栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 糖尿病性増殖性網膜症へのVEGF阻害剤/ハムストリング近位部損傷の治療/1型糖尿病への人工膵臓/エンパグリフロジンエディトリアル/高血圧治療の目標値

■JAMA■

糖尿病性増殖性網膜症へのVEGF阻害剤 
Panretinal photocoagulation vs intravitreous ranibizumab for proliferative diabetic retinopathy*1

 1980年代の糖尿病性網膜症の研究でレーザー治療が増殖性網膜症の高度視力低下を50%減少させて以降、増殖性網膜症へのレーザー治療はスタンダード治療となっています。今回、そのスタンダード治療にVEGF阻害剤であるranibizumabが待ったをかける形で検証されています。
 論文のPICOは、

P:米国55施設の増殖期糖尿病性網膜症患者305人
※両眼異常が89人でその場合は両眼を組み入れし合計394眼が組み入れ。
I:Ranibizumab 0.5mg硝子体内注射群
C:汎網膜凝固療法群
O:2年後の視力変化 
T:RCT/非劣性試験/ITT解析
結果:
 平均52歳、女性 43%、2型糖尿病 73%、糖尿病罹病期間 18年
 プライマリアウトカムの視力は、ranibizumab群 +2.8、汎網膜凝固群 +0.2で両群差 +2(-0.5 to +5.0)で非劣性だった。

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(本文より引用)

 汎網膜凝固群の方が有意に黄斑変性を増やした(ranibizumab群 9%、汎網膜凝固群 28%、両群差 19%:10-28%)

 とりあえず、非劣性の証明は出来た模様です。非劣性試験の場合には、新規療法に何かしらの”売り”がないといけません。汎網膜凝固療法は末梢領域の視力低下や糖尿病性黄斑浮腫を来しうることが知られていて、ranibizumabは黄斑変性の治療にも用いられるという点が売りの点でしょうか。硝子体注入は複数回注入が必要で、きちんとモニターできるか?2年以上の効果や追加治療の必要性は?費用の問題はどうか?などが今後課題になっていきそうです。まあ、まだまだレーザー凝固が主流である事は間違いないでしょうね。

✓ 糖尿病性増殖性網膜症に対してVEGF阻害剤は汎網膜凝固療法と非劣性だった


ハムストリング近位部損傷の治療 
A proximal hamstring injury -getting off a slippery slope*2

 最近JAMAのless is moreをひたすら読んでおりますが、毎回毎回勉強になります。今回は自身の体験をMGHの総合内科医であるMichael J.Barry先生が語っております。Barry先生は、テニス中にボールが右大腿背側に強くぶつかって、ハムストリング付近の腱断裂と筋損傷を発症。当初はリハビリを勧められたのですが、リハビリの先生から「もう少し精査した方がよくないすか?」と言われて、外傷専門の整形外科専門医を受診することになりました。

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(本文より引用)

 受診前に自身でsystematic reviewを見てみると(この時点で結構嫌な患者ですが笑)、近位のハムストリング損傷に対する外科的治療と保存的治療を比較したRCTはなく、様々な推奨は概ねexpert opinionに基づくものだと言うことが分かりました。これを見ながらBarry先生の頭の中にはless is moreが浮かんできたのだといいます。専門医の診察ではまず研修医からは手術を勧められ、シニアレジデントは経験上は保存的両方でイケルとアドバイスしてきました。Barry先生は驚きながらも、less is moreの法則に則って、経過観察という方針を選択。手術介入による更なるcomplicationを避けるという方針をとりました。結果的には経時的に筋力低下は改善傾向となり、仕事復帰されています。

 Barry先生は自身の体験を通して、疾患の自然歴の蓄積は重要で、保存的治療を行った場合にどの様な経過を辿るかをもっと報告した方が良いとコメントしています。身体の素晴らしい快復力は記述するに値し、多くの最先端(cutting edge)の治療法よりも有益かつ教育的です。この様な情報があることで、疾患から回復しようとしている患者に対する滑りやすいスロープを回避してあげる事ができるよね〜と。自然歴大事です!

✓ 疾患の自然歴は非常に重要。我々はつい我慢しきれなくなり介入優先になるが、介入による害と人体の快復力も考慮すべき

 

 


■NEJM■

1型糖尿病への人工膵臓 
Home use of an artificial beta cell in type 1 diabetes*3

 2014年に人工膵臓1型糖尿病患者への臨床応用の研究が報告されていましたが、今回はその研究の追試的なRCTが報告されています。

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前回の研究では5日間の臨床応用の研究だったため、今回はreal worldで12週間使用したデータを報告しています。
 論文のPICOは、

