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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet じゃがいもを食べ過ぎると妊娠糖尿病が増える/爪の異常/メトホルミンは本当に2型糖尿病の第一選択薬なのか?/パーキンソン病の歴史/腹部大動脈瘤スクリーニングをめぐって

BMJ Lancet 論文 内分泌 栄養 産婦 身体所見 皮膚 薬剤 神経 歴史 検診 循環器

BMJ

じゃがいもを食べ過ぎると妊娠糖尿病が増える 
Pre-pregnancy potate consumption and risk of gestational diabetes mellitus: prospective cohort study*1

 じゃがいも好きにはなかなか辛い研究です。子供の頃、畑でとれたのを食べてたのが原因ではないかと思うのですが(笑)。そもそもじゃがいもは、世界で最も消費されている穀類の一つで、米、麦に次いで第3位とされています。じゃがいもの健康に与える影響はよく分かっていない部分もありますが、いくつかの疫学研究に寄ればじゃがいも摂取量が増えれば、空腹時血糖・インスリン抵抗性・2型糖尿病リスクがあがるとされています。そもそもじゃがいもを野菜に分類すべきかも意見が分かれております。
 さて、そんな中看護師コホートを利用して、じゃがいも摂取量と妊娠糖尿病の関連を前向きに観察したコホート研究が報告されていました。
 論文のPECOは、

P:1991-2001年のNurse’s Health StudyⅡのコホートに含まれた15632人の女性。GDM既往や慢性疾患のある方は除外。
E/C:週に食べるじゃがいも量
O:GDMの診断
T:前向き観察研究
結果:
 患者は平均32歳、DM家族歴11%、BMI 23、喫煙歴 7-9%前後
 じゃがいも摂取量は、週1回未満、週1回、週2-4回、週5回以上の4群に分類。
 GDM発症率は、週1回未満 136/4336(3.1%)、週1回 211/5763(3.7%)、週2-4回(4.2%)、週5回以上(9.8%)と用量相関関係が認められた。

f:id:tyabu7973:20160130011828j:plain(本文より引用)

 じゃがいもの調理方法も、baked、boiled、mashed、French friesで関係なし。

 というわけでじゃがいも食べ過ぎちゃだめかもしれません。まあ、前向きとは言え観察研究ですから、RCTとかで評価が必要なんでしょうけど。じゃがいも介入なんてされたらたまったもんじゃ無いですしね。まあ、付け合わせに必ずじゃがいもが出てくる国だとだいぶ違うんだろなあ・・・

✓ じゃがいもを食べ過ぎると妊娠糖尿病は増える



爪の異常 
Nail changes*2

 さらっと症例問題。

 67歳の女性が乳癌に対する5回目の化学療法の合間に診療所を受診しました。身体所見では爪の変化あり。この爪の名称とその変化の理由は何ですか?

f:id:tyabu7973:20160130011936j:plain
(本文より引用)

  Mee’s lineは、Beau’s lineの亜型と考えられ、手足の爪に深くえぐれた横線が出るのが特徴的です。この所見はオランダの内科医のR.A.Mees先生が名付け親で、1919年に報告したのが最初でした。Mee’s lineは化学療法に加えて、腎不全・マラリア・ひ素中毒・タリウム中毒などの重金属中毒で見られます。病態生理は実はよく分かっていません。化学療法の間隔が21日で、爪は一般的には0.1mm/日延びているので、横線と横線の間隔は2mm程度でした。化学療法は爪がもろくなったりすることはありますが、本症例の様な典型的なMee’s lineは珍しいかもしれません。


✓ Mee’s lineをみたら、化学療法や腎不全・重金属中毒を考えよう



メトホルミンは本当に2型糖尿病の第一選択薬なのか? 
Metformin as firstline treatment for type 2 diabetes: are we sure?*3

 さすがのBMJ。今度はメトホルミンのエビデンスへの疑義です。でもこういった視点ってすごく重要で、debateするにはもってこいかも!?
 メトホルミンは1988年の発表のUKPDS 34で、2型糖尿病患者さんの10年死亡率をRR 0.64というかなりインパクトのある結果をたたき出しました。各国のガイドラインもこれを元にメトホルミンを第一選択推奨しています。

