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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 消化管出血後の抗凝固再開/糖尿病患者での下肢切断と失明予測/なぜ良い新薬が出てこないのか/カテーテル挿入前消毒の違いによる感染予防効果/CIN 2/3へのHPVワクチン

BMJ Lancet 論文 薬剤 循環器 消化器 内分泌 眼科 整形 感染対策 感染症 ワクチン 産婦

BMJ

消化管出血後の抗凝固再開 
Stroke and recurrent haemorrhage associated with antithrombotic treatment after gastrointestinal bleeding in patients with atrial fibrillation: nationwide cohort study*1

 これは以前から言われていることですが、抗凝固薬を出血イベント発症後にどうするか?という話題。日本は世界的に見ても簡単に中止にし過ぎなんだそうです。今回はこのテーマについて、デンマークの大規模観察研究からの報告です。
 論文のPECOは、

P:1996-2012年までで心房細動があって抗血小板薬か抗凝固薬を飲んでいて消化管出血で入院した患者4602人
E/C:退院時の内服薬(内服なし、抗血小板薬、抗凝固薬)
O:退院90日後以降の死亡・出血・血栓症イベント
T:国民レベルの観察研究
結果:
 平均78歳、CHADS2 2.1点、抗血小板薬単独 53%、虚血性心疾患 38%
 プライマリアウトカムは、何も飲まない(内服中止)群と比較して、
 ①全死亡:抗凝固単剤 HR 0.39(0.34-0.46)、抗血小板薬単剤 HR 0.76(0.68-0.86)
 ②血栓塞栓症:抗凝固単剤 HR 0.41(0.31-0.54)、抗血小板薬単剤 HR 0.76(0.61-0.95)
 ③主要な出血:抗凝固単剤 HR 1.37(1.06-1.77)、抗血小板薬単剤 HR 1.25(0.96-1.62)
 ④再発性消化管出血:抗凝固単剤 HR 1.22(0.84-1.77)、抗血小板薬単剤 HR 1.19(0.82-1.74)

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(本文より引用)

 死亡・血栓塞栓は中止のままと比較すると有意に減少し、抗凝固薬の方がその効果が大きい結果でした。また、出血は抗凝固単独では有意差がつきましたが、他は増える傾向ですが有意差はついていません。ちなみにデンマークでは内服を再開しなかったのは全体の27%でした。

 限界としては、処方確認の関係でカルテデータからだと90日以内は過去処方との区別が付かなかったため、90日後以降でアウトカム評価を行いましたが、実際にイベントが最も起きたのは90日以内だったので、本当はこの期間も評価に加えたいところです。まあ何にせよ出血イベントが落ち着いたら再開する方が良いのでしょうね。

✓ 心房細動患者で抗凝固中に出血しても、抗凝固は再開した方が死亡・血栓塞栓イベントは減らせる
 

糖尿病患者での下肢切断と失明予測 
Development and validation of risk prediction equations to estimate future risk of blindness and lower limb amputation in patients with diabetes: cohort study*2

 糖尿病患者のアウトカム評価では心血管イベントや死亡が真のアウトカムとされています。一方で下肢切断や失明などの微小血管病変については、リスクが強調されていますが、治療による正確なリスク・ベネフィットを伝える必要があります。CVD予測スコアなどはありますが、切断・失明予測スコアはほとんどありません。今回英国のプライマリケアデータを使用しスコアを作成し、その妥当性を評価しています。

①Development
 45万人のデータを用いてまずは切断・失明に関する予測因子を抽出。
 平均年齢60歳、95%が2型糖尿病の観察研究データ。
 下肢切断は2-3件/1000人年、失明は2-3件/1000人年程度発症。
 A:切断に関連する因子としては、
  1.糖尿病罹病期間 10年以上でHR 3.30(男)、HR 3.49(女)
  2.喫煙状態 heavyでHR 1.89(男)、HR 1.26(女) 
  3.人種 アジア人 HR 0.70(男)、HR 0.42(女)
  4.合併症:RA HR 1.50(男)、HR 1.39(女)、心不全 HR 1.79(男)、HR 1.34(女)、PAD HR 4.26(男)、HR 3.16 (女)、CKD  HR 2.68(男)、HR 2.26(女)
 B:失明に関連する因子としては
  1.糖尿病罹病期間 10年以上でHR 2.17(男)、HR 2.09(女)
  2.脂質異常症 HR 1.06(男)、HR 1.03(女) 
  3.合併症:1型糖尿病 HR 1.50(男)、HR 1.44(女)、CKD  HR 1.49(男)、HR 2.57 (女)、増殖期網膜症 HR 2.67(男)、HR 2.93(女)

