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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 難治性CDIに対する凍結便注腸/ビタミンDと下肢機能/非心臓手術の周術期心臓合併症/一歩進んだShared decision making

■JAMA■

難治性CDIに対する凍結便注腸 
Frozen vs Fresh fecal microbiota transplantation and clinical resolution of diarrhea in patients with recurrent Clostridium diffiicile infection*1

 これはあちこちで話題になっていましたが。一応こちらでも取り上げておきます。CDIに対する糞便凍結療法。おそらく数年後はこちらが主流でしょうねえ・・・あとは実施可能な施設の問題がありましたが、凍結でOKになれば適応施設が拡がるでしょう。
 論文のPICOは、

P:18歳以上の再発性もしくは治療抵抗性CDI
 再発性の定義は、①2回以上の再発もしくは②1回目治療抵抗性だった患者の再発。
 抵抗性の定義は、VCM治療5日以上で改善が無かった例
I:凍結糞便注腸療法 day1投与。効果無ければday4・5・8に投与。
C:新鮮便注腸
O:1-2回目の便注腸から13週後の再発
T:RCT/ITT解析・非劣性試験でper protocolも確認
結果:
 平均73歳、入院患者50%、2回以上の再発が11%。
 プライマリアウトカムは、非劣性試験なのでper protocolを確認していますが、凍結で改善率が76/91(83.5%)、新鮮で74/87(85.1%)であり、事前に設定したΔ15%を越えず非劣性が証明された。

 というわけで、凍結便は新鮮便に非劣性。凍結便だと30日は保存可能で、新鮮便は24時間以内というので、汎用性は圧倒的に拡がりますよね。さて、便時代。


✓ 難治性CDIに対する凍結便注腸療法は、新鮮便注腸療法に非劣性



ビタミンDと下肢機能 
Monthly high-dose vitamin D treatment for the prevention of functionlal decline*2

 ビタミンD投与と下肢機能や転倒への影響を見たRCTです。ビタミンD補充は筋力への直接効果によって機能低下を遅らせる可能性があるとされています。これは①VitD欠乏が近位筋の筋力低下と関連、②VitD受容体が筋組織に発現、③高齢者の研究でVitD受容体の活性化がタンパク合成を促進し、筋繊維を修復するなどの基礎的データが根拠となっています。で、臨床データでは色々あるのですが、高齢者では転倒予防効果があるのでは?というのが通説です。本当にビタミンDをしっかり取ると、転倒が予防できるのでしょうか?そこにこたえるべくRCTが組まれています。
 論文のPICOは、

P:スイスのチューリッヒで過去に転倒歴のある70歳以上の男女
I/C:
 ①月1低用量VitD3群 24000単位
 ②月1高用量VitD3群 60000単位
 ③月1低用量VitD3+カルシフェロール連日群 60000単位
O:6・12ヶ月後の
 ①下肢機能の改善(Short Physical Performance Battery)
 ②25(OH)D値≧30ng/ml
T:RCT/ITT/二重盲検/単一施設
結果:
 全200人の患者を①群 67人、②群67人、③群66人にランダム割り付け。
 アドヒアランスは94-98%と概ね良好。
 プライマリアウトカムである、SSPBは歩行速度・椅子からの立ち上がり・バランステストのそれぞれの合計点で評価している。

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http://3.bp.blogspot.com/-LR__j5D_424/Tszicq7ZZ6I/AAAAAAAABO0/YwLi9PobnnM/s1600/image01.JPGより引用)

 平均78歳、女性 45%、BMI 26、SPPBベースが10点前後
 ①下肢機能の改善は、①群 9.96、②群 9.81、③群 9.34と有意差はなかった。
 ②25(OH)Dは6・12ヶ月後ともに②、③の高用量投与群が高値だった。
 セカンダリアウトカムでみていた転倒率は、①群 47.9%、②群66.9%、③群 66.1%と転倒は有意に増加する結果だった。

  意外な結果がでましたねえ。本来転倒予防のための薬だったのですが・・・皮肉なことにビタミンDは上がるけど、下肢機能は改善せず転倒は増えると。もう何が正しいかなんて分からないですね。そもそも下肢機能は落ちているわけでは無いのに、転ぶ理由は何でしょう?考察では活動度が上がったから転んだ?などと記載されていますが微妙ですよね。ちなみに同様のVitDと転倒アウトカムで現在進行中の研究が、VITAL trialとDO-HEALTH trialとあるようなのでこれらの結果待ちということでしょうか。現時点で転倒予防目的に積極的に処方する薬ではありません。

✓ ビタミンDの高用量投与は下肢機能を改善せず、転倒は増える結果だった



 

