栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:急性の認知機能低下/polydrops?/アリゾナってどの辺?

最近正解率高くなってきた気がします。点眼の副作用は気づきにくいかもしれないですね。では始めます。

 

Q1

 58歳男性。救急外来に意識障害で搬送された。家族曰く、ここ5週間は、日に日に引きこもりがちになり、いらいらしていて、時に怒りが爆発し暴力を振るうこともあった。ぴくつくような運動も認め徐々に悪化している。着替えや食事、入浴はもはや自身でできない。会話には参加せず、意思や要求を表明することもなくなった。家族を含め誰が近付いても好戦的になった。既往歴はなく、仕事もしていた。33パックイヤーの喫煙者で毎晩マティーニを飲んでいたが5週間前からやめた。内服薬なし。診察には協力せず、だらしなく、具合悪そうに背を丸めている。バイタルサイン正常。患者は検者を目で追いかけ、恐怖を感じると瞬きをする。眉間反射、口とがらせ反射、手掌おとがい反射、両側把握反射が陽性であった。やせ型だが筋力低下はない。ピンプリックの刺激で手を引っ込める。検者の手を引き離そうと強く握る。頭部MRIは正常。

 

問 診断は

A アルツハイマー病

B クロイツフェルト・ヤコブ病

C 前頭側頭型認知症

D ヘルペス脳炎

 

①急性の認知機能低下

 患者はミオクローヌスを伴う急速進行性の認知機能低下があり、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が疑われる。最も特徴的なのは精神退行と人格変化が5週間で進行してきたことである。外傷、中毒、感染、発熱がなく、この認知機能と行動の変化を起こしうる疾患は、CJDか腫瘍随伴症候群としての辺縁系脳炎の二つである。CJDは炎症反応を欠く海綿状脳症であり、画像所見に乏しい。

②他の選択肢

 患者の年齢と急速な経過からアルツハイマー病は否定的である。

 前頭側頭型認知症は症状が類似するが経過はもっと長い。

 ヘルペス脳炎では発熱、頭痛、言動の変化、記憶障害、脳神経障害、痙攣が起こりうる。MRIのT1強調像では側頭葉の浮腫や出血、低吸収域、粗造な構造変化が起きる。両側性の変化はヘルペス脳炎に特徴的であるが時間が経って出てくる。

 

POINT CJDは疑うところから

  • Rosenbloom MH, Atri A. The evaluation of rapidly progressive dementia. Neurologist. 2011;17(2):67-74. PMID: 21364356

 

Q2

 70歳男性。6ヶ月前から活気がなくなり性欲も減退した。抑うつ症状や興味の喪失はない。緑内障と高血圧の既往があり、この1年視力低下のため眼科での薬剤調整が繰り返し行われていた。使用薬剤はチモロール点眼、ラタノプロスト点眼、ドルゾラミド点眼、リシノプリル、アムロジピン。体温37.6℃、血圧138/84、脈拍48、呼吸数12、BMI 28。徐脈以外、身体所見上の異常はなく、心電図では洞性徐脈であった。

 

問 中止すべき薬剤は

A アムロジピン

B ドルゾラミド

C ラタノプロスト

D チモロール

 

①polydrops?

 チモロールを中止すべきである。緑内障は高齢者の失明の原因として多く、眼圧が上昇し視神経を障害する。局所投与、全身投与ともに様々な薬剤があり、眼房水の流入を減らすか流出を増やすことで効果を発揮する。チモロールは流入を減らし忍容性が高いが、全身に副作用が及ぶこともある。多いのは、伝導ブロックや洞性徐脈、低血圧である。ほとんどの副作用は用量を減らしたり、中止したりすることで改善する。他にも気管支攣縮や性欲減退、中枢性の抑うつや気分変調症をきたすこともある。

②他の選択肢

 アムロジピンは降圧薬であり、主な副作用は低血圧、末梢浮腫、めまい、頭痛である。1%未満、ごく稀に徐脈が起こることもあるが関連性は証明されていない。

 炭酸脱水素酵素阻害薬は経口、点眼ともに使用され、眼房水の流入を減らして眼圧を下げる。ドルゾラミドは点眼であり、全身投与のアセタゾラミドで起きるようなアシドーシス、疲労感、多毛、下痢、悪液質のような副作用が起きにくい。

 ラタノプロストはプロスタグランジンアナログであり、眼房水の流出を増やす。インフルエンザのような症状や筋肉痛が起こりうる。

 

POINT 点眼薬の副作用もお見逃しなく

  • Fogagnolo P, Rossetti L. Medical treatment of glaucoma: present and future. Expert Opin Investig Drugs. 2011;20(7):947-959. Epub 2011 May 3. PMID: 21534887
 

Q3

 25歳女性。1週間前から咳嗽、発熱、四肢伸側の有痛性結節、膝と足関節の関節痛。症状はアリゾナ砂漠に休暇で行ってから3週間後に起きてきた。体温39℃、血圧100/60、脈拍110、呼吸数18。左肺底部背側に断続性ラ音とヤギ音聴取。関節液は溜まっていない。

Figure 35.

(MKSAPより)

採血上は血沈70mm/hで血算正常範囲。胸部レントゲンでは左下肺野に浸潤影と同側肺門部リンパ節腫脹。喀痰のグラム染色は陰性。

 

問 病原菌は

A ブラストミセス

B コクシジオイデス

C ヒストプラズマ

D スポロトリコーシス

 

①アリゾナってどの辺?

 この患者は急性のコクシジオイデス感染症である。アメリカ合衆国の南西部から中央、南部の砂漠地帯で流行している。急性感染者の半数程度しか医療機関を受診していないと推定されている「谷熱(valley fever)」として知られ、亜急性の呼吸器症状と発熱、倦怠感のような全身症状を来し、数週から数ヶ月持続する。一部の患者は関節症状があり、「砂漠のリウマチ(desert rheumatism)」とも呼ばれる。四肢伸側にできる赤い結節も急性のコクシジオイデス感染症に特徴的である。免疫正常者でも感染し、細胞性免疫が落ちているとかかりやすい。アメリカ先住民やアフリカ人、フィリピン人は重症化しやすい。ルーチンの採血では血沈高値以外に異常を認めない。非特異的な症状が多いため、病歴聴取と特異的な検査が重要である。潜伏期間は1-3週間。培養は最も感度の高い診断的検査だが、胞子の同定の方が早い。血清学的検査も出回っている。

②他の選択肢

 ブラストミセスとヒストプラズマはともに肺炎や紅斑を引き起こすが、ブラストミセスはミシシッピ川やオハイオ川流域、大きな湖の周囲に多い。診断はKOHや細胞病理学的方法を用いて喀痰や組織に基部の広い発芽する病原体を見つけることである。ヒストプラズマもオハイオ川とミシシッピ川に囲まれる地域に多く、標本で胞子のない酵母様真菌を確認する。比較的小さい。

 スポロトリコーシスが肺炎を起こすことは非常に稀であり、紅斑も稀である。肺スポロトリコーシス症では湿性咳嗽、肺結節、気腫、線維化、肺門部リンパ節腫脹を来し、ゆっくり進行する。胞子は産生しない。

 

POINT アメリカの砂漠に潜む悪魔

  • Ampel NM. New perspectives on coccidioidomycosis. Proc Am Thorac Soc. 2010;7(3):181-185. PMID: 20463246