栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

デスカンファ:嵐のような毎日だからこそ・・・

デスカンファレポート、診療所のT先生登場です。
よろしくお願いします〜。


お久しぶりです。
毎月3回程度はデスカンファレンスに参加しているので、もっと頻繁に記事を書けばよいのですが、、、。
今回も素晴らしいカンファレンスでした。

 

取り上げた方は独居の男性Aさんです。
【経過】
状態悪化で急性期病院に入院。
悪性腫瘍の診断で入院し治療も受けました。
独居生活であること、断酒に至っていないアルコール依存症があること、認知機能低下も進行していることなどがスムーズな自宅退院の邪魔をしていたようです。
入院生活が長引くなかでスタッフへの暴力など入院生活継続が困難と判断される出来事もあり、少し緊急的な形で精神科を主とする病院に転院となりました。
その後、しばらくして自宅に帰ることはなく転院先病院で亡くなられました。
臨床倫理の4分割法での情報整理は以下のようになりました。

【医学的適応】
・悪性腫瘍:根治はしていないが末期の判断は未。
・認知症:病型不明、アルコール性やアルツハイマー型か?
・アルコール依存症:退院後に断酒継続出来る見通しは立たず。
・せん妄状態、感情の爆発、無断離棟、無断離院、他の患者さんの部屋に入るなどみられる。

【意向】
Aさん:自宅アパートへ退院希望
           家族の関わりを拒否した経緯がある。
家族:基本的には関わり拒否。
知人:不明

【周囲の状況】
・関わる家族なし
・介護保険申請済
・アパート
・訪問する友人、知人あり
・近所付き合いあり

【QOL】
・入院中は過ごしやすいように個室対応
・転院先では喫煙再開

(※情報は個人情報に配慮しています)

【もやもや(ジレンマ)】自宅退院できたのでは?
【ディスカッション】
さて、この人は自宅退院が可能だったでしょうか?
カンファレンスの中では、継続出来るかは別として、支援体制を組んで一旦自宅退院は可能だっただろうとの意見が複数でました。
一方で、断酒継続は困難だろうとの意見も出されました。

では、なぜ帰れなかったのでしょう?
振り返ってみると、どの時点からかはわかりませんが、自宅退院の方向性が話題に上がることは無くなっていたようです。
因みに病気としてはもっと困難な状況の方でも本人の希望があれば退院を実現してきた病棟です。

なぜ、このチームで自宅退院の話題が消えたのか?
自宅退院可能とは行っても支援体制の構築は容易ではありません。
その一方で、毎日本人と向き合う看護師さん達の日常はまさに嵐のようでした。
「今日、Aさんとどう向き合うか?」で奔走していました。
その中で、少し先の療養生活の目標をどうするかは話題にあがらなくなっていったものと思います。

「毎日大変。」と思うのは、少し立ち止まって考えた方が良いよ、というサインなのかも知れませんね。

「嵐のような毎日。だからこそ、Aさんの意向に戻って考えよう!」

いくつか、課題としては
・思考停止をどうやって打破するか?
・生命の軌跡を認識して共有できていたか?
などがあげられました。

【感想】
個人的には、
・転院先では比較的穏やかに過ごし、好きなタバコを少し吸うことができた。
・熱心に、粘り強く、Aさんに尊厳をもって接し続けた医療チームに出会えた。
など、AさんのQOL向上につながった事もあったと思いました。
また、アルコール依存症の側面からは入院していたことで断酒が継続できたという事も良い側面として数えられるのではないかとおもいます。

今回のカンファレンスは半分くらいが医師、しかも急性期病院の中堅以上の医師が多かったのも特徴でした。
その医師達は、看護師さんのもやもやを素直に受け止めて、医学的適応の項目だけにとらわれないAさんの人生に寄り添おう、理解しようとする質問や意見を出してくれました。

素晴らしい医療チームだなとあらためて思えたカンファレンスでした。

小澤竹俊の緩和ケア読本―苦しむ人と向き合うすべての人へ

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