栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文:Retrocohort 糖尿病患者での過剰管理と処方減量の頻度

糖尿病患者での過剰管理と処方減量の頻度
Rates of deintensification of blood pressure and glycemic medication treatment based on levels of control and life expectancy in older patients with diabetes mellitus*1

JAMA Intern Med. doi:10.1001/jamainternmed.2015.5110 Published online October 26, 2015.

【背景】
・高齢糖尿病患者の血圧や血糖管理は潜在的な危険があるほど低いが、めったに管理を緩くされることが無い。
・現在一般的な目標は140/90mmHg、HbA1c 7.0%で達成率は年々向上してきている。Ann Intern Med. 2006;144(7):465-474.
・一方、目標達成が多くなることで過剰治療も指摘されている。 JAMA Intern Med. 2014;174(2):259-268. Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2013;6(1):66-74.
・過剰治療による害はACCORD試験が有名。sBP 120mmHg以下、HbA1c 6.0%以下に設定したところ全死亡が増えた。 N Engl J Med.2010;362(17):1575-1585. N Engl J Med. 2008;358(24):2545-2559.
・過剰治療はより合併症の多い高齢者でも多く、若年より危険性が高まる。 BMJ. 2015;350:h949. JAMA Intern Med. 2015;175(4):578-585.
・ADA(米国糖尿病学会)とAGS(米国老年医学会)、ABIMのChoosing wiselyでは、血圧とHbA1cを下げすぎることの害をアピールしている。

【方法】
・試験デザイン:後ろ向き観察研究
・対象:退役軍人病院の2つのコホートを使用。
1つめは、血圧と血圧治療を評価。2つめは血糖のコホート。70歳以上の糖尿病患者で2012年の1-12月まで調査。
①血圧を3群に分類し、very low 120/65以下、moderately low 120-129 or 65以下、それ以外はnot low
②血糖を3群に分類し、very low HbA1c 6.0%以下、moderately low 6.0-6.4%、それ以外はnot low
・組み入れ基準:
 降圧治療厳格群:ACE or ARB以外に降圧薬を使用
 血糖治療厳格群:メトホルミン以外に血糖降下薬を使用
・除外基準:組み入れから180日以内の死亡や、肝硬変・心不全等の基礎疾患

【結果】
実際のコントロール:
①BP 
 very low      81226/211667(38.4%)
 moderately low   25955/211667(12.3%)
 not low        104486/211667(49.4%)
②HbA1c
 very low       12917/179991(7.2%)
 moderately low   23769/179991(13.2%)
 not low         143305/179991(79.6%)
→血圧で50%、HbA1cで20%が過剰コントロール

f:id:tyabu7973:20160208000714j:plain(本文より引用)

・プライマリアウトカム:減量・減薬の割合
① BP 
 very low      15275/81226(18.8%:18.5-19.1)
 moderately low   4150/25955(16.0%:15.5-16.4)
 not low        15826/104486(15.1%:14.9-15.4)
② HbA1c
 very low       3489/12917 (27.0%:26.2-27.8)
 moderately low   4956/23769(20.9%:20.3-21.4)
 not low         25041/143305(17.5%:17.3-17.7)
→治療が過剰でも十分な減量・中止がされていない


【結論】

・高齢者では、HbA1cや血圧がvery lowになっていた患者で実際に減量されたのは27%以下だった。過剰治療を減量出来る可能性が少ない
HbA1c低値・血圧低値と予後の短さは、減量イベントと関連しなかった
診療ガイドラインでは、過剰治療や減量に焦点を置くべきである


【批判的吟味】
・いつも通り論文のPECOから見ていきます。
P:米国退役軍人病院の70歳以上の糖尿病患者21万1667人
E/C:
①血圧:very low 120/65以下
    moderately low 120-129 or 65以下
②血糖:very low HbA1c 6.0%以下
    moderately low 6.0-6.4%
※その他はlowではない、ACCORDに基づき
O:薬剤減量調整(中止 or 6ヶ月以内の減量)
T:後ろ向き観察研究
・そもそもコントロールが良い患者では、コントロール改善後6ヶ月以内に、血圧や血糖評価がされている患者の割合が少ない。
プライマリケア医はコントロール良くなるとモニタリングしない
・なぜ減量されないのか?
①薬を減量するためには、患者の十分な病状理解と医療専門家による説明が必要であり、「one size fits all」の様な単純な視点から脱却の必要あり
②そもそも単回の血圧・血糖コントロールを根拠に減量して良いか?
ガイドラインも過剰診断よりは治療不十分に軸足あり。高齢者のコントロール目標を緩くしたガイドラインもあるが、どう減量するかを明示したガイドラインがない
・過剰治療患者で減薬・減量がどの程度されているかを初めて明らかにした研究
・薬局の記録なので、投薬を過小評価している可能性。本当はもっと処方されている?
インスリン量の減量などは評価していない。本当はそこが減薬対象だったかもしれない。一応感度分析は行っているが・・・
・単回の評価しかしていないため、一過性のHbA1c低下や血圧低下かもしれず、本来は減量が不要な患者かも
・患者の機能評価などは行っておらず、サロゲートのみ。
・きちんとしたアウトカムを評価できていない。ただ薬が減ったのみで、減った結果、患者にとって有用なアウトカムに変化があったかは分からず

【個人的な意見】

 過剰治療の基準はACCORD studyの結果に基づいているのでそれが妥当かはまた意見がある課と思いますが、血圧が130以下になっている患者が全体の50%、HbA1cが7%を切っている人が全体の20%ということです。
 なかなかデジタルに7%ではいけないきがするので、少なくともvery lowの血圧120/60mmHg以下やHbA1c 6%以下では減量するようにしたいですね。


✓ リアルワールドでは過剰治療は比較的多く、減量されているのはごく一部