栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 使用期限の切れた薬剤/結晶析出の潜伏現象/喫煙歴ありの患者での中枢気道虚脱の疫学/片山熱の症例報告/認知症発症率の経時的変化 

■JAMA■

使用期限の切れた薬剤 
Drugs past their expiration date*1

 これは興味深いテーマです。よく患者さんから「1年前のやつって飲んで良いの?」って聞かれてますが、あまりそれに対する明確な回答はないなあと思いながら、「1年以内なら良いンじゃないでしょうか〜?」って適当に応えておりました。

 彼の国でも同様に患者さんから期限切れの薬は使用してもよいのかと聞かれるんだそうです。法的規制や責任問題を気にして、多くのメーカーは薬に付与されている期限を越えた薬剤の効果や安全性についてコメントを避けています。Medical Letterさんは過去にもこのテーマを取り扱ったことがある模様ですが、更にデータが出てきたので追加でかきますとのことです。

■安全性■
 実は期限切れの薬剤による人体毒性は、内服薬・点滴・外用剤でも過去に報告がありません。期限切れで劣化したテトラサイクリンによる腎尿細管障害が唯一報告されている期限切れ薬剤による害です。
■有効期限■
 メーカーの設定している有効期限は、基本的には元の密閉された容器中の薬剤の安定性に基づいて規定されています。その日付を過ぎたらその薬剤が不安定になってしまうという訳ではありません。多くの薬剤は、密閉容器内であれば有効期限の日付を越えても安定状態を保っているだろうと考えられています。ほとんどの薬剤が1-5年の有効期限を持っていますが、もちろん開封されてしまえばその限りではありません。
■安定性■
 米国FDAの調査によると、未開封状態で元々の容器に保存されている122種類の異なる薬剤を検証した結果、平均66ヶ月(5年以上)保存しても88%(2650錠)の薬剤が安定した状態を保っており、残りの12%(312錠)も期限が切れて4年経過しても安定していたと報告しています。pHや水分含有量・物理的な外観などの要素が変性に関連しますが、少なくとも1年以内に失活してしまった薬剤はないとも報告されています。
■熱・湿度・長期間保存■
 高熱・多湿の環境ではいくつかの薬剤では分解が促進されます。一方、カプトプリルやテオフィリンは、40℃、湿度75%の環境下で1.5〜9年安定が保たれてたと言う報告があります。また、別の研究でもテオフィリンが30年経過しても安定していたと報告しています。さらに、14種類の薬剤を28-40年という長期間未開封の状態で置いておいた研究では、12種類が元の効力の90%を保持していたと言われています。ただ、アスピリンは5%未満に、アンフェタミンは60%未満に効果が減弱していました。
■液体薬剤■
 液体および懸濁液は一般的に固形薬剤よりも不安定だが、アトロピンで12年以上経過したものもしくは50年以上経過したものは薬効成分が十分保たれていました。ただし、内容物が混濁したり変色したりした場合には、使用すべきではありません。懸濁液は冷凍による影響を受けやすいです。また、エピペン自己注射は期限切れで効力がなくなる可能性が高く、ある研究では1-11年有効期限が切れていた救急車内のエピペンは薬物含有量が12.6-31.3%にまで減量していることが分かっています。
■結論■
 他に代替手段がない場合には期限切れ薬剤は有効である可能性があります。どの程度効力が維持されるかは、薬物・ロット・防腐剤の有無・貯蔵条件(特に熱や湿度)によって異なります。元々の保存容器内で適切に保存されれば、5年経過しても効力を90%維持できるかもしれません。

 

✓ 期限切れ薬剤も意外と効果はきちんと保たれている可能性がある


結晶析出の潜伏現象 
A tincture of time -latent crystal formation and clinical decision-making in acute gout-*2

