栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:妊娠中の頭痛/原発性頭痛症候群/APL

さて。最近救急診てても悪性腫瘍が多い気がします。Q3のような人が現れたらただただ慌てふためきますね。

 

Q1

 29歳女性。1週間前に新規発症した重度の頭痛。進行性の倦怠感、めまい、脱力感、関節痛、嘔気を伴っている。妊娠28週で今まで2経妊1経産。妊娠前までは正常月経で困難感なし。橋本病の既往があり、レボチロキシンとマルチビタミンを飲んでいる。顔面蒼白、血圧96/50、脈拍90、呼吸数14。視野異常なし。クッシング症候群や末端肥大症の所見はない。頭部MRIでは対称性で均質なトルコ鞍の15㎜大のマス。視交叉へ伸びているが圧迫はない。静脈洞にも浸潤していない。

Laboratory studies:

Adrenocorticotropic hormone

<5 pg/mL (1 pmol/L)

Cortisol (8:00 AM)

7.9 µg/dL (218 nmol/L) (normal, 5-25 µg/dL [138-690 nmol/L])

Prolactin

55 ng/mL (55 µg/L)

Thyroid-stimulating hormone

1.9 µU/mL (1.9 mU/L)

Thyroxine (T4), free

1.3 ng/dL (17 pmol/L)

 

問 診断は

A 頭蓋咽頭腫

B リンパ球性下垂体炎

C プロラクチノーマ

D シーハン症候群

 

①妊娠中の頭痛

 リンパ球性下垂体炎は下垂体の対称性腫大を伴う稀な自己免疫性疾患である。通常は妊娠中か出産後に起きる。抗下垂体抗体が見つかる可能性もあるが、ルーチンで測定するものではない。リンパ球性下垂体炎は下垂体機能低下症の稀な原因であり、中枢性副腎不全をきたす。ACTHの分泌低下が起こりやすく死亡の原因となる。この患者はグルココルチコイドによる治療をすべきであり、腫瘍の縮小が望める。視野障害が進展してくれば手術も考慮する。

②他の選択肢

 頭蓋咽頭腫は稀で、不均質な固形と嚢胞の混ざった腫瘍であり、しばしば石灰化を伴う。この患者は好発年齢で下垂体機能低下症や尿崩症を引き起こすが、画像所見が違う。

 プロラクチノーマは妊娠中に腫大し、プロラクチンが500ng/mlを超え、大きさは10㎜を超える。この患者の腫瘍のサイズではもっとプロラクチンが高値となるはずである。プロラクチンが高値なのは妊娠状態を反映しているに過ぎない。妊娠中の下垂体腫大が下垂体機能低下やマスエフェクトを起こすことはない。

 シーハン症候群は出産の合併症として下垂体の梗塞や出血が起きる疾患である。

 

POINT 妊娠中は高PRL+下垂体腫大

Molitch ME, Gillam MP. Lymphocytic hypophysitis. Horm Res. 2007;68(Suppl 5):145-150. PMID: 18174733

 

Q2

 45歳男性。2週間前から繰り返す頭痛。重度の片側頭痛で眼窩周囲から側頭部にかけての痛み。30-45分持続し、頭痛側に流涙と鼻汁を伴っている。仰臥位で増悪するため部屋の中を行ったり来たりしている。3年前も同様の頭痛があったが、CTでは特記所見がなかった。4年前に高血圧の診断を受けアムロジピンを内服中。20パックイヤーの喫煙者。母は片頭痛の既往がある。体温37.2℃、血圧140/90、脈拍84、呼吸数14。身体所見上、特記所見なし。

 

問 急性期の適切な治療は

A アモキシシリン

B 経口スマトリプタン

C 酸素

D ベラパミル

 

