栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet ベンゾジアゼピンと認知症発症/運動不足高齢者への運動プログラム/糖尿病患者の降圧薬にRAS系阻害薬/NASHへのGLP-1アナログ製剤/USPSTFの妊娠うつ病スクリーニングへの意見

BMJ

ベンゾジアゼピン認知症発症 
Benzodiazepine use and risk of incident dementia or cognitive decline: prospective population based study*1

 なんとなくこれまでの結果から、ベンゾ系薬剤と認知症の関係は確定的事実の様に感じてしまっていますが、まだ検証中という形なのかもしれません。過去にBZP系薬剤と認知症についてを検証した質の高い観察研究は3つあるのだそうです。そのうち2つで関連あり、1つが関連無しという結果でした。今回は、米国で初めて組まれた前向き観察研究で、BZP系薬剤使用を用量換算して評価しています。
 論文のPECOは、

P:65歳以上でもともとベースラインでは認知症がない3434人
  薬剤の保険データが10年以上ある患者さんのみ組み入れ
E/C:①BZP使用なし、②1-30 TSDS(Total Standardlized Daily Doses)、②31-120 TSDS、④≧121 TSDS
O:認知症・Alzheimer型認知症発症
T:前向き観察研究
結果:
 平均年齢 74.4歳、男性 40%、ベースライン10年間の間にBZP系薬剤を一度でも処方された患者は全体の30%
 TSDSの換算としてminimum effective doseを1としていて、例えばジアゼパムなら4mg=1、ロラゼパムなら2mg=1、として、日数を乗して用量換算している
 使用が最も多かったBZP系薬剤は、①テマゼパム、②ジアゼパム、③クロナゼパムだった。
 認知症は、使用無しを1とすると、②1-30群がHR 1.21(0.98-1.50)、②31-120群がHR 1.20(0.88-1.64)、③≧121群がHR 1.13(0.85-1.52)と有意差を認めなかった
 Alzheimer型認知症は、使用無しを1とすると、②1-30群がHR 1.24(0.98-1.57)、②31-120群がHR 1.04(0.72-1.51)、③≧121群がHR 1.05(0.75-1.46)とこちらも有意差を認めなかった。

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(本文より引用)

  解釈が難しいですが、きちんと内服量も換算していますが、使用の有無で認知症頻度は変わりません。交絡因子がありますし、なかなか確定的とは言えませんね。少なくとも現時点で2対2になってますね。


✓ 米国の用量換算して検討した前向き観察研究では、BZP系薬剤使用と認知症発症は相関しなかった


運動不足高齢者への運動プログラム 
Effect of structured physical activity on prevention of serious fall injuries in adults aged 70-89: randomized clinical trial(LIFE study)*2


 LIFE研究は過去最大規模の高齢者運動介入試験で、過去に当ブログでも取り上げました。

tyabu7973.hatenablog.com

 こちらは、プライマリアウトカムが認知機能だったのですが、今回はセカンダリアウトカムである、重症転倒外傷を評価した検討です。
 論文のPICOは、

P:70-89歳の運動習慣のない高齢者 1635人
  週のスポーツ時間が20分未満、中等度運動も125分未満
I:運動プログラム24ヶ月(週2回外で、週3−4回自宅で)

C:健康教育24ヶ月(週1回講義、運動増やす内容ではない)
O:重症転倒外傷の発生率(非椎体骨折・入院必要な傷)
T:RCT/ITT解析/3年フォローアップ
結果:
 平均79歳、女性 67%、内服薬剤平均 5種類、昨年転倒 50%
 プライマリアウトカムは、運動プログラム群 72/818人、健康教育群 82/817人でRR 0.90(0.66-1.23)と有意差を認めなかった
 サブ解析では、男女比があり、男性ではRR 0.62(0.34-1.12)、女性ではRR 1.05(0.72-1.52)だったがそれでも有意差は認めなかった。

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(本文より引用)

  なかなか難しいですね。結局運動の効果を証明するって本当に難しいですねえ。しかもこの介入って実現困難なことが多いですよね。週2回自宅外で、週3−4回自宅でってほぼ毎日じゃん!と。

 
✓ 低活動高齢者に対する運動プログラムが、重症の転倒外傷に与える影響は通常の健康教育と変わらなかった


糖尿病患者の降圧薬にRAS系阻害薬 
Diabetes mellitus as a compelling indication for use of renin angiotensin system blockers: systematic review and meta-analysis of randomized trials*3

 BMJは今回豊作。なかなかおもしろいテーマが並びます。こちらのテーマは糖尿病患者の降圧薬は何を使いますか?というテーマ。2015年のADAや2013年のASHでは、「RAS系阻害薬が第一選択ですよ」と述べておりますが、2014年のJNC8や2013年のESHでは「どれでも良いよ、蛋白尿とかあればRAS系で」という推奨です。というわけで今回システマティックレビューが行われておりました。
 論文のPICOは、

