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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet メニエール病へのメリスロンⓇ/慢性難治性咳嗽/人工関節感染症レビュー/乳癌検診に超音波検査

BMJ

メニエール病へのメリスロンⓇ 
Efficacy and safety of betahistine treatment in patients with Meniere’s disease: primary results of a long term, multicentre, double blind,randomised,placebo controlled, dose defining trial(BEMED trial)*1

 最近論文をまとめてくれる先生が多くなってきたので、少し遅れてだと二番煎じっぽくはなりますが、当院のK先生もきっちりこの論文を取り上げてくれました。メリスロンⓇは何だかめまいにやたらと人気のある内服薬なのですが、実はその効果は今ひとつ証明されておらず、米国FDAは認可していないという現状があるのだそうです。本邦および欧州では保険適用があり使用されていますが、根拠となっているのは観察研究や小規模でバイアス多いRCTばかりで、コクランでも使用する根拠に乏しいとされています。
 そもそもベタヒスチンは強力なH3拮抗薬でかつH1アゴニストです。効果としては、用量依存性にH3受容体を介して蝸牛血量を増加させたり、中枢神経・前庭部のヒスタミン代謝を亢進したりすることで効果を発揮するとされています。さて、前置きが長くなりましたが、今回の論文のPICOは、

P:21-80歳のメニエール病患者221人
 ※2回以上のメニエール病が確定的な発作(20分以上症状が持続し、聴力低下があり、患側の耳鳴か耳閉感があり、他疾患で説明がつかない)がある患者
 除外:喘息・抗ヒスタミン薬内服中・胃十二指腸潰瘍など
I:①低用量 24mg分2、②高用量 36mg分3 を9ヶ月間内服
C:プラセボを9ヶ月間内服
O:内服7-9ヶ月間のめまい発作頻度(日誌による自己申告)
T:RCT/ITT解析/単盲検
結果:
 平均55歳、女性50%、偏頭痛既往18%、聴力 30-35dB
 低用量群 70人、高用量群 72人、プラセボ群 72人
 プライマリアウトカムは変数だが、7-9ヶ月の発作平均回数/月は、低用量群で 3.204回(1.345-7.929)、高用量群で 3.258(1.685-7.266)、プラセボで2.722(1.3-4-6.309)と有意差はなく、セカンダリで見たQOLスコアや聴力も有意差が無かった。また副作用も差なし。

  かなりきちんと検証されていますが効果なしの結果。そもそも適応がメニエール病ですから、普段きちんと診断されていないVertigoにさらっと出されているベタヒスチンの効果は更に悲惨かもしれませんね。メニエール病自体は非常に稀であり、新規発症メニエールを診断するのは医師人生で数件でしょうとのこと。よく誤診されているんだそうです。処方はしなくてよさそうですねえ。

 

✓ ベタヒスチン(メリスロンⓇ)の有効性はメニエール病に対しても証明されなかった



慢性難治性咳嗽 
Management of chronic refractory cough*2

 咳の主訴はかなり多いですよね。多くは治療によるのか自然経過なのか治っていきますが・・・今回は、慢性難治性咳嗽のシステマティックレビューです。
 慢性難治性咳嗽(CRC)は、ガイドライン通りの治療に関わらず持続してしまう咳嗽をさしています。咳嗽専門クリニックを受診する20-46%がこのCRCに該当し、持続性の咳嗽はQOLを下げたり、医療を必要とします。様々な用語がありますが、この病態を理解するのに重要なキーは、咳嗽過敏症候群(cough hypersensitivity syndrome:CHS)です。ポイントは、乾性で過敏な咳嗽、咽頭部に限局する症状があることです。咳だけで無く、球症状、呼吸困難感、発声障害などを伴うことがあります。

 CRCは、喉頭異常感症や慢性疼痛症候群と共通する要因が多く、これらの類似点は病態解明のために重要ではないかと指摘されています。病態生理は複雑で、咳嗽反射過敏、中枢性感作、末梢性感作、声帯運動などを考慮する必要があります。

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(本文より引用)
CRCは、ウイルス感染症後に起こりやすいと言われ、診断は慢性咳嗽を引き起こす主要な疾患の除外から始まり、通常の内服薬に反応しないことが条件です。慢性咳嗽患者のRed flagsがまとまっていましたが、血痰・20PY以上の喫煙歴、安静時や夜間の呼吸困難、嗄声、発熱・体重減少などまあ当たり前だよねというものでした。

