読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:HAST!/テノホビル/創部処置

今回は諸事情あり3問でのご奉仕です!HASTって何でしょう?

 

Q1

 72歳男性。Stage3のCOPDで運動耐容能は低下しており、心不全も持っている。ニュージャージー州に住んでおり、家族のいるアリゾナ州のフェニックスに飛行機で行きたい。常用薬はリシノプリル、ヒドララジン、イソソルビド、チオトロピウム、サルメテロール、必要時アルブテロール。脈拍88以外バイタル正常。呼吸音減弱あり。心音は軽度のS3聴取。SpO2 91%(RA)、PO2 68mmHg

 

問 渡航について適切なマネージメントは?

A 渡航に飛行機は使わない

B hypoxia altitude simulation test

C 運動負荷試験

D 呼吸機能検査と6分間歩行

 

①HAST!

 適切なマネージメントは飛行中の低酸素血症を予測するためにhypoxia altitude simulation test(HAST)を施行することである。心疾患、肺疾患の既往は機内圧の低下に伴う合併症のリスクとなる。COPDでは飛行中に酸素飽和度の悪化が見られ、運動時に顕著となる。HASTでは混合低酸素ガスを20分間吸入し、機内の最低圧(上空2500m)を再現するのが狙いである。American Thoracic SocietyとEuropean Respiratory SocietyはCOPD患者で合併症がある、飛行中の症状出現既往がある、最近急性増悪した、酸素投与で低換気となる症例にはHASTを推奨している。Aerospace Medical AssociationとCanadian Thoracic SocietyはPO2<70mmHgでHASTを推奨している。PO2<50mmHgでは機内での酸素投与を推奨、55mmHg以上では不要。50-55mmHgでは運動負荷を考慮する。

②他の選択肢

 他の選択肢はリハビリテーションのプログラムだったり、呼吸困難感の程度を測れるが、飛行機による渡航評価には不適切である。

 

POINT 飛行機渡航の可否はHASTで評価

Dine CJ, Kreider ME. Hypoxia altitude simulation test. Chest. 2008;133(4):1002-1005. PMID: 18398121

 

Q2

 55歳女性。6ヶ月前からの倦怠感と運動耐容能の低下。HIV感染症の既往があり、ST合剤、アタザナビル、エムトリシタビン、テノホビルを内服している。体温36.0℃、血圧146/80、脈拍86、呼吸数18、BMI 28。超音波で腎盂石灰化なし。

Laboratory studies:

Albumin

3.8 g/dL (38 g/L)

Blood urea nitrogen

12 mg/dL (4.3 mmol/L)

Calcium

8.1 mg/dL (2.0 mmol/L)

Serum creatinine

1.3 mg/dL (115 µmol/L)

Electrolytes

 

Sodium

140 meq/L (140 mmol/L)

Potassium

2.9 meq/L (2.9 mmol/L)

Chloride

114 meq/L (114 mmol/L)

Bicarbonate

16 meq/L (16 mmol/L)

Glucose

105 mg/dL (5.8 mmol/L)

Phosphorus

1.8 mg/dL (0.58 mmol/L)

Venous blood gas studies:

 

pH

7.32

PCO2

36 mm Hg (4.8 kPa)

Urine studies:

 

Urinalysis

Specific gravity 1.012; pH 5.1; no blood; trace protein; 1+ glucose; no ketones, nitrites, or leukocyte esterase

Urine protein–creatinine ratio

0.525 mg/mg

 

問 適切なマネージメントは?

A テノホビル中止

B ST合剤中止

C 乳酸値測定

D 便の下剤スクリーニング

 

①尿細管性アシドーシス

 テノホビルを中止すべきである。この患者はテノホビルによるType2の近位尿細管性アシドーシスである。尿pHが5.5以下であることは遠位尿細管機能が残存しており尿の酸性化が行われていることを示している。血糖値正常で、尿細管性の蛋白尿、低リン血症のある尿糖陽性患者は、近位尿細管からリンが再吸収できておらず、この患者は近位尿細管性アシドーシスが最も考えられる。アルカリ化療法への反応が診断の鍵となる。近位尿細管だと10-15mEq/kg/dのアルカリ化補正が必要だが、遠位尿細管では1-2mEq/kg/dのみでよい。テノホビルによる腎障害は尿細管のミトコンドリアDNAに対する障害と考えられている。投与中の患者では腎機能をフォローし、腎障害時には減量中止を検討する。腎障害は数週から数ヶ月で改善することが多いが、恒久的に残存することもある。

②他の選択肢

 ST合剤中のトリメトプリムは高カリウム血症は起こすが低カリウム血症にはならない。トリメトプリムは特に酸性尿下で皮質集合管のナトリウムチャネルを阻害し、カリウム、水素イオンの排泄を障害するため、高カリウム血症、アシドーシスが起きる。起きやすいのは高容量の場合やRAS系阻害薬を併用している場合である。また、クレアチニンの排泄も抑制し最大0.5mg/dlの上昇を来すが、真の腎障害を反映していない。

 乳酸は正常代謝では蓄積しないが、産生増加や代謝障害で上昇する。アニオンギャップの上昇する代謝性アシドーシスを引き起こすが、この患者のアニオンギャップは正常である。

 下剤の乱用は、HCO3喪失が低カリウム血症によるアンモニア産生を超えるとアニオンギャップ正常のアシドーシスを引き起こす。近位尿細管性アシドーシスで起きるような尿糖や低リン血症は説明できない。

 

POINT 高K×アシドーシスはRTAか下痢

Unwin RJ, Luft FC, Shirley DG. Pathophysiology and management of hypokalemia: a clinical perspective. Nat Rev Nephrol. 2011;7(2):75-84. PMID: 21278718

 

Q3

 80歳女性。足の裂傷で受診。前日ベッドの角に足をぶつけて皮膚が切れた。創部の処置について相談に来た。既往にリウマチ性多発筋痛症がありプレドニゾンを毎日飲んでいる。右下腿前面に2㎝の水平裂傷を認める。周囲の皮膚は紫色調で薄い。紅斑はなく、破傷風のワクチンはup to date。

 

問 治療は?

A ヒドロコロイドドレッシング

B ワセリンと粘着性のないドレッシング

C 3種の抗菌薬軟膏と粘着性のないドレッシング

D 開放創にする

 

①創部処置

 商業的に様々なドレッシング材が世に出ているが、単純で、コスパの良い処置はワセリンと粘着性のないドレッシングである。この患者は皮膚が萎縮しており、粘着性のあるドレッシング材では周囲の皮膚を障害する可能性がある。被覆の際は弾性包帯やガーゼを用いる。

②他の選択肢

 ヒドロコロイドやヒドロゲル、アルギン酸カルシウムなど新しいドレッシング材は多く、褥瘡のような複雑な創部の改善が得られるが、高価であり、単純な創部には不要である。

 抗菌薬の使用は全例では必要なく、バシトラシンやネオマイシンは接触性皮膚炎のリスクとなる。耐性化も問題である。

 創部の乾燥は治癒を遅らせ、閉じた創部より不快である。

 

POINT 単純な創部は安価で治すべし

Gist S, Tio-Matos I, Falzgraf S, Cameron S, Beebe M. Wound care in the geriatric client. Clin Interv Aging. 2009;4:269-287. PMID: 19554098