②Clinical prediction model作成
 下肢切断のスコアは、年齢・収縮期血圧HbA1c値・糖尿病罹患期間・喫煙状態・人種・関節リウマチ・心不全・PAD・CKD値を元に作成され、男性ではそこに糖尿病の型と心房細動を加えた。
 失明のスコアは、年齢・コレステロール/HDL比・収縮期血圧HbA1c値・糖尿病罹患期間・糖尿病の型・CKD・増殖性網膜症の有無を元に作成された。

③Validation
 CPRDとQResearch validationの2つのコホートでスコアが評価された。
 切断スコアも失明スコアもどちらも男女ともにC-statics>0.7であり有効な結果だった。

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(本文より引用)

 というわけであっという間にPrediction scoreができましたよーと。英国のすごいところはもうこのスコアをwebベースで入力して自動計算できるサイト(http://www.qdiabetes.org/amputation-blindness/index.php)を作っちゃったとこでしょうか。この辺りはすごいっすね。同時計算で切断リスクと失明リスクが出てきます。
 まあ、ただこのリスクスコアを実際に使うときには、「ふーーん・・・で?」みたいな感じになったり、あまり脅すだけでも意味が無いので悩みどころです。リスク層別化し対応を変えるとかでアウトカムを変えられたらやる価値があるかもしれませんね。

✓ 英国で糖尿病患者の切断・失明リスク予測スコアが開発され比較的良いスコアだと証明された


なぜ良い新薬が出てこないのか 
Why the drug pipeline is not delivering better medicine*3

 新薬はたくさん出ているものの、患者さんに本当の意味で利益をもたらす新薬はあまり多くないのも実情です。この辺りを実にBMJらしい切り口で解説しています。

①過去のクスリより優れたクスリが少ない
 以前は新薬というと、治療薬がない領域の新薬だったり、過去のクスリを圧倒する効果の薬でしたが、昨今ではそれを「新薬」の定義としてしまうと、新薬が出てこないということもあり、新薬のインパクトが薄れてきてしまっています。いわゆる”me too drug”が多すぎてしまい、本当に必要かどうかも分からない薬がわんさか発売されてきています。そして、医療費・薬剤費は20年前の2.5倍にまで膨れあがっています。

②政府の問題
 FDA・EMA、日本ではPMDAといった認可団体が、新薬規制を緩めたというのも一因として挙げられます。具体的には、プラセボ比較OK、非劣性試験OK、サロゲートOKあたりでしょうか。これによって薬のマーケットが爆発的に成長しました。その成長を助けたのは上記me too drugだったりするわけです。

③企業の問題
 製薬企業は研究・開発といった新薬に関係する部門よりもマーケットに専念することになったのも一因です。企業は研究開発にかける費用の2倍プロモーション活動に費用をかけ、新規開発のリスクをさけて確立された領域で薬をチョコチョコっといじって発売するという姑息な作戦に出ています。例えば、15種類のβ遮断薬、30種類以上の糖尿病薬なんているか!?という話です。最近のSGLT-2阻害薬やDPP-4阻害薬をこぞって各社が発売するのも異様な光景ですよね。この辺りは企業の体質もありますが、政府や行政機関がコントロールすべき所かもしれません。自由競争の阻害は問題ですが、不適切な乱立は患者メリットは少ないと思います。

 とにかく全体としては政府が主導権をとって、me too drugではなくsuperior drugを作るようなインセンティブを与えて、国家的な戦略としての新薬開発を目指していかないといけないですね。なかなか辛口ですが、でもまさに正論。こうゆうの読むとBMJ流石!という感じですね。

✓ 新薬開発の道は険しいが、現状のme too drugばかり開発している状態では医療費の無駄使い!