P:糖尿病もしくは耐糖能異常の患者
I:RAS系阻害薬
C:それ以外の降圧薬
O:死亡・心血管死亡・心筋梗塞狭心症心不全・再潅流療法等
T:ステマティックレビュー/メタ解析/random effectもfixed effectもどちらも解析
結果:
 RCTでサンプルサイズ100人以上、フォローアップ1年以上の研究を組み入れ
 19RCT、25414人、平均3.8年フォローアップデータが解析対象
 14試験がACE阻害薬、6試験がARBのものだった
 全て2型糖尿病で大半が糖尿病+高血圧合併。studyの半分以上はlow risk of biasのもの
 プライマリアウトカムの死亡は、RAS系とその他の薬剤で有意差は認めなかった。RR 0.99(0.93-1.05)、I2=0%で異質性なし
 同様に、心血管死亡 RR 1.02(0.83-1.24)、心筋梗塞 RR 0.87(0.64-1.18)、狭心症 RR 0.81(0.59-1.10)、脳卒中 RR 1.04(0.96-1.16)、心不全 RR 0.90(0.76-1.07)、再潅流 RR 0.97(0.77-1.22)とどれも有意差を認めなかった。

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(本文より引用)

 基本的には、あまり変わらんということでしょうか・・・もちろん蛋白尿などあればRAS系阻害薬が良いのでしょうが。基本JNC8 2014年の推奨に従う感じですねえ。

✓ 2型糖尿病患者に使用する降圧薬は、RAS系薬と他のもので血管系アウトカムに差は出ていない
 

 

■Lancet■

NASHへのGLP-1アナログ製剤 
Liraglutide safety and efficacy in patients with non-alcoholic steatohepatitis(LEAN): a multicentre, double-blind, randomised, placebo-controlled phase 2 study*4

 これも巷では少し話題になっていましたが、NASHに対する薬剤介入のRCTです。基本的はNASHに対して効果を検証された薬剤は現時点ではないという認識です。過去のPIVENS研究ではVitE(ユベラⓇ)やピオグリタゾン(アクトスⓇ)を併用したところ、NASHは改善したものの心血管イベントが増えたかも?という結果になっていますし、Obeticholic酸という薬剤を使用したFLINT研究ではNASHは改善したがLDLが上昇したとされています。そこで、今回はGLP-1製剤に白羽の矢が立ったという形です。
 論文のPICOは、

P:BMI≧25で肝生検でNASHと診断された18-70歳の成人52人
I:GLP-1皮下注射1回/日 48週投与
C:プラセボ
O:48週時点での肝生検による繊維化進行およびballooning消失
T:RCT/mITT解析
結果:
 事前計算でサンプルサイズが少ないので、コントロール群は自然に20%改善すると見積もり、介入群は50%改善しないと臨床的に意味がないと設定。
 平均 51歳、糖尿病合併 33%、メトホルミン内服 33%、平均体重 104kg
 プライマリアウトカムの繊維化およびballooningの消失は、GLP-1群 39%、プラセボ群 9%で有意に改善しRR 4.3(1.0-17.7)だった。事前に設定した基準はみたさなかったが自然改善が思いの外少なかった。
 NAFLD activity scoreは有意差なし。
 その他ではGLP-1群で体重が-4.39kg減少、摂取カロリーも282kcal減少している。
 副作用は消化器症状がGLP-1群で有意に増えている

 なるほど〜。結果は出した模様ですが。こうなってくると、GLP-1製剤の効果なのか減量の効果なのかがよく分かりませんね。痩せたらこれくらい良くなったりしないのかな?NASHに対する減量RCTってあるのだろうか?今後の検証次第といったところでしょうか。少なくとも私自身はNASHに対する薬物療法は原則しないというスタンスは変わらないかなと思います。あとは真のアウトカムではないです、はい。

✓ NASHに対するGLP-1製剤皮下注射は1年後繊維化・balooningを改善する


USPSTFの妊娠うつ病スクリーニングへの意見 
Screening for perinatal depression: a missed opportunity

 USPSTFの妊婦さんに対するうつ病スクリーニングへの推奨が揺れています。USPSTFは全例にスクリーニングを推奨していますが、Lancetではこの大胆な推奨に対して反対の立場を表明しています。

 根拠となっている研究では、妊娠中もしくは出産後の女性に対するうつ病スクリーニングによってうつ病リスクを28-59%減少させるとしています。一方、英国やカナダでは、同じbody of evidenceを元に根拠になる論文の質が高くないため推奨できないとしています。USPSTFが根拠として採用した研究自体もfair qualityのものばかりでした。


 また、スクリーニングツールは簡易で感度・特異度が良いものが理想的ですが、現在使用されているスクリーニングツールであるEdinburgh Postnatal Depression Scaleは、偽陽性が多いことも問題になっています。偽陽性が多い試験がスクリーニングで使用されることはoverdiagnosisにつながり、それによって潜在的に児への影響も懸念されます。過去の研究でもこのスクリーニングによる害については検証されていませんでした。少なくともスクリーニングによる害を十分検証してから推奨すべきです。

 また医療費の問題もあります。スクリーニングによって、偽陽性になると本人も落ち込み、不要な診察や紹介、場合によっては治療に繋がる可能性があり、それに伴う医療費がかかってきます。また、地域によってはケアアクセスの問題も出てくるかもしれません。

 もちろん、周産期うつや産後うつは非常に重要な問題で、報告によっては全妊婦の5%にも及ぶとされ、低所得国では更に増える可能性があります。母親のうつが子供に与える影響も良くないことが分かってきており、その影響は成人期まで及ぶ友言われています。ただ、単なる同定のみに力を注ぐことがこの問題に対する適切な介入とは言えないかもしれません。ルーチンでのスクリーニングによる潜在的な有害性に目を向けて、スクリーニングが必要な方をいかに同定していくかを構築していく必要があるかもしれません。


✓ 妊娠中・産後時期のルーチンうつ病スクリーニングは潜在的な害があるかもしれない