栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文:認知症が癌診断や疼痛に与える影響

認知症が癌診断や疼痛に与える影響
Impact of dementia on cancer discovery and pain*1

Psychogeriatrics 2011;11:6-13
【背景】
 認知症は癌性疼痛の頻度・訴えに影響することが知られている。ただ、この領域に関する包括的な報告は為されていない。本報告の目的は、大規模精神科病院において認知症が診断過程や癌性疼痛の訴え、オピオイド等の鎮痛薬使用とどの程度関連するかを後ろ向きに評価することである。
【方法】
 1993年から2004年において都立松沢病院の外科病棟に入院していた癌患者を認知症の有無にかかわらずレビューした。認知症以外の精神疾患としては、転移性脳腫瘍、アルコール性精神病、白血病や皮膚癌は除外された。患者の訴えや疼痛は看護記録を基に評価された。
【結果】
 全部で134人の癌患者が組み入れられた。そのうち認知症ありが50人、認知症なしが84人だった。認知症患者では偶発的に癌が見つかった症例が48%、非認知症患者では自発的に医学評価を求めて癌が判明した症例が63%だった。癌性疼痛については、認知症患者では22%だったのに対して、非認知症患者では76%と有意認知症患者で少なかった。Stage Ⅰ〜Ⅱでは認知症 16% vs 非認知症 64%、StageⅢ〜Ⅳでは認知症 26% vs 非認知症 84%だった。

f:id:tyabu7973:20151122013814j:plain(本文より引用)

麻薬性鎮痛薬も非麻薬性鎮痛薬も認知症患者では有意に使用が少なかった。

f:id:tyabu7973:20151122013852j:plain
(本文より引用)


【結論】
 認知症患者は、癌の発見プロセスが大きく異なり、癌性疼痛や鎮痛薬使用が少ない結果だった。

【批判的吟味】 
・まずはいつも通り論文のPECOから。
P:都立松沢病院外科に1993-2004年までに入院した患者
E:認知症患者
C:認知症患者
O:診断プロセス、癌性疼痛の有無、鎮痛薬使用頻度
T:後ろ向き観察研究
・単一施設でなおかつ精神科病院でのデータですから解釈に注意は必要です。
・データも看護記録を基にした後ろ向き観察研究であり、報告バイアスは生まれそうです。記録の標準化もされていないため、一貫した評価ではない可能性があります。
・そもそも認知症患者さんが本当に苦痛がなかったのか、ネグレクトされていないかは多少気がかりではあります。
・この辺りは本文のdiscussionでも触れられています。
【個人的な意見】
 実際に似たような印象を持ったことはありましたので、参考になりました。個人的には逆に認知症患者さんでは疼痛の報告ができず、痛み止めを使用していないという事実に着目したいと思います。これが「声なき声に耳を傾けていない」ということにならないように、Abbey pain scaleなど非言語的な疼痛評価方法を用いながら、注意深く接していきたいと思いました。

✓ 認知症患者は非認知症患者と比較して悪性腫瘍による疼痛の訴えや鎮痛薬使用が少ない