栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文:Procohort PPIと認知症との関連

PPI認知症との関連
Association of proton pump inhibitors with risk of dementia*1

JAMA Neurol. Published online February 15, 2016. doi:10.1001/jamaneurol.2015.4791

【背景】
PPIは基本的には胃食道逆流症と消化性潰瘍の治療が良い適応である
PPI処方頻度は高齢者の間でものすごい勢いで増加している Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2010;19(10):1019-1024.
・過去10年以内でPPI処方率はドイツでは4倍に増加2013年には31億錠処方されている Arzneiverordnungs-Report 2014: Aktuelle Daten, Kosten, Trends und Kommentare. Berlin, Germany: Springer; 2014.
PPI処方の40-60%が不適切処方と言われ、適切な胃腸診断なしに処方されていた Eur J Intern Med. 2011;22(2): 205-210.
PPIの副作用は様々あるが、認知機能と関連が報告
・LamらはPPI使用とVitB12欠乏の関連を報告
・VitB12欠乏は認知機能と関連 JAMA. 2013;310(22):2435-2442.
・マウスの基礎研究ではPPI使用が、β・γセクレターゼに影響してアミロイドβ蛋白を増やすと報告あり PLoS One. 2013;8(3): e58837.
・pilot研究でGerman Study on Aging, Cognition and Dementia in Primary Care Patients(AgeCoDe)研究が行われた 
【目的】
 高齢者におけるPPI使用と認知症発症リスクについて評価する      
【デザイン・セッティング・患者】
 ドイツ最大の医療保険であるAllgemeine Orslrankenkassen(AOK)データベースを元に、2004-2011年までのICD-10病名と処方箋データベースを解析し、前向き観察研究を行った。
 外来および入院患者の診断は、ICD-10のドイツ版と薬剤処方データベースシステムを用いて評価された。データ解析は2015年8月から11月の間に行われた。
【曝露】
 オメプラゾール・パントプラゾール・ランソプラゾール・エソメプラゾール・ラベプラゾールの処方
【メインアウトカム】
 メインアウトカムは、ICD-10ドイツ版での認知症の診断。PPI処方と認知症の関連は時間依存性のCOX回帰を用いて解析された。既知の交絡因子である年齢・性別・合併症・ポリファーマシーは調整された。
【結果】
 75歳以上の高齢者で認知症の無い73679人が組み入れられた。定期的にPPI処方を受けている患者が2950人(平均年齢83.8歳、女性 77.9%)が全くPPIを受けていない70729人(平均年齢 83歳、女性 73.6%)と比較して有意認知症発症リスクが増加した。HR 1.44(1.36-1.52)

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(本文より引用)


【結論】
 PPI内服を避けることが認知症発症を防ぐことに繋がるかもしれない。最近のプライマリケア領域の薬物疫学解析の結果にも裏付けられており、PPI使用がマウスの脳のβアミロイド蛋白を増やしたという報告がある。今後、ランダム化した前向きかつ詳細な検証が必要である。


【批判的吟味】
・過去に行われたpilot研究であるAgeCoDe研究とほぼ同等の結果だった。先行研究はHR 1.38(1.04-1.83)
・今回の論文のPECOは、
P:認知症のない75歳以上の高齢者
E:PPI処方あり群
C:PPI処方なし群
O:認知症発症頻度
・交絡因子を考慮した解析はしているものの残念ながら完全には除外できていないと考えるべき。
PPI処方群の方が年齢が高く、うつ病が多く、脳卒中や虚血性心疾患・ポリファーマシーが多いという結果だった。
・遺伝的な情報や社会経済的背景は考慮されていないという問題や、認知症のサブタイプを分類していないという論点もあります。

【個人的な意見】
 相関関係はあるのでしょうが、さすがに因果関係と言えるかは微妙です。裏付けられる基礎研究の結果だけでは厳しいですよね。あとは介入による変化を検討しないと何とも言えないでしょう。流石にやめたら予防効果があるのでは?と論理飛躍しすぎ・・・

✓ PPI使用と認知症発症頻度は正の相関があるが因果関係は不明