 

■NEJM■

非心臓手術の周術期心臓合併症 
Cardiac complications in patients undergoing major noncardiac surgery*3

 本文とは関係ないですが、このレビューを院内2人が同時に訳してきてプレゼンするという。どんな恵まれた環境なんだろうと思いつつ、後輩二人すごいなあと感動しています。自分も頑張らんとねえ。
 前置きはさておき。非心臓手術の周術期心合併症は実はかなり重要な問題です。以下レビューをざっくりと掲載していきます。

■導入 Introduction■
・非心臓手術(小手術除く)の質は向上し治療成績も改善しているものの、手術自体が心疾患イベントの誘発要因の1つ


■疫学とメカニズム Epidemiology and mechanism■

・世界中で2億人/年が非心臓手術 患者は増加傾向
・患者年齢も合併症リスクも増加傾向
・1000万人/年が術後30日以内に主要心臓合併症
心臓関連死亡は米国の手術後の死因第三位。これは悪性腫瘍心筋梗塞に次ぐ。カテゴライズされていないだけ。
・周術期心臓合併症は周術期死亡の1/3以上 深刻な問題
・周術期心臓合併症は合併症増える/入院期間延長/医療費増大も
・周術期リスクは、①術前要因、②術中要因、③術後要因に分けられる。

 ①術前要因
・慢性疾患(CKD・PAD・DM・Af・HTなど) 
→特に高リスクのACS(MIや6ヶ月以内の狭心症)、3ヶ月以内の脳梗塞、6ヶ月以内のステントなど。
・急性疾患(動脈瘤破裂・ACS脳卒中・骨折など)
→急性の炎症・ストレス・過凝固反応反応、代謝変化が原因。

②術中要因
・手術・麻酔が心合併症のリスクになるのは以下が関連。(交感神経刺激・炎症惹起・過凝固・出血・低体温)
・過去数十年で技術の進歩(低侵襲手術や高度なモニター技術)に伴い麻酔関連死は激減。1/10から1/10万に減ったとも。
・一方、術後30日死亡率は高く、術中の問題ではなさそう

 ③術後要因
・術中要因と比較して術後要因による死亡率はまだまだで、非心臓手術を受けた患者の1.5%が術後30日以内に死亡している。
・そして 術後死亡の最も多い原因は心合併症。
術後に、低血圧・頻脈・出血・低酸素・疼痛があると心合併症と関連する。

 

■術前予測 Preoperative prediction■
・術前の周術期心合併症予測は以下の点で重要
①患者に手術の利益・害について正確な情報を提供
②治療計画に影響(手術方法(開腹? IVR?)、術後管理場所(ICU? 一般病棟?)、術後モニター)
・術前の周術期心合併症予測法は主に、①clinical risk indexes、②非侵襲的心臓検査、③心臓関連バイオマーカーである。

 ①clinical risk indexes
・最も用いられているが、Revided Cardiac Risk Index(RCRI)
・1999年から使用されるようになり、妥当性評価がなされている。
・計算機も不要で比較的簡便に算出は可能だが、リスクの過小評価が問題に。
実際の心合併症予測精度は50%程度だったという報告もある。
・他にNSQIP MICAというスコアもあるが、計算機が必要なこと、STEMI対象の研究であることなどが問題。
・これらのスコアは術前に活動度が落ちている患者では無症候のハイリスク患者を見逃してしまう

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②非侵襲的心臓検査
ガイドラインでは術後心合併症リスク1%以上に心臓負荷試験を推奨している。
・ただし、術後MIで亡くなった症例の1/3がTl負荷シンチが正常だったり、冠動脈CTを術前に行うRCTでもoverestimationの問題が指定されている。
・周術期リスクを過剰評価すると、患者の治療決定や手術の遅れ、過剰な検査に繋がる可能性がある。
・画像検査の結果としては今ひとつ

③心臓関連バイオマーカー
・最近注目されているのがBNP
・2014年のメタ解析 2179人18研究では、術前のBNPもしくはNT-ProBNPによる周術期合併症予測を評価している。カットオフはBNP≧92ng/ml、NT-ProBNP≧300ng/ml
・上記で検討するとBNP上昇の心臓関連死亡のOdds比は3.4(2.57-4.47)であり、術後BNPを取ることでさらに有効性が増すとの結果だった。
・冠動脈死亡と全死亡をRCRIよりも155人正確に見積もると言われている
・負荷試験よりも、コストが安く、簡便で、短時間かつ有効性が高い。
・一般医にとっては専門医にコンサルトする基準を決めるのに有用。

 

