栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:脊椎関節症/スタチンの副作用/夜間低血糖/紅皮症

1年が終わりますね。MKSAPも途切れることなく続けられました。4月からはいい加減MKSAP17になる予定です。

 

Q1

 32歳男性。4ヶ月前から緩徐発症の腰痛。朝と夕方に強く、下肢、臀部への放散はない。夜間痛があり、休んでも軽快しない。アセトアミノフェン、ナプロキセンを試したが痛みはよくならない。家族歴として叔父に脊椎関節症がある。バイタル正常。腰椎の痛みと可動域制限がある。仙腸関節には痛みはない。CRP 1.6mg/dl。骨盤、腰椎のレントゲンは正常。腰仙椎のMRIも正常。

 

問 診断に寄与する検査は?

A HLA-B27

B ヒト抗キメラ抗体

C 頸椎レントゲン

D リウマチ因子

 

①脊椎関節症

 この患者は45歳以下で慢性腰痛があり、軸椎の脊椎関節症が疑われるためHLA-B27の測定が推奨される。レントゲンやMRIで仙腸関節炎があれば、以下の所見のうち一つ以上該当すれば分類基準を満たす。すなわち、炎症性腰痛、関節炎、腱付着部炎、ブドウ膜炎、指炎、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎、NSAIDsへの反応良好、脊椎関節症の家族歴、HLA-B27陽性である。仙腸関節炎の画像所見がなくても、HLA-B27陽性で上記のうち二つ以上があれば分類基準を満たす。HLA-B27陽性は脊椎関節症の高リスクであり、有用性はセッティングによる。この患者は仙腸関節炎の所見はなかったが、炎症性腰痛、CRP上昇、家族歴があり、HLA-B27が陽性であれば分類基準を満たすため推奨される。

②他の選択肢

 ヒト抗キメラ抗体(HACAs)はインフリキシマブのような生物学的製剤使用者に見られ、インフリキシマブは脊椎関節症の治療として用いられる。関節リウマチなどで使用中であればHACAsが陽性となるがこの患者は使っていない。

 脊椎関節症は頸椎まで及ぶこともあるが、この患者は頸椎の症状がなく、レントゲンを撮る意義に乏しい。

 リウマチ因子は関節リウマチの80%で陽性となるが脊椎関節症には少なく、関節リウマチでは腰痛は起こらない。

 

POINT 分類基準としてのHLA-B27

Rudwaleit M, van der Heijde D, Landewé R, et al. The development of Assessment of SpondyloArthritis International Society classification criteria for axial spondyloarthritis (part II): validation and final selection. Ann Rheum Dis. 2009;68(6):777-783. PMID: 19297344

 

 

Q2

 56歳男性。生命保険のための採血検査で肝機能異常を指摘された。12週間前に脂質異常症に対し、シムバスタチンが開始されている。今までそれによる副作用はなく、嘔気、嘔吐、腹痛もない。血圧140/80、他のバイタルは正常。BMI 29。黄疸、肝脾腫、腹部圧痛なし。

 

問 適切なマネージメントは?

A シムバスタチン中止

B B/C型肝炎の抗体測定

C 腹部超音波検査

D 変更なし

 

①薬剤性肝障害のマネージメント

 脂質異常症に対するこの患者のマネージメントは変えなくてよい。また、肝機能の再検やスタチンのスイッチも必要ない。スタチンはHMG-CoAレダクターゼの阻害薬で肝酵素の上昇をきたすが、肝毒性や急性肝不全になるのは稀である。正常上限の3倍以下の肝酵素の上昇はスタチン内服者の3%に起こる。ALTの正常上限3倍以上やビリルビンの正常上限2倍以上で定義される肝毒性や急性肝不全は非常に稀である。FDAの推奨ではスタチン開始前に肝酵素測定を推奨している。肝機能障害は偶発的に見つかっており、スタチンによる肝酵素上昇は無症状で、治療開始後12週以内に起きやすく、一過性で薬剤を中止しなくても自然によくなる。これは肝細胞の透過性が増し、肝酵素の逸脱が起きるためと考えられている。病理学的な変化はなく、スタチン使用で全例に起きている現象で高容量だとより起きやすい。

②他の選択肢

 肝毒性が出ていれば中止してもよいが、慢性肝疾患患者やアセトアミノフェンとの併用などの薬剤相互作用があれば起きやすい。

 肝毒性があり、薬剤中止後も肝酵素上昇が続けばより精査を必要とする。コモンなものはC型肝炎、NASH、自己免疫性肝炎など。抗体や超音波はこのような状況で有用だが、結果が出るまでスタチンは続ける

 

POINT スタチンで肝酵素は一過性上昇

FDA Drug Safety Communication: Important safety label changes to cholesterol-lowering statin drugs. Additional Information for Healthcare Professionals. Available at: www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm293101.htm#hcp. Accessed June 7, 2012.