 JAMA internal medicineのteachable momentです。さらっと短く読みやすいので最近愛用。症例は51歳男性。過去に痛風既往のある患者さんが、特に外傷歴もなく右肘の有痛性関節炎が出現しています。他の部位の関節炎はなく、採血で尿酸は確認していませんが炎症反応が上昇。関節液穿刺を施行したところ、細胞数増多はあるもののグラム染色陰性、各種結晶も陰性とのことで、「培養陰性化膿性関節炎」の診断で、入院後抗菌薬投与を開始し3日後には内服薬に変更して退院しています。後日、外来でプライマリケア医が関節液検査を確認したところ、尿酸結晶が指摘されており、痛風関節炎の診断となりました。

 ?? 結晶陰性だったのでは?という話題。実は、結晶検査の結果は最終ではなく検査中だったのだそうです。実は結晶誘発性関節炎の結晶は初期に陰性で、時間が経過してから陽性になることが知られています。この現象は潜伏現象とも呼ばれ、全体の6.5%ほどに起こる可能性があるそうです。24時間ほど経過してから徐々に関節内結晶が明らかになることがあり、また、穿刺を繰り返した場合に24%は2回目の検査でのみ結晶様性だったと報告されています。この潜伏現象の機序ははっきりはしませんが、体内の深部温よりも穿刺後の検査室での温度が低いことが関連しているのではないか?と言われています。

 まあ、この潜伏現象を知っていても知らなくても、結晶誘発性関節炎の結晶同定検査は完璧ではなく、特異度は97%と高いものの感度は69%と低めであり、陰性だからといって否定できるものではないことを知っておく必要があります。また、検査結果は最終結果が出るまでは最期まで追うことも重要なポイントです。

 

✓ 結晶誘発性関節炎では結晶同定が初期には陰性で、時間経過してから陽性になる潜伏現象が起きることがある


喫煙歴ありの患者での中枢気道虚脱の疫学 
Association between expiratory central airway collapse and respiratory outcomes among smokers*3

 中枢気道の虚脱はついつい鑑別の中から逃しがちです。実際のところどのくらいの頻度で起こるものかもよく分かっておらず、特にCOPDと誤診されている患者も多いのではないか?と考えられています。そこで、今回喫煙者を対象に実際に中枢気道虚脱の患者さんがどの程度存在するのかを検証した観察研究が報告されていました。
 論文のPECOは、

P:21施設でリクルートしたCurrentもしくはFormerの喫煙者8820人
  ※COPDや喘息以外の肺疾患は除外
E:中枢気道虚脱あり
C:中枢気道虚脱なし
※全例でtidalでの呼気末・吸気末でCTを撮像し中枢気管の50%以上が虚脱している症例を虚脱ありとした

f:id:tyabu7973:20160221211131j:plain(本文より引用)

O:SGRQという呼吸に関連するQOLスコア(100点満点)
T:後ろ向き観察研究/横断研究
結果:
 51%が現在も喫煙状態で43%がCOPD
 全体の5% 443人に中枢気道虚脱が認められた
 中枢気道虚脱あり群のSGRQ 30.9点、虚脱なし群のSGRQ 26.5点と、中枢気道虚脱群で有意QOLスコアが悪かった
 中枢気道虚脱を予測する因子は、年齢が1歳増える毎にOR 1.06(1.04-1.07)、女性がOR 2.08(1.63-2.63)、BMI 1増える毎にOR 1.07(1.06-1.09)、FEV1.0が1L低下する毎にOR 1.35(1.12-1.61)だった。

f:id:tyabu7973:20160221211218j:plain

(本文より引用)
 中枢気道虚脱症例を追跡もしていて、急性増悪や入院も増えるものの死亡率には差がなかったという結果。

 興味深いですね。これだけヘビーな喫煙状態の患者さんでは全体の5%に中枢気道虚脱があるとのこと。これは見逃している可能性が大いにありますね。確かに気管支拡張薬の反応がどうにも悪いstridor的な高齢者は意外と多い気がします。

✓ 喫煙者の中で中枢気道虚脱は5%程と比較的多く、呼吸関連のQOL低下と関連する



 

