栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 癌患者終末期ケア内容への家族の気持ち/医者が最期を迎える場所/ナルコレプシーレビュー/過敏性腸症候群に対するEluxadoline

■JAMA■

癌患者終末期ケア内容への家族の気持ち 
Family perspectives on aggressive cancer care near the end of life*1

 JAMAは緩和ケア特集でした。色々おもしろい文献もあったのですが、今回はUS Census Bureauサーベイというデータを用いて、2003-2015年に新規に癌と診断された患者さんを対象に、診断4−6ヶ月後と1年後と5−7年後に調査員がインタビューを行って、患者家族の気持ちの聞き取り調査をしています。
 論文のPECOは、

P:US Census Bureauサーベイで65歳以上で進行肺癌もしくは大腸癌で2011年までに亡くなった1146人の家族
E/C:病院死亡・死亡1年前のケア内容・ホスピス利用など
O:プライマリ:受けたケアがexcellentだった方の割合(excellent/good/fair/poorでrating)
  セカンダリ:受けたケアは患者の意向に合っていたか、患者の希望する場所で看取れたか
結果:
 まず上記進行がんのデータは保険病名では3620人あり、そのうち2011人のデータにアクセス可能だった。65歳以上でインタビューを完遂できたのが1146人
 平均年齢 76歳、StageⅣ 66%、診断から死亡までが平均144日
 対象の家族は主に配偶者か子供
 プライマリアウトカムのexcellentが588人(51%)だった。
 患者の意向にあっていたかは754人(81.1%)で、死に場所では439人(56.7%)が自分の希望通りだった。
 excellentの評価については、集中治療室に入室やホスピス利用が3日以内や、病院で亡くなったが負の相関だった。
 患者の希望通りのケアか?との関連として、死亡1ヶ月前にICU利用、ホスピス3日以内、病院死亡は負の相関だった。

 まずは米国の緩和ケアの満足度高いなあというのが率直な感想です。51%でexcellentと言ってもらえるのかあと。日本ではどうなんでしょうかね・・・そしてやっぱり病院死亡は人気無いですね。病院を変えたいなあ。 

✓ 病院死亡やホスピス利用期間が短いのは、患者や家族満足度と負の相関がある



医者が最期を迎える場所 
Association of occupation as aphysician with likelihood of dying in a hospital*2

 最近は在宅看取りを勧めることが多い時代にはなってきていますが、果たして実際のところはどうなのでしょうか?多くの人は自宅で亡くなりたいという希望がある一方達成はできていないという現状もあるようです。今回は実際にどこで亡くなっているかを医者で検証しています。そもそも医者は自宅で亡くなる人が多いのでしょうか?

 先ほどと同じUS Census Bureauサーベイを用いて、30-98歳の1978-2011年に死亡した47万人のデータベースを利用して、4群に分類しています。4群とは、
①医者815人
②医者以外の医療従事者 2635人
③医療者以外の高学歴 15308人
④それ以外 45万人
です。アウトカムとして、①病院死、②病院を含む施設死を検証しています。

f:id:tyabu7973:20160207195438j:plain(本文より引用)

 4群で比較して死亡年齢はあまり変わらず、人種では医師や他の医療従事者・高学歴者は有意に黒人が少ない結果でした。医師は意外とヒスパニックや他の人種は多いです。死因は心疾患・悪性腫瘍が最も多いのは変わりなし。
 プライマリアウトカムとして病院死亡は、医師を1とすると、①〜③は変わらず、④がHR 1.10(1.08-1.12)と有意に病院死亡が増えました。施設死亡は医師を1とすると他の職種は②がHR 1.14、③HR 1.12、④HR 1.34と医師は施設死亡が少ないという結果でした。全体の40%が病院で死亡し、施設も含めると 60-70%が施設で死亡していました。

 まあ、ちょっと古いデータですし、米国のデータなので何とも言えませんが、まだまだ病院や施設で亡くなる時代といえばそうですね。日本でのデータも興味深いところです。

✓ 医師が病院で亡くなる確率は40%、施設も含めると70%ほどが自宅以外で亡くなる

 

 

 


■NEJM■

ナルコレプシーレビュー 
Narcolepsy*3

 C先生レビューひたすら。という感じ。毎回勉強になりますです。今週もザックリとまとめね。
■Introduction■
・1/2000人が罹患
発症から診断までに5−15年ひとえに医師の認識不足による Sleep Med 2014;15:502-507
・ここ数十年で病態の解明が急速に進歩
・1型ナルコレプシー視床のorexin-A / -B (hypocretin-1 / -2)産生ニューロンの欠損
・2型ナルコレプシー:未だに病態不明