①原発性頭痛症候群

 群発頭痛を診断し酸素を投与せよ。患者の繰り返す頭痛は群発頭痛の診断基準を満たす。片側眼窩周囲から側頭部の重度の痛みで15-180分持続し、流涙や鼻汁、焦燥感のような自律神経症状を伴う。男性、喫煙者が危険因子である。6-8週持続し、2-6ヶ月の間欠期があると言われるが、患者間の差は大きい。スマトリプタンの皮下注は臨床研究に乏しく、酸素投与が安全性が高く急性期の治療として適している。酸素はマスクで10L/分を10分間投与し、75%以上の患者に効果がある。

②他の選択肢

 アモキシシリンは副鼻腔炎による頭痛でないと効果はない。最近のレビューでは10日までは抗生物質と経過観察に差はないとされている。この患者は膿性鼻汁もなく副鼻腔炎らしくない。

 スマトリプタンの皮下注と経鼻投与は群発頭痛に効果的だが内服は効果が示されていない。ゾルミトリプタンは皮下注と経鼻投与で効果があるが、心血管リスクのある患者(コントロール不良の高血圧や喫煙)では注意を要する。

 ベラパミルと経口ステロイドは群発頭痛の予防に有効だが、急性治療には向いていない

 

POINT 群発頭痛にはまず酸素

Cohen AS, Burns B, Goadsby PJ. High-flow oxygen for treatment of cluster headache: a randomized trial. JAMA. 2009;302(22):2451-2457. PMID: 19996400
 

Q3

 40歳男性。発熱、貧血、血小板減少で入院した。急性前骨髄球性白血病(APL)の診断を受け、ATRA、シタラビン、イダルビシンで治療を開始された。入院後、血液製剤の使用はあったがここ48時間はない。24時間前から呼吸困難感、微熱、下肢浮腫が出現している。胸痛や咳嗽はない。体温37.2℃、血圧102/50、脈拍102、呼吸数16。入院して体重が5.4㎏増えた。SpO2 92%(RA)。経静脈怒張はない。脈は整で頻脈。両側肺底部にラ音聴取。下肢は膝下まで浮腫を認める。レントゲンでは両側びまん性の肺間質影、胸水を認める。

Laboratory studies:

Hemoglobin

9.6 g/dL (96 g/L)

Leukocyte count

184,000/µL (184 x 109/L) compared with 30,000/µL (30 x 109/L) on admission

Platelet count

45,000/µL (45 × 109/L)

Creatinine

2.1 mg/dL (185.6 µmol/L)

 

問 診断は

A ATRA症候群

B 心不全

C 肺炎

D TRALI

 

①ATRA治療中のoverload

 この患者はATRA症候群である。ATRAはPML/RARα蛋白の機能を阻害し細胞を分化させる。これにより寛解導入が達成でき80-90%が治癒する。APLの患者にATRAもしくはarsenic trioxideによる治療を行うと25%にATRA症候群が起こる。メカニズムとして考えられているのは、未分化な骨髄細胞の分化によって、サイトカインや他の物質が生まれ、毛細血管の透過性を亢進することである。発症には二峰性があり、47%は投与後1週間目に起こり、25%は3週間目に起きる。呼吸苦、末梢浮腫、体重増加、発熱、低血圧、急性腎障害が起き、胸水や心嚢水も起きうる。デキサメサゾンで治療できるため早期に認識する必要がある。

②他の選択肢

 心不全では発熱や腎障害が説明できない。また、頸静脈怒張やⅢ音がない。

 肺炎を除外するのは、難しく、両者を見据えて治療を開始することも多い。臨床的には毛細血管透過性の亢進が前面にありATRA症候群がより考えやすい。

 TRALIでは発熱、呼吸苦、肺浸潤影は出るが、浮腫や体重増加、腎機能障害は起こさない。また血液製剤使用後48時間以上経っている。

 

POINT ATRA症候群にはステロイド

Montesinos P, Bergua JM, Vellenga E, et al. Differentiation syndrome in patients with acute promyelocytic leukemia treated with all-trans retinoic acid and anthracycline chemotherapy: characteristics, outcome, and prognostic factors. Blood. 2009;113(4):775-783. PMID: 18945964