■NEJM■

片山熱の症例報告 
Katayama fever*4

 片山熱は、住血吸虫症に伴う過敏反応の一つです。今回調べてみて初めて気付いたのですが、世界的に流行している住血吸虫症は多種ありますが、実は日本では1976年以降症例がなく、世界で唯一住血吸虫症を撲滅した国となっています。

 症例は24歳のオランダ人医学生。ウガンダで選択実習を3ヶ月行っている際に、ナイル川で泳いでいます。帰国2ヶ月後に、7週間前からの乾性咳嗽・倦怠感、2週間前からの下痢、掻痒感を伴わない皮疹を主訴に外来を受診。身体診察では、体幹部に多発する小丘疹を認め、好酸球増多と軽度の肝酵素上昇、胸部X線複数の結節浸潤影を認めた。住血吸虫の抗体価が陽性だったが、虫卵の抗体価は陰性だった。皮膚病変の生検病理では、非特異的な好酸球浸潤があったが、虫卵は認めなかった。これらの所見から住血吸虫症とそれに伴う片山熱と診断した。

f:id:tyabu7973:20160221211329j:plain
(本文より引用)

 片山熱は、住血吸虫症の感染過程において、抗原に対する過敏反応が原因と考えられている。典型的には好酸球増多と肺浸潤影を伴い、感染の2-10週間後に発熱・咳嗽・蕁麻疹様おっ心・倦怠感などが認められる。治療は、プラジカンテルの単回投与で、本患者の急性期症状は速やかに治癒する。

 勉強になりました〜。抗体は初期には陽性にならず、虫卵が認められる時期に陽性になるみたいですが、流行地域では皆抗体陽性なので診断の役に立たないそうです。そもそも片山熱の由来は、広島県福山市神辺町片山地区で流行した地方病だったためです。
 この辺りはWikipediaに熱く語られており、目を通してちょっと興奮しました!

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E6%96%B9%E7%97%85_(%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BD%8F%E8%A1%80%E5%90%B8%E8%99%AB%E7%97%87)

 
✓ 住血吸虫症の急性期反応として、咳嗽・皮疹・好酸球増多・肺浸潤影を特徴とした片山熱がある


認知症発症率の経時的変化 
Incidence of dementia over three decades in the Framingham heart study*5

 それにしても大規模コホートってすごいっすね。このコホートから一体何本のNEJM論文が生まれたんだろ・・・フラミンガム研究はオリジナルコホートは1975年から、子供世代のコホートは1979年から追跡を行っています。今回は認知症発症を評価しています。
 論文のPECOは、

P:フラミンガム在住の60歳以上の住民
E/C:①1977-1983年にベースライン調査した住民、②1986-1991年にベースライン調査した住民、③1992-1998年にベースライン調査した住民、④2004-2008年にベースライン調査した住民
O:5年以内の認知症発症率(DSM-Ⅳで判定)
T:前向き観察研究
結果:
 平均72歳、女性 56-59%
 時代の変遷とともに学歴が向上、喫煙や血圧などのリスク因子は低下している、糖尿病は増加
 プライマリアウトカムの認知症発症率は、
①1977-1983年にベースライン調査した住民 HR 3.6(2.9-4.4)
②1986-1991年にベースライン調査した住民 HR 2.8(2.2-3.5)
③1992-1998年にベースライン調査した住民 HR 2.2(1.8-2.8)
④2004-2008年にベースライン調査した住民 HR 2.0(1.5-2.6)

と経年的に減少傾向だった。Alzheimerも脳血管性も同様の結果。なぜ減っているかの理由は明らかではない。

  高齢化社会を見ていると認知症患者さんはどんどん増えているイメージですが、世代毎に5年後発症率は下がっているというのが興味深いです。認知症を発症する年齢が上がっていると考えるべきなのでしょうか?それとも絶対数が多いので実際になる割合は少ないのでしょうか?なかなか興味深い結果ですね。


✓ フラミンガムコホートでは、認知症発症率は徐々に減ってきている