 


■Lancet■

カテーテル挿入前消毒の違いによる感染予防効果 
Skin antisepsis with chlorhexidine-alcohol versus povidone iodine-alcohol, with and without skin scrubbing, for prevention of intravascular-catheter-related infection(CLEAN): an open-label,multicentre,randomised,controlled,two-by-two factorial trial*4

 CVカテ挿入前の消毒は何が良いか?という話題です。現状では多くのガイドラインでクロルヘキシジンを推奨しており、本邦でも導入した施設も多いのではないでしょうか?当院では未だ院内統一とはしておらず、使用頻度はあまり無いのが現状です。また、濃度がちょっと違ったりとまだまだ現場でどうするかは悩ましい所です。ただ、今までの研究は大規模かつ質の高い研究はなかったとのことで、今回RCTが組まれました。factorial designでちょっと複雑ですが、ご紹介。ちなみにonline firastで出ていて、1ヶ月ちょい前くらいに話題になりました。
 論文のPICOは、

P:ICU入室患者でカテーテル(CV・Aライン・透析カテ)が必要な患者を連続的に組み入れ
 (48時間以上カテーテルが必要であると見込まれる患者、48時間以内に死亡リスクが高い患者は除外)
I/C:
 ①クロルヘキシジン+アルコール vs ポピドンヨード+アルコール
 ②消毒前に看護師が最低15秒は消毒入りガーゼで消毒する群 vs ルーチンの消毒はしない群
 (どちらの群も30秒は消毒し乾いたらドレープを敷いて挿入。挿入後の被覆は24時間後に一度、以降3-7日置きに交換。交換時も割り付け群の消毒薬を使用)
O:カテーテル関連感染症発症頻度
T:RCT/ITT解析/2×2のfactorial design
結果:
 組み入れ率がすごく高くて2546人で適格性を確認し2349人が組み入れ。4群に割り付け。
 平均64歳、男 63%、内科入院 73%、挿管患者 71%、入院死亡率 34%
 動脈カテ 47%、CV 42%、透析カテ 11%
 プライマリアウトカムのカテーテル関連感染は、クロルヘキシジン群がヨード群と比較して有意に減少 HR 0.15(10.05-0.41)
 血流感染の証明された症例でも有意に減少。消毒前の看護師の消毒では有意差でなかった HR 1.03(0.57-1.88)。

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(本文より引用)
 1000カテーテル日でいうと1.77と0.28ですから歴然。
 ただし、重篤な皮膚反応はクロルヘキシジン 3%、イソジン 1%と有意にクロルヘキシジンが多い結果だった。

 まあやっぱりクロルヘキシジンはすごい!というところなのですが、今回使用されている2%製剤は日本では使えないモノではあります。あとは、そもそもがCVカテ感染率がえらい低いので、そこを更に下げられるというのが脅威ですね。さて、コレを受けて今後どうするかは再度検討してみようと思います。

✓ カテーテル関連感染はクロルヘキシジン消毒によって有意に減少する
 

CIN 2/3へのHPVワクチン 
Safety,efficacy,and immunogenecity of VGX-3100, a therapeutic synthetic DNA vaccine targeting human papillomavirus 16 and 18 E6 and E7 proteins for cervical intraepithelial neoplasia 2/3: a randomised,double-blind placebo-controlled phase 2b trial*5

 HPVワクチンの接種率の問題は日本だけでなく諸外国でもあまり上がっていないのが現状の様です。今までは予防的戦略のみでしたが、今回なんとCIN2または3の病変に対するワクチン投与の効果を検証した研究が報告されていました。これってもうワクチンの範疇を超えているのではないかしら?
 論文のPICOは、

P:18-55歳のHPV 16かHPV 18によるCIN 2または3の患者167人(36施設)
I:HPVワクチン 0,4,12週の3回
C:プラセボ同スケジュールで3回
O:36週時点でCIN1または正常
T:RCT/per protcol解析 or ITT解析
結果:
 平均30歳、CIN3が72%、BMI 25
 プライマリアウトカムでは、per protcol解析では、HPVワクチン群が53/107人(49.5%)、プラセボ群が11/36(30.6%)だった。modified ITT解析でも、HPVワクチン群が55/114人(48.2%)、プラセボ群が12/40(30.0%)だった。

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(本文より引用)
 接種部位反応は、ほとんどの患者で起こり、紅斑はワクチン群で有意に多かった。 78.4% vs 57.1%

  何にしてもCIN3をこれだけ減らせるってすごいなあと思います。まあ、一方でプラセボでも3割消えるってどういうこと?と思いましたが・・・ちょっと素人ながら調べてみると、CIN3の中にはcarcinoma in situと高度異型とどちらも含まれている模様ですね。CIN2以下は自然治癒する可能性もあるという記載もあり、なかなか微妙な問題です。ただ、今回はどちらかと言えばCIN3が多い集団でしたから、今後に期待できるかもしれません。

✓ 新規開発中のHPVワクチンの効果としてCIN3の退縮効果が期待できるかもしれない