栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:LQTS/重度COPD/ヘモクロマトーシス

DSM-5®の~せよというのが個人的に好きなので今回使ってみました。あとLTOTと言うと通っぽくてgoodですね。始めましょう。

 

Q1

 87歳女性。3日前に大腿骨頚部の手術をした。入院中、尿路感染症、発作性心房細動にかかり、せん妄状態にもなった。発作性心房細動の既往があり、入院前まではアスピリンしか飲んでいなかった。最近の内服薬はジゴキシン、ジルチアゼム、トリメトプリム、ハロペリドール、エノキサパリン。発熱なし。血圧135/88、脈拍63。

Figure 73.

(MKSAPより 上がベースライン、下が今回)

 

問 心電図変化を引き起こした薬剤は

A ジゴキシン

B ジルチアゼム

C エノキサパリン

D ハロペリドール

E トリメトプリム

 

①LQTを引き起こす薬剤

 院内でのTdPのリスクを評価せよ。この患者はせん妄に対して処方されたハロペリドールによりQTが著しく延長している。ハロペリドールはカリウムチャネルを阻害し、脱分極を遅らせる。この心電図ではV2-3のQTが明らかに延長している。ベースラインではQRSの始まりとT波の終わりで測って410msec、心拍数で補正すると436msec。今回の心電図では520msec、補正で533msec。QT延長の副作用のある薬を使用中でQTが500msec以上、延長が60msecを超えている場合はTdPのリスクを考え薬剤を中止すべきである。カリウム、マグネシウムの値は測定すべきであり適宜補正する。他のQT延長の危険因子は、高齢、女性、複数のQT延長薬剤の使用、肝代謝の低下、徐脈、PVC頻発、QT延長の既往である。

②他の選択肢

 ジゴキシン濃度が上昇すると、促進性房室接合部調律、心停止、心房頻拍、種々のブロック、PVC、VT、VF等の様々な不整脈が起きる。

 ジルチアゼムは種々のブロック、洞性徐脈を引き起こす。

 エノキサパリンとトリメトプリムは高カリウム血症は引き起こすが直接的に伝導には影響しない。

 

POINT QT延長を見たら薬剤チェック

  • Drew BJ, Ackerman MJ, Funk M, et al; American Heart Association Acute Cardiac Care Committee of the Council on Clinical Cardiology, the Council on Cardiovascular Nursing, and the American College of Cardiology Foundation. Prevention of torsade de pointes in hospital settings: a scientific statement from the American Heart Association and the American College of Cardiology Foundation [erratum in Circulation. 2010;122(8):e440]. Circulation. 2010;121(8):1047-1060. PMID: 20142454

 

Q2

 72歳女性。定期受診。重度のCOPDがあり急性増悪を繰り返している。常に息切れがあり、運動耐容能は低下している。咳嗽はなく、喀痰の増加は見られない。薬のアドヒアランスはよく、1年前から呼吸器リハビリも受けている。1年前に禁煙し、現在の使用薬剤はブデソニド・ホルモテロール、チオトロピウム、必要時のアルブテロール。脈拍94、呼吸数26。聴診上、呼吸音減弱はあるが喘鳴はない。SpO2 86%(RA)。1秒率26%、%肺活量41%。

 

問 適切なマネージメントは

A 経口抗菌薬

B 酸素投与

C プレドニゾン

D 呼吸器リハビリを繰り返す

 

①重度COPD

 適切なマネージメントは長期酸素療法(LTOT)である。この患者のSpO2は室内気で86%である。LTOTの開始基準はpO2<55mmHg、SpO2<88%である。安静時の低酸素血症がある患者は1日15時間以上の酸素投与をすべきである。慢性呼吸不全の患者に用いると、生存率、血行動態、血液学的変化、運動耐容能、意識状態、注意力、瞬発力、握力に改善が見られる。運動中に使用すると、忍耐力や運動後の息切れの軽減が見られるという研究もある。夜間酸素療法試験(NOTT)では、夜間のみの酸素投与より持続投与の方が生存率を上げることが示された。低酸素血症がなく、運動時や夜間の低酸素がない患者での必要時酸素療法の効果は明らかではない。

②他の選択肢

 急性増悪ではないので抗菌薬とプレドニゾンは不要である。

 呼吸器リハビリを繰り返すことは効果があるかもしれないが、安静時低酸素のあるこの患者で次にすべきは酸素投与だろう。

 

POINT HOTではなくLTOT

  • Stoller JK, Panos RJ, Krachman S, Doherty DE, Make B; Long-term Oxygen Treatment Trial Research Group. Oxygen therapy for patients with COPD: current evidence and the long-term oxygen treatment trial. Chest. 2010;138(1):179-187. PMID: 20605816

 

Q3

 45歳男性。生命保険のための健康診断で肝機能障害を指摘された。既往歴、内服薬なし。体温36.9℃、血圧124/82、脈拍88、呼吸数14、BMI 26。皮膚に色素沈着あり。腹部平坦軟、圧痛なし。肝脾腫なし。腸蠕動音亢進。

Laboratory studies:

Hematocrit

48%

Alanine aminotransferase

60 units/L

Aspartate aminotransferase

80 units/L

Total bilirubin

1.2 mg/dL (20.5 µmol/L)

Ferritin

1100 ng/mL (1100 µg/L)

Iron

200 µg/dL (36 µmol/L)

Total iron-binding capacity

240 µg/dL (43 µmol/L)

HFEのゲノタイプはC282Yの遺伝子変異をホモで認めた。 腹部超音波では異常なし。

 

問 次の一手は

A 鉄キレート療法

B 肝生検

C 瀉血

D 経過観察

 

①ヘモクロマトーシス

 遺伝性ヘモクロマトーシスをマネージメントせよ。この患者は遺伝性ヘモクロマトーシスであり、著しい鉄過剰がある。C282Yのホモの遺伝子変異がある患者の50%で鉄過剰が起きるが、ヘモクロマトーシスの合併症で死亡するのはそのうち20-60%である。不完全な遺伝的浸透率に関しては完全には解明されていない。肝硬変があるかどうかは重要であり、今後肝細胞癌や門脈圧亢進症に移行する可能性がある。肝硬変があれば、食道静脈瘤や肝細胞癌等の合併症の精査をする。肝硬変のリスクは、40歳以上、フェリチン1000以上であり、あれば肝生検を考慮する。この患者はどちらにも当てはまるので、肝硬変や肝繊維化の確認ために肝生検を実施すべきである。

②他の選択肢

 鉄過剰による臓器障害が出ている患者は治療を必要とする。最も効果的な治療は瀉血である。鉄キレート療法は鉄を除去するのに有用であるが、瀉血の方が安全で安価であり、効果も期待できる。この患者は治療を開始する前に肝生検を行い、肝臓への鉄沈着や肝障害の程度を見る必要がある。

 無症状でフェリチンが50を切っており、鉄過剰による臓器障害が出ていなければ経過観察が可能である。このような患者では、年1回、病歴、身体所見で臓器障害の有無を調べ、血清鉄、フェリチン、TSATを測定する。もし、患者にホモの遺伝子変異があり鉄過剰が証明されていれば、臓器障害の予防のために瀉血は選択肢となるかもしれない。

 

POINT 診断ではなく治療のための肝生検

  • Pietrangelo A. Hereditary hemochromatosis: pathogenesis, diagnosis, and treatment. Gastroenterology. 2010;139(2):393-408. PMID: 20542038