■Clinical Manifestation■
<睡眠発作>
・10−20歳に好発。突然の日中の眠気(graduallyの事も)
・学校/職場/座位(映画鑑賞中など)での覚醒維持困難
・成績の悪化や仕事の失敗、交通事故等で発覚
・少し眠ればすっきり、1−2時間で再発(特に座位時)
・OSASは気道閉塞のため睡眠の質が悪いのとは対症的
睡眠時にリアルな夢を見て近位筋の筋力低下とREMを伴う
・現実と夢の境目が分からずうなされる場合が多い。

<情動脱力発作(カタプレキシー:catalpexy)>
・REM中に起こる一部ないし全身の随意筋麻痺
・談笑や冗談、友人遭遇などの陽性感情で誘発。不満や怒りなど陰性感情でも起こりうる
頭頚部から体幹/四肢(呼吸筋以外)に数秒で広がる
 部分症状:口ごもったり顔がたるんだり
 全身症状:意識はあるが床に付せ数分動けなくなる
・数十分間筋緊張が低下し、歩けなくなったりしかめっ面や舌のもつれが起こったりもする。     Brain 2011;134:3477-3489
・1型ナルコレプシーに特徴的な所見

f:id:tyabu7973:20160207195800j:plain(本文より引用)

<入眠時幻覚>
・幻覚はナルコレプシーに特徴的で入眠時と覚醒時。不審者が寝室に侵入する、動物に襲われる等不快なもの Sleep 2014;37:419-422
・精神科疾患と違い幻聴や妄想は起こらない。視覚的なもの
・入眠時幻覚は警察を呼んでしまうなどの行動が見られる
・睡眠麻痺も入眠時幻覚も1−2分で消失。健常者でも20%に見られるため診断的意義は乏しい

<その他>
・睡眠が分断し導入/維持の薬剤を要する事もある J Clin Sleep Med 2013;9:955-965
代謝が落ちるため体重増加(小児で9−18kg、BMIで15%)
・OSA、周期性肢運動障害(夜間ミオクローヌス)、夢遊病、REM睡眠行動異常症など併存する事もある Eur Neurol 2013;70:22-26
うつ病の合併も多い(原因は不明) Sleep Med 2013;14:488-492

 

■Diagnosis■
・病歴で明らかな場合が多い
終日ポリソムノグラフィ:分断された浅い睡眠+REMへの早期到達(入眠15分以内) JAMA Neurol 2013;70:891-902 Sleep 2015;38:859-865

<睡眠潜時反復検査>
・8時から18時まで2時間於きに20分間眠る 
・健常者は15分以上、ナルコレプシー患者は8分以内で入眠
・日中にREM睡眠が2,3回(健常者はなし)
・陽性なら過眠、REM睡眠異常を示唆する

<鑑別診断>
睡眠不足:成人にありがち。8−9時間睡眠にすると良い
睡眠時無呼吸、睡眠相後退症候群、周期性四肢運動症候群:病歴とポリソムノグラフィで除外。
シフト勤務、鎮静系薬剤は常に鑑別に。睡眠潜時は短くなるが入眠時REMは見られない点が特徴
特発性過眠症では10時間以上眠るが熟眠感がない。ナルコレプシーは熟眠感あり、15-20分の転寝で熟眠。

 

f:id:tyabu7973:20160207195824j:plain(本文より引用)


■Pathologic and genetic features■

<病型>
・1型/2型 両方とも日中の眠気+睡眠潜時反復検査陽性 American Academy of Sleep Medicine, 2014.
 1型:カタプレキシーを伴い髄液オレキシンA低値
 2型:カタプレキシーを伴わず髄液オレキシンA正常
 症状が似ているが基礎病態が違うものなのかも知れない
・1型の方が重症だが診断は容易
・2型の診断は困難で他疾患の除外が必要。
・睡眠潜時反復検査も偽陰性偽陽性が多い J Clin Sleep Med 2013;9:789-795 Sleep 2014;37:1043-1051 Sleep 2014;37:1035-1042

オレキシン産生神経>
・1型:神経ペプチドであるオレキシンの欠損で発症
オレキシンA/Bは視床下部外側で作られる神経伝達物質 Cell 1998;92:573-585 Proc Natl Acad Sci U S A 1998;95:322-327
・1999年にオレキシンをノックアウトした動物が人のナルコレプシーに類似した症状を発現する事を発見 Cell 1999;98:365-376 Cell 1999;98:437-451
・1型がオレキシン産生神経の選択的欠損で起こる事を発見 Nat Med 2000;6:991-997 Neuron 2000;27:469-474 Neurology 2005;65:1184-1188
・2型はオレキシン産生神経の障害の程度の違いなのか? Sleep 2009;32:993-998