 しかし、実はこのUKPDS 34という研究自体にちょっと問題があるのではないか?というのがこの筆者の言いたいことの様子。たとえば、UKPDSのデザインでいうと、二重盲検されておらず選択バイアスがかかりやすいこと、study期間に使用された併用薬が統一されていないこと、更には多くの解析を行ったためか、途中で「有意差あり」の基準を、p<0.01から、p<0.05に変更してしまっています。こういった問題点がある上に、SU剤単剤 vs SU剤+メトホルミンの比較もUKPDS内で行われていますが、この結果死亡率が HR 1.60(1.02-2.52)と有意に上昇していました。ところが、この結果はたまたまでしょ?と扱われてしまい、その後、多くの研究でメトホルミンのpositive dataが出ない中でも、このUKPDSデータを元に第一選択で推奨され続けています。2型糖尿病に対するメトホルミン効果のメタ解析では、実はどのアウトカムでもメトホルミンの有用性は証明されていないという報告もあります。

f:id:tyabu7973:20160130012250j:plain

(本文より引用)

 さらには、Legacy effectもUKPDSの10年follow upデータですが、これはオリジナルデータの34%しか患者が残っておらず、データのなくなった66%の結果によっては結果がひっくり返ってしまう可能性が十分あります。

 こうやってみてくると、メトホルミンは何でこんなに優遇されたのだろうかー?と思ったりもしますね。メトホルミンの効果も再検証しつつ、糖尿病薬が本当に臨床的に重要なアウトカムをきちんと改善するかを検証していく必要があるでしょうね。そして・・・現時点ではクオリティの高い研究というと去年のあれくらいなのかもしれません・・・まあ、複数の研究で同じ結果が検証されることが大事なのでちょっと待ちですね。

✓ 2型糖尿病に対するメトホルミンのUKPDSエビデンスには突っ込みどころが結構ある

 

 


■Lancet■

パーキンソン病の歴史 
Case histories Parkinson’s disease*4

 Lancetが病気の歴史コーナーを始めます〜と。当院のK先生大好きなネタですね。せっかくですから、私もちょいちょい一緒に読んでいこうと思っています。それにしてもParkinsonさん、波瀾万丈。

 James Parkinsonは1755年にロンドンに生まれ、フランスとアメリカ合衆国の独立によって刺激されて、Thomas Paineの様に政治的活動家として活動していました。ロンドンの彼の同僚が反逆罪で起訴されたことを受けてParkinsonは証人台に立ち、1976年にはジョージⅢ世を暗殺しようとする疑惑をかけられています。1790年代には、Parkinsonは同世代の若者と同じように、徐々に政治への興味が少なくなり、父の勧めに従い外科医の道へと進んでいきます。そして興味は、痛風、家族関連疾患、医学教育、化石、メンタルヘルスへと向いていったとエッセイには書いてあります。
 そして、1817年に自身が経験した6人の患者の症例報告をしています。

 「不随意な震える様な動きと筋力低下があり、運動では誘発されず保持されても持続する。体幹を前掲し、歩行が徐々に走るようなペースになり、感覚や知能は障害されていない」

  Parkinsonはこの病気をてんかんでもアルコール依存でも脳卒中でもない、「Paralysis agitans(Shaking Palsy)」と命名しました。彼はこの疾患が緩徐に発症し、手や腕の震えが安静時から出現、これが疲労や不快、苦痛を引き起こすことを観察しました。しかし、彼のこの疾患の枠組みは日の目を見ず、19世紀初頭に欧州医学界によって素晴らしい変換を遂げます。

 Parkinsonは、この疾患の原因は頚髄にあると考え、剖検例でその確認をしようとしましたが、ことごとく失敗しました。彼はローマの内科医だったGalenにならって、頸部に出血や水疱が起きないような治療を推奨しています。