■術前介入 perioperative cardiac interventions■
・術前の血行再建についての重要な臨床研究はCARP-trial
・≧70%狭窄のある待機的手術に術前CAGを行うか否かで全死亡を評価。結果、510名を無作為に術前CAGあり/なしで無作為割り付け全死亡に有意差なし(N Engl J Med 2004; 351:2795-2804)
・血行再建をする為に待機的手術を延期する理由にはならない。
・周術期交感神経抑制のために、β遮断薬やα2刺激薬が用いられることがあるが、2014年のメタ解析でβ遮断薬の導入は非致死的MIを減らすが、死亡・脳卒中・徐脈・低血圧を増やすので勧められず。導入するとしても数週間前。今後要検討。
・α2刺激薬もPOISEⅡ研究で試されたがプラセボ有意差なし。
アスピリンも検討されたが、上記POISEⅡ研究では、MI減らさず出血を増やす結果だった。
・輸血の閾値も厳格管理(>10)、緩めの管理(>8)で有意差なし。
・管理業務の分担は重要で、外科医のみならず他職種・他科とのshared careが重要。2014年の股関節骨折のメタ解析では、老年科医が併診する方が生存率が上昇する。

 

■術後モニタリング Postoperative monitoring■
・術後病棟帰棟後の管理が緩い。多くの病棟で4-8時間おきの評価になっている。術中にかなり集中的に管理されているのとは対照的。
術後合併症の多くは48時間以内。5%に低酸素血症が起こる。特に1時間以上SpO2<90%になっている患者が全体の38%にも上ると言われ、5分以上の低酸素は心筋虚血のリスク
・更に術後は麻酔や鎮痛薬の影響で症状がマスクされやすい
・低血圧もMIリスクになることが知られており、血圧モニターも重要
・また、術後心電図モニターをつけることで、無症候性心筋虚血を捉えることができる。術後の無症候性は上記麻酔・鎮痛薬の影響もあるため、通常の無症候性虚血とは分けて考える必要がある。周術期MIの65%が無症候性といわれている。
・術後の手厚いモニター管理が重要。
・術後にTnT上昇も30日死亡のリスクになる。定義上は心筋梗塞とは言えない者の、予後予測にはなる。測定の費用対効果はこれから。

 

■Take home message■
・非心臓手術で術中死は稀になったが、術後30日死亡は心合併症が多く頻度も高い
・負荷検査(負荷エコー/負荷シンチ/冠動脈CT)よりBNPの方が術前リスク評価に有用
・周術期の心臓合併症予防はRCTで検証されたものは少ない
・術後は病棟でもモニター強化を行うことが重要
・心筋虚血は無症状で起こるため、ハイリスク患者はトロポニンの経時的測定を


✓ 周術期心血管合併症予防は病院総合医にとっては必要なスキルと知識

 

一歩進んだShared decision making 
Shared decision making - Finding the sweet spot*4

 SDMを心がけるようにしていますが、これに関しても色々考えるべき点がありますよねと。本文で紹介されていた矛盾はこんな感じです。現在言われているSDMではエビデンスを元に、患者好みや意向を十分取り入れて意志決定をしていきましょうというものですが、一般的にどっちつかずの場合には、判断を患者にゆだね、効果が明らかな場合には医者が方針を一方的に勧めるというやり方が多いです。

 例えば前立腺癌スクリーニングは効果がcontraversialなので患者判断に任せ、大腸癌スクリーニングは効果が明らかなので推奨するという形です。ただ、そもそも効果が微妙な問題は医者でも判断が難しいのに、それを更に患者に丸投げするのはいかがなものか?とコメントされています。自己決定権を重視する米国でこんな感じですから、「先生お任せします」とよく仰る奥ゆかしい日本人には更にこのようなSDMの考え方は合わないのかもしれません。

 そもそも効果と害の捉え方は人の価値観で変わるので、単純に「病気が見つかる」「死亡が減る」ことがその人の価値観にとって重要かどうかはよくよく考える必要があります。ここの対立がは医療現場でしばしば見られているのではないかと思います。いわゆる信念対立でしょうか。

 SDMのsweet spotは、効果と害が一般的に明らかである問題こそ、患者に判断をゆだね、効果と害のバランスが難しい問題の場合には、ある程度患者の意向をくんで医療者側が推奨してあげることが重要なのでは?とコメントされていました。

 この辺りは、現場感覚に非常に近いプラクティカルな提言であり、思わず「うん、うん」と思いながら抄読会では盛り上がりました。皆様はいかがでしょうか?


✓ SDMが単なる患者への丸投げにならないように適切な情報提供と意志決定サポートを