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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet ボクシングは禁止すべきか?/転倒予防介入プログラム/積極的降圧治療の効果/満期近い妊婦の陣痛前破水への陣痛誘発

論文 高齢者 産婦 循環器 BMJ Lancet

BMJ

ボクシングは禁止すべきか? 
Should we ban boxing*1

 ボクシングの話題は結構あちこちで取りざたされておりますが、今回はディベート形式でボクシングの是非を問うています。もちろん、医療とか健康という尺度を絶対的な尺度とすれば禁止すべき理論になるんでしょうけど・・・

Yes派:
 医療プロフェッショナルは以前からボクシングを禁止するように働きかけてきた。WMA(World Medical Association)もその機関の一つ。ボクシングは死亡事故や頭部外傷後遺症を引き起こす可能性があるスポーツ。そして、「他人を傷つける」ことが目的である。
 オーストラリアの545人のボクサーの907試合を8.5年間かけて調査した観察研究では、177試合(19.5%)で外傷があり、TKOやノックアウトを含めると全体の60.7%におよぶ。主な外傷は、頭部裂創(61.7%)、脳震盪(11.7%)、骨折(8.4%)。カナダでの調査も同様で、277/500の外相が報告され、挫創(44%)、脳震盪(10%)、裂創(9%)だった。またプロボクシングの試合での死者は1983-2007年までに120人に及んでいるとされている。実際にはもっと多いかも。日本ではかの有名な矢吹丈力石徹が記憶に新しいが(笑)、過去に実際には37人いるんだそうで。 
 様々なスポーツによる社会的影響を定量化することは困難であり、ある程度のコンタクトスポーツであれば、外傷リスクはある。ただし、ボクシングが他のスポーツと異なるのは相手を傷つけようという意図がある点である。通常ボクシングでおこなわれている行為はスポーツとして正当化されているものの、通常は犯罪行為である。暴力そのものがこのスポーツにとって不可欠なコンポーネントであることが問題。現在はポイントシステムに移行したなどと言っているが、勝利は頭部への明確な一撃や打撃による意識障害によってもたらされるのが論点である。

 

No派:
 ボクシングはメジャーで健康にもメリットあり。他のスポーツよりも明らかに危険であるとするエビデンスは実はあまり多くない。世界的に禁止している国は北朝鮮とイランのみ。長年反対していたノルウェイも解禁になった。
 頭部外傷などが問題になることが多いが、実際のところでは、馬術(128/10万人年)、山登り(51)、パラシュート(126)、バイクレース(7)、ボクシング(1.39)、プロボクシング(7.6)と存外少ない。大規模観察研究では、脳震盪頻度は39.8/1000、ラグビーが27.8/1000であり、ラグビーと大きくは変わらない。確かにけがは多いかもしれないが、他のスポーツと比較するとそれほど多くないとも言える。問題視されている頭部外傷もスポーツによるものが最多ではなく、最も多いのはアルコール関連。ボクシングを禁止するくらいならまずはアルコールから制限するのが一般的では?
 そもそも多くのボクサーの目的は人を傷つけることではなく、名誉・金・楽しみでやっている。人を傷つけるのが好きでやっているボクサーはほとんどいないのが現状だろう。また、自助努力もあり、どんどん安全な方向にルール改正がされており、リングドクター教育も進んでいる。現状で止める必要は無いのでは?
 

✓ ボクシングによる害と医師のスタンスは様々である

 

転倒予防介入プログラム 
6-PACK programme to decrease fall injuries in acute hospitals: cluster randomised controlled trial*2

 転倒予防は高齢化社会を迎えた現在の高齢者医療において中心的な問題であるにもかかわらず、現時点では十分な予防効果を示した質の高いエビデンスはまだまだ少ないのが現状です。例えば2012年のコクランレビューでは急性期病院における転倒予防に有用な教育プログラムは現時点では一つもないと結論づけています。そんな中、転倒予防効果を検証した大規模RCTが報告されていました。
 論文のPICOは、

P:オーストラリア6病院、24病棟で転倒予防を実施していない病棟
I:6-PACK法による介入 12ヶ月
(6-PACK:転倒警告・入浴時付き添い・歩行補助具・トイレサポート・高さの低いベッド・ベッドアラーム)
C:通常ケア
O:転倒および転倒関連外傷の頻度
T:RCT/open/ITT解析
結果:
 内科16病棟、外科8病棟、65歳以上が55%  
 run in periodを3ヶ月程度おいている。介入群222670人、コントロール群 23575人
 全体で1831件の転倒と613件の転倒関連外傷あり
 転倒は、介入群で937件、コントロール群で894件、RR 1.04(0.78-1.37)
 転倒関連外傷は、介入群で292件、コントロール群で321件、RR 0.96(0.72-1.27)