P:WHO基準の1型糖尿病基準を満たす成人および小児
  最低6ヶ月以上インスリンポンプ使用歴のある58人が対象
  2-8週のrun-in-periodを設けて
I:ポンプ12週 ⇒ 人工膵臓12週
C:人工膵臓12週 ⇒ ポンプ12週
O:12週間の血糖コントロール(成人は血糖70-180、小児 70-145の比率)
T:RCT/クロスオーバー
結果:
 成人は平均40歳、DM歴20年、ポンプ歴 8年、HbA1c 8.5%
 小児は平均12歳、DM歴 5年、ポンプ歴 3年、HbA1c 8.1%
 プリマリアウトカム:
 ①成人の血糖良好な期間の割合は、人工膵臓群 67.7% vs ポンプ群 56.8%で両群差 11.0(8.1-13.8)と有意差あり
 ②小児の血糖良好な期間の割合は、人工膵臓群 61.2% vs ポンプ群 51.6%で両群差 8.9(5.9-11.8)と有意差あり
 低血糖の頻度も人工膵臓の方が少なかった

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(本文より引用)

 人工膵臓の臨床応用もついに12週のテスト期間までやってきましたね。インスリンとグルカゴンの両刀をCGMを行いながら自動調整できるというのは確かにかなり魅力ですね。あとは費用的な問題とデバイスの扱いやすさが課題でしょうか。今後が楽しみな話題の一つです。

✓ 人工膵臓の臨床応用研究では、インスリンポンプと比較して血糖コントロール良好な期間が有意に増加する


エンパグリフロジンエディトリアル 
Cardiovascular risk and sodium-glucose cotransporter 2 inhibition in type 2 diabetes*4

 かなり前にOnline firstで発表されたエンパグリフロジンですが、実は先週掲載されていました。

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これ、タイミングが悪いことにもう一つの目玉研究のSPRINT研究と重なってしまっていて、NEJMの中ではSPRINTの盛り上がりの影に隠れてしまった感があります。それでもeditorは比較的冷静に今回のエンパグリフロジンについて振り返っています。

 これまでの2型糖尿病に対する薬剤はほとんどといって良いほど心血管イベントを減らす事ができないでいます。今回のSGLT2阻害薬研究では死亡が有意に減ったというのが多くの驚きを読んだわけです。色々突っ込みが入っていますが、それにしたって過去に同じ土俵で全く効果が証明されていない他の薬剤に比べればかなり良い結果とも言えます。editorialはその部分に触れつつも冷静に今回の研究で注意すべき点についてコメントしています。箇条書きにすると以下。

①高リスク患者のみ

②糖尿病歴長く、大変は10年以上の罹病歴があり薬剤も多数内服中
③ほぼ全例白人(アジア人20%)

 今回の研究結果で確定的とするにはまだ時期尚早だとは思いますが、今後の追加試験などの結果についても期待して待ちたいと思っています。色々書いていますが、SGLT-2阻害薬についてはいまだ使用したことはございません(`・ω・´)キリッ

✓ 死亡を減少したSGLT-2阻害薬エンパグリフロジンの今後の結果に要注目


高血圧治療の目標値 
Timet to reassess blood-pressure goals*5

 さて、先週のNEJMでもっとも盛り上がっていたのはこっち。血圧120mmHg未満の積極的降圧を目標とした群が心血管関連アウトカムを改善したというSPRINT研究について。

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 今回はエディトリアルを取り上げてみます。高血圧の定義である140/90mmHg以上とした場合には米国で7000万人以上、世界では10億人以上が高血圧と定義されるという試算になるそうです。で、高血圧治療の効果が証明されたのは1950年代のかなりひどい高血圧患者で、軽症高血圧患者に対する治療効果もマイルドではありますが、証明されつつあります。降圧のエビデンスは揃いつつありますが、どの程度まで下げることが良いのかは専門家の間でも意見が分かれていてcontroversyでした。過去のガイドラインでも変遷があり、2003年にJNC-7はDM・CKD患者では130/80mmHgに引き下げましたが、今回JNC-8では再度140/90mmHgに戻し、60歳以上は150まで引き上げています。AHAでは冠動脈疾患高リスクもしくは冠動脈疾患患者では130/80mmHgだったのを140/90mmHgに引き上げたばかりでした。

 世界的には降圧目標が緩くなるんだろうなあと薄目で眺めていたところに今回のSPRINT研究の結果です。少なくとも150mmHgは高すぎるとは言えるかも知れません。今回のSPRINT研究の降圧目標120/80mmHgでしたが、いくつか注意すべき点があります。まずは実際のSPRINT研究の結果でも120/80mmHgが達成できた症例は全体の1/2であり、そこまでの降圧は出来ていないこと、リアルワールドでは細かくモニターする事は困難だろうということが予測されるためです。この辺りを考慮すると現実的に130/80mmHgあたりが妥当な目標であり、血管リスクの少ないSPRINT研究の対象患者さんのような患者層では血圧目標値は130/80mmHgでも良いのかもしれません。これらの血圧目標を達成するためには多職種の協力が不可欠であり、薬剤師や栄養士などと協力して外来管理をしていく必要があるのかもしれません。

✓ SPRINT研究を元に、血圧目標値は従来の目標値よりも下方修正が必要になる可能性がある