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(本文より引用)
 上記除外すべき疾患として、喘息・GORD・OSA・ACE阻害薬使用・好酸球性気管支炎・副鼻腔炎が治療可能なもので、重篤なものは咽喉頭/肺癌・COPD・特発性肺線維症・気管支拡張症・サルコイドーシス・気胸・心疾患(左心不全・肺塞栓・大動脈瘤)・結核・肺膿瘍・百日咳など。まあ多彩ですね。
 
 最近数十年で咳嗽治療がいくつか開発されており、音声障害の治療、神経調整薬であるガバペンチンやプレガバリンの使用などが試みられています。音声障害の治療として興味深かった方法があったので以下に掲載してみます。

慢性難治性咳嗽に対する音声治療
①教育
・咳が咽頭や咳反射の過敏によって引き起こっている
・咳のトリガーが何かを見つけることが重要であることを伝える
・咳は必ずしも必要ではないことを伝える
・この状態での咳は病態生理的にもメリットが少ない
・咳を自身でコントロールできる方法があることを伝える

②咳症状コントロールテクニック
・強制的に嚥下動作を起こすことで止める
・呼吸をすることで止める

咽頭部の刺激を減らす
・逆流を減らすような生活習慣改善
・水分補充
・アルコールや喫煙などの刺激物の摂取を減らす

④カウンセリング
・治療は難しい仕事である
・現実的なゴールを設定

  

✓ 慢性難治性咳嗽に対するアプローチはまだまだこれから。現時点ですべきことを整理しておく

 

 

 


■Lancet■

人工関節感染症レビュー 
Periprosthetic joint infection*3

 人工関節留置が増えて、それに伴う人工関節感染も増加傾向なんだそうです。今回のLancetレビューはこの人工関節感染についてです。

■Introduction■
・人工股関節・膝関節手術は10年生存率が95%と非常に良好な成績をもつ手術。
・米国、英国では年間80万件が手術され、2030年には400万件に到達するだろうと予測。
・人工関節感染は股関節で1%、膝関節で1-2%と推測されている。
・ただ、2006-2009年の報告では2%以上に増加傾向
・人工関節感染は再手術のリスクで、再手術症例のうち股関節の14.8%、膝関節の25.2%が感染が原因だった。
最も多い微生物は黄色ブドウ球菌(MSSA・MRSA)で、次が表皮ブドウ球菌
・米国では黄色ブドウ球菌の46.7%がMRSAVREが23%・・・欧州では15%がMRSAVREが9%

■Pathogenesis■
・感染経路は様々で、①直接外部から菌が入る、②他の臓器の感染から血流を介して感染する、③感染の再発
・異物が入っていると通常の関節に感染を起こすのと比べて10万分の1の菌量で感染を起こすことが可能

■Epidemiology■
・微生物は国毎に大きく異なり、それによっては周術期の予防的抗菌薬選択にも関連する
・医療費は米国だけでも9億ドルかかり、2020年には16億ドルになると言われている。
・感染を起こすと患者満足度は下がり、QOLも低下する
・死亡率も上がると言われ、股関節人工関節感染の再手術の2年後死亡率は25.8%になり、感染再発した場合の死亡率は4.7年フォローで45%と言われている。

■Risk factors■
・どんな関節感染でも、敗血症・活動性の皮膚軟部組織感染・輸血はリスク因子
・それ以外では、コントロール不良の糖尿病・低栄養・病的肥満・喫煙・アルコール多飲・免疫不全・違法薬物使用・鼻腔のブドウ球菌キャリアは感染リスクになる
HbA1cの値そのものがリスクになるわけでは無い。Alb 3.4g/dL以下、リンパ球1200以下はリスク。

■Preventive measures■
・予防手法には術前、周術期、術後それぞれの予防方法がある
・術前は主に患者固有の状況の正常化・MRSA除菌・皮膚洗浄などがある。ただしムピロシン点鼻によるMRSA除菌効果を検証した多施設共同RCTでは、ブドウ球菌感染を減らしたとされるが、他の研究ではその結果は再現されていない。
・術中は、抗菌薬予防投与・皮膚処置(除毛・ドレイプ等)・手術器具(人工呼吸器やボディースーツなど)・輸血など
・術後は抗菌薬とドレーン抜去。基本的にドレーンは24-48時間程度の早期抜去が推奨されている。創部洗浄やデブリは創からの排液が1週間以上続く場合に考慮する。

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(本文より引用)