<遺伝素因>
オレキシン産生神経が破壊される機序は不明 遺伝は重要
・1型は98%がHLA-DQB1*06:02陽性だが疾患発症の機序は不明 Neurology 1997;48:1550-1556 Sleep 2014;37:19-25
・DQB1*06:02は一般的に2型の50%でも陽性。米国・欧州・日本は12−30%程度に留まる
・HLA-DQB1*06:02陽性だとナルコレプシー発症リスク200倍 Sleep 2014;37:19-25
・遺伝子陽性だが診断困難➡️髄液オレキシン測定が有用。但し現時点では保険適応なし Lancet Neurol 2008;7:649-662
・DQB1*06:02陽性だとDQA1*01:02陽性率も高い
・DQA1*01:02➡️CD4陽性T細胞に抗原提示する2量体蛋白をコード Am J Hum Genet 2015;96:136-146
・それ以外にもHLA-DP,HLA-DQ, TCRA, TCRB, P2RY11, EIF3G, ZNF365, IL10RB-IFNAR1, CTSH, and TNFSF4.なども関与 Am J Hum Genet 2015;96:136-146 PLoS Genet 2013;9:e1003880-e1003880 PLoS Genet 2013;9:e1003270-e1003270 
・遺伝因子は重要だがそれが全てではない。多くは弧発的発症。罹患親から罹患児が生まれる確率は1%
・一卵性双生児の一方が罹患していても他方も罹患するのは30%

感染症との関連>
・晩春の発症が多い→冬期の感染が関与? Ann Neurol 2011;70:410-417
・ASOの抗体価が高い症例多い→連鎖球菌感染症の関与? Sleep 2009;32:979-983
・2009-2010の冬に新規発症が著増→自己免疫機序の関与
・2009年のH1N1パンデミック時、スカンジナビアや北米で
・特定のワクチン接種後1−2Mでナルコレプシーが12倍発症 (但しDQB1*06:02遺伝子保有者のみ) PLoS One 2012;7:e33536-e33536 PLoS One 2012;7:e33723-e33723
・中国でも2009−10のH1N1流行の翌年にナルコレプシーが3倍発症 Ann Neurol 2011;70:410-417
・DQB1*06:02、若年、特定の免疫が新規発症に関与していたのだろう

<自己免疫機序>
・インフルエンザ/連鎖球菌→遺伝子素因のある人のT細胞を刺激
・分子的に類似するオレキシン産生ニューロンを攻撃?? Curr Opin Neurobiol 2013;23:767-773
・但し髄液検査やMRIで炎症なし/他の自己免疫疾患の合併なし。また免疫修飾薬を使用した小規模臨床試験で症状緩和を認めず
・稀に視床下部の障害(サルコイドーシス/脱髄/脳梗塞/腫瘍/傍腫瘍症候群)でナルコレプシーを二次性に発症。 Sleep Med Rev 2005;9:269-310
・総睡眠時間が増す、視床下部や脳幹など神経巣症状、下垂体機能不全、眼球運動障害、上肢筋力低下を伴うなど鑑別は容易

 
■Neurologic features■
オレキシン作動神経は覚醒中に活動性が増す J Neurosci 2001;21:1656-1662 J Neurosci 2005;25:6716-6720 Nat Commun 2013;4:1547-1547
オレキシン作動神経は覚醒保持に必要なニューロンに終末がある(大脳皮質/基底核/脳幹/視床下部のノルエピネフリン/セロトニン/ドパミン/ヒスタミン作動神経)
オレキシン終日覚醒を保持する持続的な効果がある
オレキシン作動神経機能が低下
覚醒保持に必要な脳機能低下→入眠発作→ナルコレプシー Sleep 2010;33:297-306
オレキシンはREM睡眠を抑制する部位を抑制している。
オレキシン作動神経低下→日中覚醒時に麻痺や幻覚などREM睡眠症状出現 J Neurosci 2012;32:12305-12311
・カタプレキシーは前頭前皮質扁桃体→橋の連絡を抑制する事により起こる J Neurosci 2013;33:9743-9751 J Neurosci 2013;33:9734-9742 J Neurosci 2015;35:11583-11594 
オレキシン作動神経は代謝/交感神経/大脳報酬系を刺激
→機能低下で肥満や抑鬱が合併する Sleep Med 2013;14:488-492 Neurology 2014;83:1080-1086