 

Q3

 21歳男性。定期外来受診。12年前にⅠ型糖尿病と診断され、最近のHbA1cは8.2%。2日前の午前3時、宿舎で痙攣を起こし、救急外来へ運ばれた。前日は十分に夕食を食べ、その後友人と3時間バスケットボールをした。その後、ビール醸造所でビールを3杯飲んだ。午後11時ベッドに入る前の血糖モニターでは血糖163mg/dlであった。救急外来での初めの血糖は28mg/dl。グルコース静注で完全に回復。普段はインスリンデテミル朝夕とインスリンアスパルトを毎食前に打っている。中肉中背の若者でバイタルは正常範囲、BMI 19。身体所見は特記所見なし。

 

問 適切な助言は?

A 夕方の運動をやめなさい

B お酒を飲むなら、弱いビールにしなさい

C 眠前に炭水化物を摂りなさい

D 夕方のデテミルとアスパルトをやめなさい

 

①夜間低血糖

 Ⅰ型糖尿病の低血糖管理。夕方運動をする時は眠前に炭水化物を摂るとよい。この患者は運動及び飲酒後数時間で低血糖を起こしている。激しい運動は筋肉内のグリコーゲン貯留を枯渇させる。眠前の血糖は低くなかったが、運動後も筋肉は血中からグルコースを吸い上げグリコーゲンとして貯留する。アルコールは肝臓から血液への糖放出を妨げる。これにより寝ている間に低血糖が起きた。眠前に炭水化物を含むお菓子を食べることで数時間後の低血糖を予防することができる。

②他の選択肢

 糖尿病の若年者に運動するなと言うのは合理的でなく不必要である。

 弱いビールでも肝臓の糖新生を妨げるには十分であり、指導するなら運動前は一切のアルコールを避けさせるべきである。

 両方のインスリンをやめることはナンセンスである。患者は低インスリン血症により朝まで高血糖となるだろう。

 

POINT 夜間低血糖には眠前炭水化物

Cryer PE. The barrier of hypoglycemia in diabetes. Diabetes. 2008;57(12):3169-3176. PMID: 19033403

 

  

Q4

 58歳男性。3年前から掻痒感、痂皮を伴う皮疹。斑点のようなものから始まったが、ここ数ヶ月で増悪し全身に拡がった。既往歴は高血圧のみで5年間リシノプリルを飲んでいる。バイタルは正常。全身の90%以上を紅斑が占めている。脱毛、爪、手掌足底の肥厚、爪の変形があり、全身のリンパ節が腫れている。

Figure 57.

(MKSAPより)

 

問 診断は?

A 皮膚T細胞性リンパ腫

B 薬剤性過敏反応

C 膿疱性乾癬

D ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)

 

①紅皮症の鑑別

 最も考えられるのは皮膚T細胞性リンパ腫である。タイ表面積の90%以上を占める紅斑を紅皮症という。紅皮症の原因は薬疹、乾癬、アトピー性皮膚炎、皮膚T細胞性リンパ腫等があるが原因不明の場合もある。皮膚T細胞性リンパ腫は様々な表現型があり、斑点、粥腫、腫瘍、紅皮症等である。脱毛、爪、手掌足底の肥厚、爪の変形は経過が長いことを示唆している。紅皮症を見たら生検でHE染色をルーチンで行うが、原因がわかるのは50%程度で、繰り返し生検することが推奨される。

②他の選択肢

 リンパ腫以外の選択肢はどれも発症が急性であり3年は長すぎる。

 薬剤性過敏反応は新規薬剤開始後3-6週で起こり、起こしやすい薬剤はアロプリノール、抗痙攣薬、ダプソン、NSAIDs、サルファ剤、ラモトリギンである。顔面浮腫、頚部リンパ節腫脹、肝脾腫を認めることもある。

 乾癬の既往がありコルチコステロイド投与を行っていた患者ならば、ステロイド中止後数日から数週で膿疱性乾癬のフレアがあってもおかしくない。

 SSSSは6歳以下の小児に多いが、成人でも免疫不全や急性腎不全があれば起こりうる。口周囲の痂皮や裂傷が特徴的で間擦部にも起きる。臨床診断で怪しい場所から黄色ブドウ球菌が分離される。

 

POINT 長期の紅皮症は生検を繰り返す

Khaled A, Sellami A, Fazaa B, et al. Acquired erythroderma in adults: a clinical and prognostic study. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2010;24(7):781-788. PMID: 20028449