栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文:RetroCohort 日本の単一施設において急性虚血性脳卒中で入院した患者の経時的な神経所見記載の変化

日本の単一施設において急性虚血性脳卒中で入院した患者の経時的な神経所見記載の変化
Research Temporal changes in the documentation of neurological findings among patients with acute ischaemic stroke in a single centre in Japan: a retrospective cross- sectional study

BMJ Open. 2017; 7(12): e019480.

【目的】
 病院に入院した虚血性脳卒中患者を診療した担当医師の神経所見記載の経時的変化を評価することが目的。同時に内科医と脳外科医との間での神経所見の記載率の違いについても評価した。
【デザイン】後ろ向きのカルテレビュー
【患者】
 急性虚血性脳卒中で入院した成人で7日以上入院していた患者を対象とした。10人以上の患者を診療した医師を対象として、脳外科医8人、内科医19人が患者の診療にあたった。
【メインアウトカム】
 入院中のそれぞれの患者への神経所見の記載率をアウトカムとした。1日目〜7日目までは毎日行い、退院日も評価した。神経所見は、意識・精神状態・脳神経・運動機能・感覚機能・協調運動・反射・歩行の8つに分類した。今回同じ医師の記載のみを組み入れた。Fisher検定を用いて内科医と脳外科医のアウトカムの違いを評価した。
【結果】
 研究期間中に、172人の脳卒中患者が入院し27人の医師が診療にあたった。神経所見の記載率は、1日目 94%、2日目 58%、3日目 35%、4日目 40%、5日目 32%、6日目 30%、7日目 23%だった。退院日に8つの神経所見全ての所見に記載があったのは10%未満だった。退院日以外は、内科医の方が脳外科医よりも有意に神経所見記載率が高かった

f:id:tyabu7973:20180206005137j:plain(本文より引用)


【結論】
 急性期脳卒中患者の診療において、神経所見の記載率は入院3日を経過すると50%未満に低下するという結果だった。脳卒中患者において、神経所見の経時的変化は重要であり、3日目以降に特に神経所見記載率が低いことに関連する要因が内科医か脳外科医かという要因以外に、どんな要因が関連するかは更なる研究が必要である。

【批判的吟味】
・新規性は高い研究かなと思います。教科書的には、脳卒中患者では神経症状の経時的な変化が重要だといわれながら、どのくらい経時的に診察しているかが明らかになっていないので、報告してみたというものです。世界初?
・今回は、非専門医である内科医がというのも1つの切り口です。というのも過去の先行研究では、非神経内科医は診察を省いて画像を撮りたがるということは分かっています。
・神経内科医が不足しているという実情から非専門医である内科医が診察するという状況は世界的にもある様ですが、その診療の質評価が重要になります。後述するCaplan先生も教育はどうなってるんだ?ってレビューで確認していました。
・記録そのものをアウトカムにしていますが、本当に実際の診察がされたのか、そもそも診察が少ないことと患者アウトカムは関連するのか?という部分は不明です。もちろん、変化に早く気付けることは重要ですが。
・脳外科医の方が、記録記載が少なかったですが、内科医の平均年齢が32.8歳、脳外科医が41.9歳であることを考えると、何となく年齢や経験年数もそれなりの因子になっていそうです。それじゃあダメなんですが・・・
・内科も脳外科も担当している患者層は年齢・入院期間含めて似ていました
・サンプルサイズが少ない、単一医療機関であるなど病院固有の因子に左右される可能性が高いです
・そもそも電カルなのでコピペ問題もあるでしょうし、受け持ちの患者数によって医師毎の負担が違うのでは?という辺りも限界でしょうかね。
【個人的な意見】
 今回の論文は非常に興味深くて、病棟のチョコの半減率を彷彿とさせるBMJクリスマスネタだったのですが、敢えなくリジェクトだった様です。とはいえ、今回凄かったのは、かの有名な脳卒中業界の権威であるLR.Caplan先生に査読を依頼したところ、査読を引き受けて下さったところです。興味津々で色々質問して下さっています。
 Introductionの冒頭にC.Miller Fisher先生のコメント

        We learn about neurology stroke by stroke.

 が引用されていて、確かにそうだよなあ、という気持ちを新たにしましたし、Implication for clinical practiceのところでもFisher先生とレジデントのエピソードを通して、もう一度脳卒中を通して神経診察を学びましょう!と締めくくられているのが印象的でした。 脳卒中診療に携わる皆様の姿勢を正すための一本として是非お読みいただけると嬉しいです。

✓ 脳卒中で入院した患者の神経診察の記載率は3日目には50%以下になる