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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 脂質異常症治療に医者と患者にインセンティブ/この胸痛患者にACSはあるか?/終末期患者への抗菌薬使用/積極的降圧vs 通常降圧/左冠動脈ステントの移動

■JAMA■

脂質異常症治療に医者と患者にインセンティブ 
Effect of financial incentives to physicians, patients, or both on lipid levels*1

 LDLを下げて心血管リスクを減らすにはスタチンが効果的である事は、議論を待たないところでしょうか。一方でLDLが高いけれど治療されていない理由の多くに、医師側もしくは患者側のアドヒアランス低下が関与しているといわれています。今回そのアドヒアランスを上げる為にインセンティブを与えてみたら結果がどうなるかを評価しています。
 論文のPICOは、

P:18-80歳のLDL高値の患者(①10年フラミンガムリスク>20%+LDL≧120、②CHDと≒同等+LDL≧120、③10年フラミンガムリスク 10-20%+LDL≧140)
I/C:①通常ケア、②患者介入、③医師介入、④患者・医師双方介入
O:12ヶ月後のLDL値
T:RCT/ITT解析あり
結果:
 まず患者介入の具体的方法ですが、電子化された薬剤(スタチン)を渡し、開封するとwebに反映されるシステムを導入。1つ開封すると翌日くじ引きが出来て、二桁の数字が当たると100$ゲット。
 医師介入は、3ヶ月おきに患者がアウトカム(①3ヶ月でLDL ↓10mg、②中等リスク患者 LDL<120、③高リスク患者 LDL<100)を満たした場合に256$ゲット
 医師:平均医者歴18年、女医 37%、組み入れ患者数4-5人
 患者:平均62歳、女性 40%、年収>1000万 20%、ベースラインの服薬遵守率が 46%前後
 プライマリアウトカムでは、①通常ケア LDL 25.1mg/dL低下、②患者介入 25.2mg/dL低下、③医師介入 27.9mg/dL低下、④両方介入 33.6mg/dL低下
 有意差があるのは両群介入群だが、効果は8.5mg/dL程度とかなり少ない

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(本文より引用)

 結局お金を上げたからLDLが下がるというわけでもないですね。アドヒアランスも見られていますが、やはり時間が経てば経つ程下がってくる傾向でした。まあ、そんなにんじんぶら下げてもしょうがないのと、これで更に真のアウトカムが変わる事ってあまりないだろなあと・・・

✓ 脂質異常症の治療でアドヒアランスを上げる為に、医師・患者にインセンティヴをつけても効果は少ない
 

この胸痛患者にACSはあるか? 
Does this patient with chest pain have acute coronary syndrome?*2

 言わずと知れたJAMAのrational exam。今回は結構ど真ん中直球で来たなあという感じです。救急外来における胸痛受診患者のマネージメントは永遠の課題です。根拠ははっきりしないものの、帰宅させるとしたらACSの可能性が1%未満になったらというのを目標にしたいと。通常は、病歴・身体所見のみで迫るrationla examではありますが、胸痛患者では、心電図とトロポニンTはさすがに取ってあるよね〜というのが前提で、病歴・身体所見・心電図・TnTの結果でどこまでACSを評価出来るかを検討しています。今回は1995-2015年までの英語論文をMEDLINE、EMBASEで検索し、救急外来を受診した胸痛患者のデータを抽出し、全部で58の研究結果を参照としています。ちなみにSTEMIも見れば分かるということで、対象はNSTEMIです。
 
 まずそもそもが所見の再現性ですが、胸痛の性状や部位についての病歴はκ値 0.29-0.37と著しく悪く、病歴を取る医者によって異なることを露呈致しました。心電図所見はκ>0.55、リスク因子の病歴 κ>0.6とこちらは良好です。また、医師の直観的なものを評価した研究が一つあり、「これは間違いなくACS」と医師が判断した場合の陽性尤度比は 4.0でした。また「絶対ACSではない」と判断した場合の陰性尤度比は0.36でした。ちなみに今回の検証では検査前確率を13-14%で設定して検証しています。

 まず危険因子ですが、陽性尤度比が2を越えるのはPAD既往 LR 2.7(1.5-4.8)と負荷試験陽性 LR 3.1(2.0-4.7)でした。続いて症状では、LR>2は①両腕の放散痛 LR 2.6(1.8-3.7)、②前回の虚血の際の症状と同様 LR 2.2(2.0-2.6)、③24時間で症状変化 LR 2.0(1.6-2.5)でしたが、どれも微妙。いわゆるtypical chest painであってもLR 1.9、ニトロで症状改善 LR 1.1と燦々たる結果です。身体所見では低血圧(sBP<100mmHg)はLR 3.9(0.98-15)でしたが、とりあえず95%信頼区間広すぎで評価はかなり難しい結果。動悸とともに症状が出る場合にはLR 0.28とかなりACSの可能性を下げる結果でした。心電図所見では、①ST低下は LR 5.3(2.1-8.6)、虚血性心電図変化 LR 3.6(1.6-5.7)でした。

 まあ、ここまで見てどの所見もまあ微妙なので組み合わせて診ましょうとのことで過去のpredictionスコアを検討するとHEART scoreやTIMI scoreが出てきました。結果としてTIMI高スコアは LR 6.8(5.2-8.9)となかなか良好で、TIMI低スコアはLR 0.31(0.23-0.41)と可能性をかなり下げてくれる結果となっています。

 結局所見一つ一つだとどうしようもなくて、組み合わせて考えるということと、時間軸をうまくもちいてフォローアップや他の検査を適切に用いましょうとコメントされていました。

