栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文:JAMAIM Retrocohort 中国武漢のCOVID-19肺炎患者のARDSや死亡のリスク因子

 さてCOVID-19肺炎を診る機会は徐々に増えていくことが予測されている昨今ですが、20%程度の肺炎例の中で急激に悪化していくARDS症例や死亡例が2-5%程度いるというのが、現在分かってきている情報です。

 本邦ではECMO症例からの回復者が比較的多く報告されており、場合によっては、このような重症患者をECMOが適切に回せるセンターに回す必要があるかもしれません。

 そういった意味で、ARDSや死亡に関連するリスク因子を知っておくことは重要になって来ます。今回世界に先駆けた中国武漢のリスク因子に関する報告です。プライマリアウトカムではないですが、ちょっと気になる結果が・・・まあ、後ろ向きですけどね・・・

中国武漢のCOVID-19肺炎患者のARDSや死亡のリスク因子
Risk Factors Associated With Acute Respiratory Distress Syndrome and Death in Patients With Coronavirus Disease 2019 Pneumonia in Wuhan, China

JAMA Intern Med. doi:10.1001/jamainternmed.2020.0994 Published online March 13, 2020.

【背景】
 コロナウイルス感染2019(COVID-19)は、中国の武漢で最初に報告された新興感染症であり、その後世界中に広がった。 COVID-19肺炎の臨床転帰の危険因子はまだ十分に明らかになっていない。
【目的】
 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)または死亡したCOVID-19肺炎患者の臨床的特徴と転帰を記述する。
【デザイン・セッティング・患者】
 2019年12月25日から2020年1月26日までに中国の武漢金銀潭病院に入院し、COVID-19肺炎が確認された201人の患者の後ろ向き観察研究。フォローアップの最終日は2020年2月13日だった
【暴露】
 確認されたCOVID-19肺炎
【メインアウトカム】
 ARDS発症と死亡。疫学、人口統計、臨床、実験室、管理、治療、および結果のデータも収集および分析された
【結果】
 201人の患者のうち、年齢の中央値は51歳(四分位範囲、43-60歳)、128人(63.7%)の患者が男性だった。 84人(41.8%)がARDSを発症し、そのうち44人(52.4%)が死亡した。
 
 ARDSを発症した患者では、発症しなかった患者と比較して、呼吸困難症状を訴えた患者がより多かった(84/50人 [59.5%] vs 30/117人[25.6%]、絶対差:33.9%[19.7%-48.1%])
 高血圧の頻度もARDS患者で多く、(23/84[27.4%] vs 16/117[13.7%]、絶対差:13.7%[95%CI:1.3%-26.1%])
 糖尿病の頻度もARDS患者で多く、(16/84[19.0%] vs 6/117[5.1%] 、絶対差:13.9%[95%CI:3.6%-24.2%])

 2変量Cox回帰分析で算出した危険因子は以下の通り。
■ARDS発生
・高齢    HR 3.26[95%CI:2.08-5.11]
・好中球増加 HR 1.14[95%CI:1.09-1.19]
・高LDH血症 HR 1.61[95%CI:1.44-1.79]
・D-dimer高値  HR 1.03[95%CI:1.01-1.04]
■ARDSから死亡への進行
・高齢    HR 6.17[95%CI:3.26- 11.67]
・好中球増加 HR 1.08[95%CI:1.01-1.17]
・高LDH血症 HR 1.30[95%CI:1.11-1.52]
・D-dimer高値  HR 1.02[95%CI:1.01-1.04]

 高熱(≧39°C)は、ARDS発症の可能性が高い(HR 1.77[ 95%CI:1.11-2.84])が、死亡の可能性が低い(HR 0.41[ 95%CI:0.21-0.82])ことと関連していた

 ARDS患者の中で、メチルプレドニゾロンによる治療は死亡リスクを低下させた(HR 0.38[95%CI:0.20-0.72])

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(本文より引用)

【結論】
 年齢が高いほどARDSの発症リスクが高くなり、免疫反応がより低下するために死亡する可能性が高い。高熱はARDSの発症と関連していたが、ARDS患者のより良い転帰とも関連していた。さらに、メチルプレドニゾロンによる治療は、ARDSを発症する患者にとって有益な場合がある。

【批判的吟味】
・論文のPECOは
P:中国武漢のCOVID-19肺炎 201例
E/C:患者属性や治療内容等
O:ARDSやARDSからの死亡
T:後ろ向き観察研究
・39℃以上の高熱が出た患者は38.3%、海鮮市場に出入りした患者が49.3%比較的初期のデータです。年末が大変だったんだなあと思います。
・発熱は93.5%、咳嗽81.1%、湿性咳嗽 41.3%、呼吸困難 39.8%、倦怠感・筋肉痛 32.3%
合併症は比較的少ない患者群です。
・治療内容は、酸素投与(経鼻:48.8%、非侵襲的 30.3%、挿管管理 2.5%、ECMO使用症例は 1例で0.5%
)だった。
・抗菌薬は97.5%で使用、抗ウイルス薬も84.6%、免疫調整薬(免疫グロブリン・チモシン・hG-CSF等)、ICU入室は21.9%
・白血球数 5940、好中球 4470、リンパ球 900、単球 330、血小板18万
・色々ありますが、兎にも角にも年齢が最もリスクになることがよく分かります。高齢は65歳以上を基準としており、65歳以上だと死亡リスクが6倍です。
・ステロイドの結果は驚きましたが、当然注意しなくてはいけません。少なくとも安易にステロイドいこう!ではないですからね。
・まずは、後ろ向き観察研究なので、治療効果を安易に評価しなくてはいけません。当然ステロイドを使用するにあたって多くの交絡因子があることを理解しましょう。特に交絡調整は十分されていない研究です。
・とはいえARDS群は通常重症ほどステロイドが投与されやすいことを考えると、ステロイド投与群の方が死亡が少なかったのは興味深い結果です。
ステロイドが推奨されなかった根拠は過去のSARSなどの治療経験で効果が無かったからですが、今回のCOVID-19に関してはこれまでのコロナウイルス感染症によるARDSとしては異なることがあるのかもしれません。
・もちろん、現時点でステロイド使用が推奨されるものではありませんが、日本のあちこちで急に飛びついた某吸入薬などよりは可能性があるのかもしれません。まあ、RCTが必要です!

【個人的な意見】
 生データとして非常に興味深い結果でした。高齢者は注意する必要があることがよく分かりました。また、高熱が出た方がARDSにはなるけど、死亡率が低いというのは色々考えさせられました

 もちろん、高齢者は重症化注意なのですが、一方で今回の患者群は最高齢75歳です。普段80歳代からが主戦場の我々としては、超高齢者の場合には更に厳しい可能性があること、場合によっては、侵襲的な人工呼吸器管理について十分話し合う必要性があるなと考えました。

✓ COVID-19肺炎ではARDSやARDS死亡に最も関連したのは年齢だった