39%程度だった
 経時的にクスリ使用やポリファーマシーは増加傾向
 1999年と比較して11の薬剤が使用量が増加しており、その中で2倍以上に増加したのがスタチン・ARBSSRI・クロピドグレル・筋弛緩薬・抗痙攣薬・PPIだった。

 というわけで1999年と比較すると2012年はポリファーマシー問題はよりコモンになっている模様です。古くて新しい問題なんて言われますが、専門分化が進み、薬剤プロモーション活動も激化していく中、増えてきてしまってるんですね〜。

✓ ポリファーマシーは特に65歳以上の高齢者で増えている
 

COIでなくconfluence 
Confluence, not conflict of interest*3

 最近とにかくCOI流行ですよね。どこもかしこもCOI開示ですが、その本質があまり分かっていないまま進んでいる気がします。今回COIについての解説がVIEWPOINTで取り上げられていました。
 研究の目的は患者や社会への利益追求ですが、この主目的に二次的なinterestを伴う事が多く、その多くが企業との金銭的interestです。このいわゆる金銭的”COI”を無くす動きが進む一方で、COI排除が研究が進まなくなる一因にならないか?とも危惧されています。今回ペンシルバニア大学でCOIについて国際会議が開かれ、いくつかの点が論議されました。

①”COI”という言葉の問題
 「Conflict of interests」というと、不適切行為を含む表現であり基本的に悪いモノという印象があるので良くないのではないか?複数のinterestが存在する事を指すのであれば、「Confluence of interests」が良いのでは?という提案

②金銭だけではないCOI
 金銭だけで無く名誉もCOIと関連する。現在のCOIのfocusがほとんと金銭だが名誉に関するinterestsもあり、これをどう評価するか

③発明者の思い入れ
 これはバイアスが入り込む余地が出てきます。感情的な思いが出てくると研究に対するCOIに繋がると・・・これは仕方ない気もしますが・・・

④企業-アカデミア関係
 企業いわゆるビッグファーマは研究者(アカデミア)との関係は古くから密接で、研究を進めていくためには必要な協力関係です。ただ、度を過ぎて利益を最大化していくことがしばしばあります。

⑤アカデミックな施設
 教育医療機関・施設がバイアスを減らすための教育を研究者・学生に提供すべき

 上記の様な点がコメントされていました。難しいなあとあらためて実感。自分は偏っていないと自信を持って言えるか?と言われれば否でしょうね。バランス感覚本当に重要です。

✓ COIについて改めて考える、金銭的関係のみではない

 


■NEJM■

寄生虫由来腫瘍細胞による癌 
Malignant transformation of Hymenolepsis nana in a human host*4

 これは衝撃の症例。世界初の報告です。すごく端的にいうと寄生虫に発症した腫瘍細胞が人間に癌を発症させたという映画のSFに出そうな設定の実症例。

 症例は41歳男性でHIV患者。主訴は倦怠感・発熱・咳嗽・体重減少で、数ヶ月前とのことで受診。ARTアドヒアランスが非常に悪く、最近のCD4は28、ウイルス量は7万コピー、便中に条虫であるH.nanaとBlastocytosis hominisが存在していた。精査のためにCT検査を施行したところ、肺に最大4.4cmまでの多発結節を認め、肝臓や副腎に結節、頚部・縦隔・腹腔内リンパ節腫脹を認めた。

f:id:tyabu7973:20151117133943j:plain(本文より引用)

 生検で病理を確認したところ、人間の細胞とは異なる細胞膜のほとんどない細胞を認め、浸潤傾向があり、腫瘍細胞のDNAを確認したところ、条虫由来の癌細胞が強く疑われる所見だった。

f:id:tyabu7973:20151117134103j:plain

(本文より引用)

 恐るべしですね。もちろんベースに免疫不全があるとはいえ、感染症として感染するだけで無くその宿主の癌が転移してくるというのは本当の意味で恐怖の寄生虫と言えるかもしれませんね。

✓ 寄生虫由来の腫瘍細胞がヒトに癌を発症させた症例報告がある


妊娠中に母親が癌と診断された児の転帰 
Pediatric outcome after maternal cancer diagnosed during pregnancy*5

 こうゆうのよく調べたなあと。ベルギーからの報告で、母親が妊娠中に癌と診断され、治療の有無にかかわらず胎内でその癌に曝露された胎児の長期予後を提供した貴重な症例対照研究です。
 論文のPECOは、

P:ベルギーの胎児
E:母親が癌を有する群
C:母親が癌を有さない群
O:生後18ヶ月、36ヶ月時点で神経学的検査とベイリー乳幼児発達検査
T:前向きの症例対照研究
結果:
 平均22ヶ月、週数36週出生、平均体重2700g、白人83%
 母の治療内容 外科手術10.1%、化学療法 31.8%、放射線治療 0.8%、手術と化学療法 37.2%、治療無し 10.9%
 出生時体重が10%タイル未満は癌群 22%、非癌群 15.2%で有意差なし。
 ベイリー検査スコアの認知発達機能も両群で有意差なかった

 胎児期にお母さんが癌になってしまうという本当に過酷な赤ちゃん達の貴重なデータ。母親の癌は胎児の全身発達・認知発達などには影響を与えなかったという結果でした。こういったデータを知っていると、ごくごく稀に遭遇するこれらの厳しい状態のお母さんにある程度根拠を持って説明できるかもしれませんね。

✓ 妊娠中に癌がみつかった母親から生まれた児は、通常出産時と比べて発達などは変わらなかった