 

■Treatment■
行動療法薬物療法が基本 Neurotherapeutics 2012;9:739-752 Paediatr Drugs 2014;16:363-372

行動療法
・日中に十分な良質の睡眠/日中に20分ほど昼寝/OSAなど他疾患への対処、がまずありき

薬物療法
・覚醒刺激薬による薬物療法の適応になる場合が多い
軽症-中等症に対してmodanifil(モディオダール
ドパミン再取り込み阻害。副作用、濫用リスク共に少ない Ann Neurol 1998;43:88-97
・Methylphenidate, Dextroamphetamine ドパミン放出と再取り込み阻害。セロトニンエピネフリンへの薬理作用も少し。副作用と消耗や濫用が懸念される Mol Neurobiol 2009;39:73-80
・venlafaxineは終日作用し副作用も少ない抗鬱薬でカタプレキシーに有効(国内では保険適応なし)
・clomipramine(アナフラニール)は抗コリン作用が煩わしいがカタプレキシーの誘因(結婚式など)の前に飲むと有効
ノルアドレナリンセロトニンはREM睡眠を抑制
SNRIはREM睡眠を阻害しカタプレキシー予防効果がある
・薬剤中止をする時は反跳減少予防で漸減を推奨
・入眠時幻覚と脱力発作は基本的には患者教育で対応
・症状が重度の場合は抗鬱薬を考慮
・sodium oxybate(sodium salt of γ-hydroxybutyrate)(本邦未承認)
・眠前分1投与で夜間3−4時間持続。oγ-hydroxybutyrate受容体Bに結合し非常に強い非REM睡眠を作り出す J Neurosci 2010;30:14194-14204
・数週間後には日中の眠気とカタプレキシー消失(機序不明) 副作用で嘔気と眩暈、過量服薬で昏睡。
・中等症−重症の症例のみで考慮 Sleep Med Rev 2012;16:431-443

<生活習慣>
十分治療しても日中の眠気や注意力低下は残ってしまう
・患者/家族/医師で生活様式についても十分検討する必要
例:交通事故は健常者の3−5倍。乗車前に内服するか、短時間走行のみにするか、乗らないか
例:教員など刺激のある職業はよいが注意を持続しなければならない職業は向かない

 

✓ ナルコレプシーは知見は増えたがまだまだ未解明。オレキシン産生神経が関与しており、今後の治療法確立が望まれる



過敏性腸症候群に対するEluxadoline 
Eluxadoline for irritable bowel syndrome with diarrhea*4

 下痢型の過敏性腸症候群に対する治療法はまだまだ十分確立されているとは言えないのが現状です。今回μ・κオピオイド受容体アゴニストでδオピオイド受容体アンタゴニストである新規経口薬エルクサドリンの効果が検証されていました。

 論文のPICOは、

P:ROMA-Ⅲ基準を満たす下痢型過敏性腸症候群患者
I:エルクサドリン
C:プラセボ
O:①1-12週間の症状改善、②1-26週間の症状改善
※症状改善の定義は腹痛スコアがベースより30%減少、Bristol<5点の日が50%以上
T:RCT/ITT解析
結果:
 平均年齢はIBS 3001が44-45歳、IBS 3002が45-47歳
 女性 65%、腹痛スコア 6.1/10点、BMI 30-31 
 IBS-D症状スコア 2.8/4点
 プライマリアウトカムは、
①1-12週の症状改善では、
IBS 3001試験では、エルクサドリン 75mg群 23.9%、100mg群 25.1%、プラセボ群 17.1%で有意差あり。 
IBS 3002試験では、エルクサドリン 75mg群 28.9%、100mg群 29.6%、プラセボ群 16.2%で有意差あり。 
②1-26週の症状改善では、
IBS 3001試験では、エルクサドリン 75mg群 23.4%、100mg群 29.3%、プラセボ群 19.0%で有意差あり。
IBS 3002試験では、エルクサドリン 75mg群 30.4%、100mg群 32.7%、プラセボ群 20.2%で有意差あり。

f:id:tyabu7973:20160207200839j:plain

(本文より引用)
 有害事象では、プラセボと比較して多かったのが、悪心・便秘・腹痛だった。また、膵炎が投与1666例中5例に発症していた。

  エディトリアルではランドマークだ!と盛り上がっておりました。個人的にはオピオイド受容体に作用するというのが何ともいやだなとは思いましたが。依存や離脱・長期使用による影響などが今後の課題でしょうね。

 

✓ 下痢型過敏性腸症候群に対するエルクサドリンは、12週・26週時点での症状改善効果がある