 Paralysis agitansがParkinson病へと変遷した経緯は複雑です。英国医師は当時ラテン語での病名をつけたがる傾向がありましたが、フランス人の神経内科医Jean-Martin Charcotが「maladie de Parkinson」と名付けました。Charcotは、Paralysis agitansはある意味自己矛盾がある疾患であり、おそらくParkinsonが報告した描写は素晴らしいと絶賛しています。Charcotが英語圏にこの知識を広め、1912年に米国の内分泌医 Leonard Rowentreeが「Shaking Palsyのエッセイ」という題名でParkinsonの本の復刻版を発売し、これによって知識が一気に広まったとされています。

 Parkinsonの名前を冠した疾患が世界に広まったと同時に彼の病理上の見解は否定されました。19世紀後半には、病理学的研究が進み、中脳の黒質変化と疾患がリンクすることが報告され、1910-1920年代の嗜眠性脳炎の流行での調査で更にこの所見が確認されました。嗜眠性脳炎は非常に謎の多い病気で、最初に報告されたのはウイーンの神経内科医Baron Constanntin von Economoさんで1917年のことでした。彼は、脳炎後パーキンソン症状を含む慢性的な神経症状を来している患者がいることを報告。
 1960年代には、これらの脳炎後パーキンソン症状に対する少量レボドパが実験開始され、1973年にはOliver Sacksによって出版された「レナードの朝」の中で、New YorkのBeth Abraham病院での薬剤高用量投与による”unlocking”が記述されています。20世紀後半には、疾患は国際的に主要な研究対象となっていきます。1969年にParkinson病学会が、この疾患に罹患した妹SarahをもつMali Jenkinsによって設立され、政治的なサポートも受け、医師・患者・介護者・研究者を結びつけるための活動を行っています。1984年に設立された、Parkinson’s UKのbrain bankでは、多くの新しい研究がなされています。

Richard Barnett

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(本文より引用)

✓ パーキンソン病の歴史を知ろう。もともとはShaking Palsyと呼ばれていた。



腹部大動脈瘤スクリーニングをめぐって 
Harms of screening for abdominal aortic aneurysm: is there more to life than a 0-46% disease-specific mortality reduction?*5

 腹部大動脈瘤スクリーニングは1980-90年代の4つのRCTをもとに、英国・米国・Swedenで推奨されてきました。USPSTFは、13-15年のfollow upの結果として、腹部大動脈瘤死亡を50%減らしたと結論しています。ただし、そもそも腹部大動脈瘤破裂による死亡は全死亡の1%以下であり、絶対リスク減少はわずかに0.46%です。これは相対危険減少と絶対危険減少のからくりですよね。結局全死亡を減らすには至らなかったそうです。

 分かりやすく解説すると、腹部大動脈瘤スクリーニングを行うと、10000人検査をして、46人の腹部大動脈瘤死亡を減らすことになりますが、それと同時に1人の腹部大動脈瘤死亡を防ぐために4つの余計な腹部大動脈瘤を見つけることになります。これらはoverdiagnosisの可能性をはらんでいます。というのも余計に見つかった4つの大動脈瘤のうち、何もしなくてもお墓まで持っていけた動脈瘤もあるかもしれないからです。

 もちろん、腹部大動脈瘤が見つかれば手術件数が増えます。更には手術関連の合併症は3-5%とも言われており、overdiagnosis→overtreatmentの流れが十分考えられます。最近のRCTを元にすると、10000人スクリーニングすることで、176人のoverdiagnosisが起こり、37人にovertreatmentが起こると試算されています。この辺りの試算はいったいどうやってやるんだろうなあ・・・?というのが素朴な疑問ですが。最近の背景として、喫煙率が低下してきていることで、腹部大動脈瘤自体の頻度が少なくなっていることが言われています。今行われている腹部大動脈瘤スクリーニングは過去の喫煙者が多い時代のデータを用いているため、効果を過大評価している可能性があるというわけです。


✓ 腹部大動脈瘤スクリーニングも効果が絶対的には大きくなく、スクリーニングによる害も考慮する必要がある