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(本文より引用)

→上記であり有意差は認めなかった。

  病棟での転倒予防って本当に難しいですね。いったい何をやったら良いのだろう・・・と途方に暮れる感じもありますが。病棟単位での介入にもやや無理があるのだろうか・・・

 

✓ 病棟単位の包括的な転倒予防介入プログラムは転倒頻度も転倒外傷も減らさなかった



 

 

■Lancet■

 
Effects of intensive blood pressure lowering on cardiovascular and renal outcomes: updated systematic review and meta-analysis*3

 ここに来て降圧目標値が揺らいでいます。ACCORD-BP研究で積極的はだめじゃね?ってなってたわけですが、先般のSPRINT研究でまた大きな揺り戻しが・・・今回のメタ解析は残念ながら、SPRINTの結果は含まれていないので、タイミング悪いときに出ちゃったなあという気もしますが・・・
 システマティックレビューは前回は2012年に行われていて、それをUpdateした形です。九大の日本人の先生も著者に含まれています。現時点では各国ガイドラインがリスクのある脳梗塞後・心筋梗塞後・CKD・DMで降圧目標を130/85から140/90mmHgに引き上げています。ただ本当にこれらのリスク患者で降圧目標が緩くて良いのかはまだまだ意見が分かれるところ。今回は再度その効果を検証しています。
 論文のPICOは

P:6ヶ月以上フォローアップデータがある血圧目標を比較したRCTの患者
I:積極的降圧
C:従来降圧
O:主要な心血管イベント・心筋梗塞脳卒中
T:ステマティックレビュー
結果:
 19研究44989人が解析対象。3.8年フォローで2496件の主要な心血管イベントが発症している
 積極的降圧群の平均血圧は133/76mmHgで、従来群は140/81mmHgだった。
 積極的治療群では、従来群と比較して
 ①主要心血管イベント 14%減、②心筋梗塞 13%減、③脳卒中 22%減、④アルブミン尿 10%減、⑤網膜症進行 19%減だった。

f:id:tyabu7973:20160211105858j:plain

(本文より引用)
 一方で、心不全や心血管死亡・全死亡・末期腎不全の頻度は有意差がなかった。
 副作用としては、重度の低血圧が増える(RR 2.68:1.21-5.89)結果だったが、絶対値としては0.3%人年と非常に少なかった

 リスクありの方々は降圧目標を厳しくした方が良いのでは?という見解。これはSPRINT研究の結果を後押しする形ではあります。SPRINTは非糖尿病ですが、この辺りはまだまだ結論が出なそう。個人的には無理せず下がるなら下げるか?というスタンスです。

✓ メタ解析ではリスクありの患者には積極的降圧が様々な血管イベント発症率を低下させる



満期近い妊婦の陣痛前破水への陣痛誘発 
Immediate delivery compared with expectant management after preterm pre-labour rupture of the membranes close to term(PROMPT trial):a randomised controlled trial*4

 あまりなじみの無い領域ではありますが・・・妊娠37週以降の陣痛前破水では早期に誘発した方が良いというstudyがある一方で、23-30週では誘発せずにできる限り児が胎内で過ごした方が胎児予後が良いという報告があるのだそうです。今回は、34−36週の間の対応について十分検証されていないので大規模に検証してみましょうというRCTです。
 論文のPICOは、

P:34-36週の陣痛前破水した妊婦1839人
 ※感染疑いは除外、双胎も除外
I:陣痛誘発
C:自然経過
O:胎児敗血症
T:RCT/ITT解析/多国籍
結果:
 平均28歳、破水からの時間が平均28時間
 介入群で97%は37週未満で出生、自然経過は37週未満出生が79%
 プライマリアウトカムの新生児敗血症は、誘発群で23/923(2%)、自然経過群で29/912(3%)でRR 0.8(0.5-1.3)と有意差はありませんでした。
 セカンダリで見ると、RDSはRR 1.6(1.1-2.3)で増やすと言う結果に。

 ということで基本的には無理に誘発せずに、自然に経過を見ても良いのでは?という結果です。過去の結果を合わせると37週を越えたら誘発という流れなのでしょうか。

✓ 陣痛前破水妊婦さんは34-36週まで経過していれば誘発せずに待つのも一手