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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 終末期患者への外科的介入/象が癌になりにくい理由/無症候性顕微鏡的血尿の評価/安定狭心症へのPCIと内科治療/冠動脈疾患に対するエベロリムス溶出生体吸収性Scaffolds

■JAMA■

終末期患者への外科的介入 
Surgical intervention in terminal illness- doing everything*1

 最近このJAMAのteachable momentがお気に入り。結構良いこと書いてあります。まずは症例から。

 症例は、70代後半の男性。認知症があり、自分では意思決定が難しい患者さんです。救急外来に低酸素血症、混乱、右半身麻痺で来院。精査の結果、左頭頂葉と小脳に腫瘤を認め、転移性脳腫瘍疑いで入院となりました。入院後の精査では胸部CTで肺塞栓症と多発の転移性肺腫瘍あり。生検ではAdenocarcinomaが検出され、病理的には化学療法は効きにくいと判断。原発不明で放射線治療も脳腫瘍は大きすぎるとのことで、脳外科に緩和的な手術についてコンサルトされました。ステロイド投与で多少症状が改善し、意識が戻った本人は、”do everything”と。妻もそれを聞いて夫が手術を希望していると強く確信し、手術によるリスクや治癒には繋がらないことなどについて相談したが最終的に手術を受けています。術後意識レベルはあまり変わらず、PTEに対する抗凝固を再開した術後3日目に脳内出血を発症し、血腫除去術を施行。最終的にホスピスに転院して術後11日にお亡くなりになりました。

 そもそも転移性脳腫瘍に対する外科的手術の成績は微妙なところです。コクランのメタ解析では生存期間には差がなく機能改善も有意差がなかったとしていますが、一方で合併症も有意差が無かったと結論しています。ただし、この研究の対象患者の多くが若くて合併症もない単発の転移性脳腫瘍患者であり、本例のような高齢者で合併症も多く、多発している病変に適応するのは難しい所です。
 
 リスクが高いにも関わらず終末期に外科的介入が行われる事は稀ではなく、亡くなる1年前に全体の1/3の症例が外科的手術を受けていることが分かっています。特に認知症患者や意識障害がある患者においては、家族が代理意思決定を行っていくことになりますが、他者の治療選択肢について”行わない”という結論を下すことは、患者のことを”見放した”様に感じるために、多くの場合躊躇されます。医療チームがオプションとして提示する様々な介入については、そもそも提示する前に担当医療チームや介入外科医とも十分検討する必要があります。オプションとして提示されたものを断りにくいという文化はありますから。全てが無意味とは思いませんし、恩恵を被ったり、満足感が得られたりする場合もあるとは思いますが、医療を提供しないという選択肢があり、医療から生活の場に戻った時に違う世界が待っているかもしれません。

✓ 終末期患者への外科的介入については、情報提示の方法からよく検討する必要がある
 

象が癌になりにくい理由 
Potential mechanisms for cancer resistance in elephants and comparative cellular response to DNA damage in humans*2

 象の研究!なぜJAMAに!?と思わないでもないですが・・・動物園にいる象はレジストリーがある様で、サンディエゴ動物園の14年間にわたる剖検データを基に、動物の大きさと寿命、癌発症率を比較しています。これによると、最もからだが大きいのは象ですが、体の大きさと癌発症率は関連しませんでした。動物の大きさや寿命の長さと癌発症率は関連しないというデータです。最も癌化率が高いのは、タスマニアデビルでなんと50%に癌が発症しています!

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(本文より引用)

 更に象は大きさも大きく寿命が長いのに癌になりにくい特徴的な動物なので、それについても644頭の象データを用いて解析しています。これによると象の生涯癌発症率は3.1%でほ乳類の中では非常に少ない結果でした。人間はおよそ11-25%なんだそうです。

 遺伝子的検索を行っていて、人間の癌発症率が非常に高いLi-Fraumeni症候群での遺伝子変異との関連を比較してみると象はTP53copiesが20copies以上あるのに対して、Li-Fraumeni症候群の方は1copieしかなく、象が癌になりにくいのはこれをたくさん持っているからではないか?と考察されていました。

✓ 象はほ乳類の中で最も癌が発症しにくい動物である
 

無症候性顕微鏡的血尿の評価 
Evaluation of patients with asymptomatic microhematuria*3

 2012年のアメリカ泌尿器科学会のガイドラインを検証しているClinical Guideline synopsisです。ガイドラインのメジャーな所を取り上げてみますが、課題なのはほとんどがエキスパートオピニオンであるということです。

 無症候性顕微鏡的血尿の定義は、尿沈渣でRBC 3個以上/HPFであり、ディップスティック法のみではAMHとは言わない。これはエキスパートオピニオン。
 感染や生理、過度な運動などの良性の原因が否定的であれば、腎機能や尿沈渣まで含めた尿路系精査が必要になる。まず、下部尿路検査については、35歳以上の患者や尿路悪性腫瘍リスクが高い患者では膀胱鏡を行うべき。リスク因子には、尿切迫症状(頻尿、尿意切迫感、夜間尿)や、喫煙歴(現在も過去も)、膀胱への放射線治療歴、染料やベンゼン、香料などの化学物質の曝露歴がある。下部尿路精査については基本的にはCTが第一選択であり、CT禁忌であればMRIも適応。
 フォローアップについては、顕微鏡的血尿が続く場合でワークアップが陰性なら細胞診を行う。細胞診も陰性であれば年に一回の尿検査で、2年連続で異常が無ければそれ以上の精査は不要(エキスパートオピニオン)。
 初期評価の時点で、腎性変化が疑われる所見(変形赤血球赤血球円柱、蛋白尿、細胞性円柱等)が診られる場合には、泌尿器科的評価より腎疾患の評価が必要である。抗凝固療法中の患者でも扱いは同等。
 
