栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:転倒リスク評価/若年女性の紫斑/再発性性器ヘルペス

転倒の方向から鑑別はしぼれるんですね。そしてシドホビルの副作用が粘膜潰瘍という本末転倒な感じ。いい問題だ。

 

Q1

 68歳女性の転倒リスクを評価しよう。患者はここ半年で3回後ろ向きに転倒している。身体の不安定感は自覚しており、手すりが手放せなくなっている。他の不調はなく内服薬もない。バイタル正常。歩く時は足は閉じており、姿勢は前かがみ、手の振りは小さい。

 

問 これからの転倒を予測する上で最も正確な身体所見は

A Dix-Hallpike試験

B 位置覚検査

C Pull試験

D Romberg試験

 

①転倒リスク評価

 転倒リスクを予測せよ。Pull試験は後ろ向きに転倒した患者の転倒リスクを評価する最も有用な方法である。方法は患者を検者の前に立たせ、重心がずれる強さで後ろに引っ張ることを予告して実行する。正常な反応は後ろにステップを踏むことである。パーキンソニズムに特徴的な姿勢保持反射障害がある患者は後ろにステップを踏めず倒れるので検者は支える。時に患者は効果の乏しいステップを細かく踏むこともあるが、いずれにしても転倒のリスクであり、Pull試験陽性で最も考えられる原因はパーキンソン病ないしパーキンソニズムである。

②他の選択肢

 Dix-Hallpike試験はめまいの原因として末梢性と中枢性を鑑別するのに役立つ。患者は頭を左右(45°の角度)に傾け素早くベッド上に横になる。手技によって10-20秒のめまいが誘発されれば前庭系のめまいが示唆される。この患者はそもそもめまいがない。

 近位筋の筋力低下はしばしばミオパチーを示唆する。患者は椅子から立ち上がったり、階段を昇ったり、肩より上に腕を挙げたりすることが困難になるが後ろ向きに倒れることはめったにない。位置覚検査は関節の向きや動きを検査し、消失があれば末梢神経障害、脊髄疾患、片側大脳皮質疾患を考える。このような患者では足を高く上げるような歩行をしたり、叩きつけるようなステップをするものである。

 Romberg試験は足をつけて閉眼させることで失調や深部覚障害を見つける試験である。患者が傾いたりバランスを失う場合は陽性と見なす。陽性の時は失調であることはわかるが、すべての失調は視覚欠如の状態で悪化するので責任病巣まではわからない。ただしつぎ足歩行ができない場合は小脳、小脳路、前庭系の異常である。

 

POINT 後方転倒にはPull試験がマスト

  • Munhoz RP, Li JY, Kurtinecz M, et al. Evaluation of the pull test technique in assessing postural instability in Parkinson's disease. Neurology. 2004;62(1):125-127. PMID: 14718714

 

Q2

 20歳女性。両下肢の皮疹で救急外来を受診。皮疹は足首から臀部まで。全体的に無症状だが、一部の皮疹は押すと痛い。皮疹は3日前からで、随伴症状として手首と足首の痛み、嘔気・嘔吐・便秘のない軽度の腹部不快感がある。皮疹の出る1週間前に自宅で咽頭痛と発熱があった。咳なし。性交渉は一人のパートナーとのみ。体温38℃、血圧142/82、脈拍、呼吸数正常。足首から臀部にかけて丘疹が両側性にあり、足首は少し浮腫んでいる。咽頭後壁には浸出液のある発赤、腹部は全体に圧痛あり。手首、直腸診では異常を認めなかった。

Laboratory studies:

Leukocyte count

12,500/µL (12.5 × 109/L)

Urine dipstick

Positive for moderate blood and trace protein

Microscopic urinalysis

20-50 erythrocytes/hpf 10-20 leukocytes /hpf

Rapid streptococcal antigen test

Positive

 Figure 42.

(MKSAPより)

 

問 診断は

A 播種性淋菌感染症

B IgA血管炎

C Sweet症候群

D SLE

 

①若年女性の紫斑

 IgA血管炎を診断せよ。患者は溶連菌感染後にいわゆる触知可能な紫斑を呈しており、これは皮膚小型血管炎の所見である。関節痛、腹痛、尿検査異常は全身性の血管炎を考える所見である。IgA血管炎は皮膚小型血管炎または白血球破砕性血管炎の一型であり、小児や若年成人に発症しやすい。しばしば溶連菌感染後に起きる。遅れて腎障害が出ることがあり、密なフォローと長期のモニターが必要である。

②他の選択肢

 播種性淋菌感染症は発熱、腱滑膜炎、関節炎、皮疹が特徴的で、皮疹は易出血性の膿疱である。

 Sweet症候群は好中球性の皮膚炎であり、明るい発赤、境界明瞭で発熱を伴う。一部の皮疹は水疱や潰瘍を形成する。特発性のこともあるが、背景に血液悪性腫瘍があることもある。この患者は好中球増加はあるが他の所見が説明できない。

 皮膚小型血管炎はSLEでも起こりうるが、溶連菌感染とは無関係である。

 

POINT 触知可能な紫斑は皮膚の血管炎

  • Chen K, Carlson JA. Clinical approach to cutaneous vasculitis. Am J Clin Dermatol. 2008;9:71-92. PMID: 18284262

 

Q3

 32歳男性。繰り返す陰部ヘルペスの評価でフォローしている。ここ8ヶ月で3回の再発があり、陰茎と肛門周囲に有痛性水疱が形成された。前回はアシクロビルに反応し病変は治癒した。10年前にHIVに感染しART療法をしていたが副作用のため1年前に中断した。CD4細胞は30/μlで、内服薬はST合剤のみ。発熱なし。血圧130/70、脈拍80、呼吸数14。最近は陰部ヘルペスの徴候はない。

 

問 ART療法を再開する以外に陰部ヘルペスの予防に使うべき薬剤は

A アシクロビル

B シドホビル

C ホスカルネット

D バルガンシクロビル

 

①再発性性器ヘルペス

 AIDSで免疫不全があり、性器ヘルペスを繰り返しているこの患者にはアシクロビルを投与する。病変が治癒した後も再発抑制療法としてアシクロビルを用いる。長期の再発抑制療法は年に6回以上の再発や重度の症状がある免疫不全者で適応がある。加えて免疫再構築による予防効果も期待してART療法は再開すべきである。

②他の選択肢

 シドホビルとホスカルネットは静注の抗ウィルス薬であり、アシクロビル耐性のヘルペス治療に用いる。シドホビルは外用薬もあり治癒を早めるが、粘膜潰瘍も起こしうる。静注薬は皮疹、好中球減少、腎障害も来しうる。ホスカルネットの副作用には腎不全、嘔気、しびれ、痙攣がある。

 バルガンシクロビルはガンシクロビルのプロドラッグでヘルペス属に対する広い抗ウィルス活性を持つ。サイトメガロウィルスの治療、再発抑制、予防に効果的。骨髄抑制を起こすことがある。

 

POINT HSVには単純にアシクロビル

  • Cernik C, Gallina K, Brodell RT. The treatment of herpes simplex infections: an evidence-based review. Arch Intern Med. 2008;168(11):1137-1144. PMID: 18541820