✓ NSTEMI患者でのACS診断には単独の病歴・身体所見・検査所見はそれぞれ十分な診断能はなく、TIMIスコアなどのリスク評価方法を用いて検討する必要がある


終末期患者への抗菌薬使用 
Antimicrobials at the end of life an opportunity to improve palliative care and infection management*3

 これは結構永遠のテーマかなと思っています。個人的によく遭遇するのは胆道系悪性腫瘍でステント留置したものの狭窄しかかって感染繰り返すとか、頭頸部腫瘍で自壊した部分から感染を繰り返すなどの状況でしょうか。また、認知症終末期などでは、最期の見極めが難しく抗菌薬がいたずらに長引くケースもあります。
 
 終末期患者では発熱や感染が多いことはよく知られています。入院中の末期進行癌患者の90%は亡くなる一週間以内に抗菌薬が投与されているとか施設での末期認知症の42%で亡くなる2週間以内に抗菌薬が投与されているというデータがあるんだそうです。更にはホスピスでも亡くなる1週間前に25%は抗菌薬が使用されるとか。難しいのはこの手の抗菌薬使用の多くが感染症の根拠に乏しい状況で使用されていることです。抗菌薬そのものは無害と思われがちですが、副作用・薬物相互作用・CDIリスクにはなし、感染評価の為の各種検査も患者の負担になります。明らかに終末期の患者に「血液培養2セット!」って叫ぶのもなかなか辛いものがあります。

 多くの医者は抗菌薬使用によって、死亡率↓・症状改善を期待しますが、実際にそれを証明したRCTはなく、前向きの観察研究では生存率を改善させたが、快適性は下がったという結果でした。抗菌薬使用についても、Advanced care plannningの一つとして決めておくのも一つの方法です。起きてから決めるのではなく、起きる前に予め決めておくというやり方です。

 担癌患者は感染リスクでかつ耐性菌発症リスクも高く、通常の感染症よりも更に専門的な判断が必要になります。感染の評価方法や具体的な抗菌薬適応、快適性を高める感染管理、抗菌薬以外の対処方法の確立が求められています。感染症医と緩和ケア医がよく相談して結論を出したい問題です。

✓ 終末期患者の抗菌薬使用は原則overに使用されている傾向あり。本当に必要か、患者の症状緩和に繋がっているかよく検討しよう

 



■NEJM■

積極的降圧vs 通常降圧 
A randomized trial of intensive versus standard blood-pressure control*4

 これはちまたで話題になっていたSPRINT研究です。血圧の目標値ってこれだけたくさんの研究がされているのに未だ定まらない永遠のテーマだったりします。高齢者を中心に目標値が比較的緩くなっていますが、実際のところどうなのかを非糖尿病患者で検証したRCTが報告されていました。
 論文のPICOは、

P:収縮期血圧が130mmHgで心血管リスクのある非糖尿病患者9361人
I:収縮期血圧目標 120mmHg未満群(強化治療群)
C:収縮期血圧目標 140mmHg未満群(標準治療群)
O:心筋梗塞ACS脳卒中心不全・心血管系死亡の複合アウトカム
T:RCT/ITT解析あり
結果:
 平均 68歳、75歳以上が28%、フラミンガムリスク>15%が61%、平均血圧 140/78程度、BMI 30
 アドヒアランスは良好で強化治療群の血圧は概ね120mmHg程度まで減少
 プライマリアウトカムは、強化治療群で243/4678人(5.2%)、標準治療群で319/4683人(6.8%)であり、HR 0.75(0.64-0.89)と有意に強化治療群が少なかった。ちなみに複合アウトカムの中で有意差がついていた項目は、心不全・心血管死亡・全ての死亡だった。

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(本文より引用)
 サブ解析では、75歳以上の高齢者でより効果が高く、男性の方が効果が高かった。

 というわけで、糖尿病がない人で心血管リスクが高い患者さんでは、積極的降圧が心血管関連の複合アウトカムを減らす結果でした。ただし複合アウトカムの中で心不全などで稼いでいる嫌いもあり注意が必要ではあります。さて、これを受けて我々は血圧目標をどう設定するか・・・高齢者では下げすぎない方が良いという意見とぶつかりますねえ。

✓ 心血管リスクの高い非糖尿病の高血圧患者では120mmHg以下の積極的降圧が心血管関連のアウトカムを減らした


左冠動脈ステントの移動 
Left main coronary artery stent migration*5

 これも結構衝撃の画像でしたねえ。22歳の女性で原発性肺高血圧症既往がある患者が、LMTに留置したステントが大動脈内に移動してしまっているとのことで受診。患者は肺移植の適応について紹介されていた。彼女の症状は、繰り返す胸痛と失神症状を12ヶ月以上前から認めていた。初期評価の血管造影検査では、左主冠動脈の狭窄があり、おそらく拡大した肺動脈による外部からの圧迫と判断された。その後PCIが施行され、DESが2本留置された。

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(本文より引用)

 今回ステントが押し出された理由はやはり120mmHg近い肺動脈圧とそれによる肺動脈拡大による圧排と考えられた。病変部位や複雑さを考慮すると、一旦ステントを抜去し、血管形成を追加で行う事で合意となった。彼女は心臓・肺それぞれの移植リストで待機し、最終的に移植手術を施行。移植1年後のフォローアップで症状はなく元気にしている。

✓ 肺高血圧症によってステントが押し出されてしまうことがある