 無症候性顕微鏡的血尿の4%に癌があり、それを探す作業になります。健常人では13-20%が無症候性顕微鏡的血尿を来すという状況ですから、多くの血尿の原因探しは徒労に終わる可能性が・・・。多くの諸外国の検診項目には一般的には含まれておらず、検診に入れているのは日本くらいのもの。基本的にはリスク因子が重要なので、全例スクリーニングはいかがなものか!というところでしょうか。何にせよ、このガイドラインも質の高いエビデンスに基づいていないので今後の研究が待たれる所でしょうか。

✓ 無症候性顕微鏡的血尿のアプローチは基本的には悪性腫瘍を探す作業
 

 


■NEJM■

安定狭心症へのPCIと内科治療 
Effect of PCI on long-term survival in patients with stable ischemic heart disease*4

 安定型狭心症に対してPCIが良いのか内科的治療が良いのかは意見が分かれているところではありますが、現時点では有意な死亡率減少効果は証明されていません。199-2004年にかけてCOURAGE trialというPCI vs 内科治療を比較して平均4.6年フォローアップのRCTがあり、こちらの結果では両群共に有意差なく、狭心症の発症率のみで低くなる傾向でした。ただ、この研究の途中でややPCI群の方が死亡を減らす傾向もあったため、今回長期follow upデータが出ています。
 論文のPECOは、

P:安定型狭心症で70%以上の狭窄がある症例
E:PCI
C:内科的治療群(LDL<70、BP<130/85、禁煙、食事・運動療法、体重減少)
O:全死亡
T:前向き観察研究/RCTのfollow up研究
結果:
 もともとのCOURAGE研究では2287人をPCI群1149人、内科治療群1138人に割り付け
 今回の研究ではフォローアップで来ていない患者がかなり多く、PCI群 532人、内科治療群537人だった
 フォローアップされた患者は、平均63歳、男性 91%、BMI 30、DM 40%、狭心症 88%、3枝病変 32%
 プライマリアウトカムは、PCI群 284/532人(25%)、内科治療群 277/537人(24%)で調整R 1.03(0.83-1.21)と有意差を認めなかった

f:id:tyabu7973:20151122014801j:plain(本文より引用)

 長期フォローアップもダメ!という感じでした。とはいえ、フォローアップ率が半分で、しかもクロスオーバーがどの程度あったかも不明で、かなりlimitationがある研究かなとは思います。先日取り上げたFFRもそうですが、ひとまず狭いところを拡げとけ!という単純な問題でないことは確かです。お金もかかりますし、ここにもマクロな視点が必要です。まあ、もちろん内科的治療群も結構しっかりコントロールしていますが・・・

✓ 安定型狭心症患者に対するPCIは内科的治療と比較して長期フォローアップでも死亡を減らさなかった


冠動脈疾患に対するエベロリムス溶出生体吸収性Scaffolds
Everolimus-eluting bioresorbable scaffolds for coronary artery disease*5

 ついにステントが吸収されてしまう時代に!ステントは金属であるが故に多くのトラブルがあったわけですが、それを生体吸収性のものにしてしまおうという発想です。新時代の到来でしょうか?
 論文のPICOは、

P:安定または不安定狭心症患者 2008人
I:エベロリムス溶出生体吸収スキャッフォールド群(AbsorbⓇ)1322人
C:エベロリムス溶出ステント(XienceⓇ)686人
O:1年時点での病変不全(心臓関連死亡、標的血管の心筋梗塞、虚血による標的血管の血行再建)
T:RCT/非劣性試験+優越性試験、非劣性マージン 4.5%
結果:
 年齢 64歳、男性 70%、BMI 31、高血圧 85%、糖尿病 31%、喫煙 21%
 プライマリアウトカムは、Absorb群 7.8%、Xienxe群 6.1%で非劣性が証明された。
 アウトカム単独でも、心臓関連死亡 0.6% vs 0.1%、標的血管心筋梗塞 6.0% vs 4.6%、虚血による標的血管の血行再建 3.0% vs 2.5%だった。
 デバイス血栓はAbsorb 1.5% vs Xience 0.7%だった。

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(本文より引用)

 まあ、非劣性試験なので、これで良いっちゃ良いのですが、でも結局Xienceで良くない?という感じがします。少なくとも新規に生体吸収デバイスをつくったことのメリットは現時点ではありません。これでデバイス内血栓が減るという結果があれば、必要性が見いだされたのでしょうが・・・もちろん1年フォローアップですから、今後のDAPTを使用しなくても良いかもしれないなどの利点も含めて長期予後データが必要かなと思います。

✓ ステント技術の進歩に伴い、生体吸収デバイスによる血行再建術は通常のDESと同等の効果を有している