■Diagnosis and staging■

・診断には国際学会の診断基準があり、大基準と小基準が設定されている。

<人工関節感染の診断基準>
大基準:
・人工関節周囲組織から2回同一の微生物が陽性になる
・関節と交通する空洞がある

小基準:
CRPや赤沈の上昇
・関節液の白血球数の上昇や白血球エステラーゼ検査陽性
・関節液の多核白血球数の割合髙値(65%以上)
・関節周囲組織の組織培養が陽性
・培養検体1セットのみが陽性

 上記基準のうち、大基準1つ以上か、小基準3つ以上を満たす

・診断のゴールドスタンダードは関節穿刺液培養陽性

■Clinical features■
・感染を起こす時期も主に3つに分類する。
1つは術後〜3ヶ月以内で、この時期は周術期に今週した細菌によって引き起こされる感染症である。
2つめは、術後3-12ヶ月に起こる感染でやはり周術期に混入している可能性が高いが、病原性が弱い菌が原因になっていることが多く、発熱の無い症例も半数に及ぶ。
・3つめは、術後12ヶ月以上経過したもので、この場合は多くが血流感染由来のことが多く、原因部位が突き止められるも半数程度といわれている。

■Treatment options■
・人工関節感染でまず行うとすれば洗浄・デブリだが、その成功率は0-89%と非常に幅広く、発症30日以内の早期であれば成功率が高くなる。
MRSAだと治療失敗が増える。 
・通常感染を起こした場合には2段階法で再手術を行う。1段階目では、人工物抜去を行い、2段階目で再度人工物置換を行うが、インターバルは2週間以上が望ましいといわれているが根拠乏しい
・関節手術さえできれば治療期間6週間程度でOK。


✓ 人工関節感染はまずはリスク管理と予防が重要。診断基準や対処法にも習熟が必要



乳癌検診に超音波検査 
Adjunctive ultrasonography in breast cancer screening*4

 ちょっと前に日本の超音波を用いた乳癌スクリーニングについてのエディトリアルが出ていたのでさらっと。

 乳癌スクリーニングで用いられているのはMMGですが、乳腺線維腫などではあまり感度・特異度ともに高くないことが知られている。乳腺濃度が高い場合にMMGの操作特性が下がると言われ、MRIは効果的ではあるものの高価でアクセスも限られている。そんな中、超音波は乳腺濃度の影響を受けず、造影剤を使用する必要が無い事などから乳癌スクリーニング検査として期待されてきた。ただ、以前の超音波検査はMMGよりも感度・特異度が低く、実用的ではなかった。


 特にアジア人女性は乳腺濃度が高く、乳癌発症時期が40-49歳と若年化している。LancetでのOhuchi Noriaki氏のJ-START研究は、MMGに乳腺超音波を追加することでMMG単独と比較して乳癌スクリーニングに有用かを日本の40代女性で検証したRCT。およそ72998人の女性が日本の42施設で組み入れられた。感度は超音波+MMG群が有意に高く、併用群 91.1% vs MMG単独群 77.0%だった。一方、特異度は併用群 87.7%、MMG群91.4%だった。併用群の方がより多くの癌を発見することが出来た(併用群 180個(0.5%)、MMG単独群 117個(0.32%))。ほとんどがStage0-1でおよそ50-70%程度をしめた。

 エディトリアルの筆者はJ-STARTが重要だとし、一つは乳腺超音波のスクリーニングを評価した最初のRCTであること、無症状でリスクの均一な一般人口へのスクリーニングだったことを評価している。先行研究の多くはリスクの高い人に行われており、MMGで発見できない癌を同定できたが、特異度は低かった。また、J-STARTは40代と若い人に行われており、一般的に乳癌スクリーニングによる死亡率減少は40歳代で見られていることから、この方法は有用でだろうと。今後、乳腺超音波検査による乳癌スクリーニングが乳癌死亡を減らすかどうかを検証するのが重要な次のステップである。J-STARTでは、さらにほとんどの患者が触診を受けていることも重要である。今回の研究の長期フォローアップ研究が検討されており、結果が待たれている。今回も72000規模の大規模な調査であり、今後このフォローアップ研究の結果がでれば、この分野では決定的なエビデンスと言えるだろう。

 この結果は今後アジア人にも非アジア人にも用いることが出来るだろうし、少なくとも乳腺濃度が高い人には有用だろう。今回はサロゲートアウトカムであり注意は必要問題は超音波は大量に行うには時間が必要であることである。更には、超音波検査は低侵襲であるため、フォローアップ間隔が短くなる可能性があり、MMGよりも生検による陽性予測値が低くなるかもしれない。

 

✓ 日本発のMMG+乳腺超音波の乳癌スクリーニングはMMG単独よりも多く乳癌を発見することが出来た